45歳童貞、コミュ障フリーターが異世界で魔法使いに転生したらケモ耳ショタになった上、皇帝に囲われてしまいました。

篠崎笙

文字の大きさ
13 / 38
45歳童貞、異世界へ行く

俺氏、水道橋について物申す。

しおりを挟む
「わあ、」

巨大な水道橋だ! アーチ型の見事な建築物。
日本では熊本の通潤橋や、レンガで造られた京都の南禅寺にある水路閣が有名だ。


世界的に一番有名なのは、ローマ水道だろう。
紀元前312年から3世紀にかけて建築された水道で、レンガや石を組み、コンクリートを使って出来た橋の導水渠に水を流し、ローマの都市へ一日約3億ガロンもの水を供給していた。

高低差で運ぶが、これが非常に精巧に作られていて、効率よく大量の水を運んでいた。
高度な測量技術が発達していたことが伺える。

サイフォンの圧力を利用して窪地から水を上昇させたり、連続アーチ構造の水道橋を建設したり、不純物を沈殿除去する沈殿池もあったり、分水施設も作ったり。
メンテナンスのために一定間隔にマンホールを設置したりと、かなり考えられている。

都市の地下には長く巨大な下水道が彫られていて、マンホールから水が流れ、大雨が降ろうと対処できるほどであったという。


同水準の水道が建設されるのは、19世紀後半になってからだというから凄い。
ただし、分水施設から噴水や公衆浴場、個人宅へ配水する水道管が陶器だけでなく鉛管も使っていたため、鉛中毒の原因になったのが残念である。


「……配水の水道管に、鉛とか使ってないよね?」

ガイウスは片眉を上げた。
「昔は使っていたが、中毒になるので変えたそうだ」


ああ、やっぱり。
でも今は違うなら大丈夫か。

曲げ伸ばし等、加工が容易なので、日本でも使われていたんだよな。


*****


この水道橋で流す水は湖から引いていて。
主に風呂などの生活用水に使われているという。

飲料水は井戸水が主流だけど、雨季でないと水の出が悪い、と。

魔法で出せばいいんだろうけど。それじゃその場しのぎでしかないし。
この都市全体の水をまかなうには、普通の魔法使い数人でも魔力がもたない。


見たところ、この水路には沈殿池とかは無いようだ。
ただ、湖の水を国に運ぶためだけの装置だな。

それだけでも、凄い技術なんだけど。


「湖水を濾過して、飲料用水にできないかな」
「……ろか?」

おう。
濾過の概念自体無かったか。

魔法が発達してる分、科学や化学とかの知識が足らないのだろうか。
俺も大して無いけど。


「えーと、山に降った雨が、どうやって綺麗な湧き水になるかっていうと。火山灰や岩や土砂を長い時間をかけて通ることで、濾されて綺麗になるんだ」

地層によっては、カルシウムとかミネラルが付加されたりするけど。
逆に、土が汚染されていれば重金属など、毒が含まれてしまう。

「湧き水が川になって、海に流れて。気化して上空で雲になって、また雨になるわけ」
「ほう、そうなのか。自然とは、凄いのだな」


熱を加えて気化させて、蒸留した水でも綺麗にはなるけど。
イマイチ美味しくないんだよね。

一番下が砂利、砂、珪藻類による自然濾過が一番簡単かなあ?
活性炭も使えば臭い消しにもなるな。


「うーん、いっそ給水口に浄化槽を取り付けたほうが早いかも……」

「ちょっと待ってくれ。今、按察官アエディリスを呼ぶから、さっきの話をしてやってくれ」
ガイウスは、控えていた兵士に合図を出した。


按察官あんさつかんは造営官ともいって、都市機能や公共建築の管理をする役職だ。
他には流通、物価など、祭儀も管理する。
仕事が色々あって大変だな。


*****


「陛下、水道橋に何か問題でもありましたか?」

栗毛の馬に乗って駆けつけたのは、濃灰色の髪、橙色の目のクールな美形だった。
長毛種っぽい耳としっぽ。

きりっとして、すごく仕事が出来そうな顔をしている……。
どれどれ。


マルクス・アエミリウス・マルキウス 性別:男 年齢:300歳 状態:不安
職業:上級按察官アエディリス/政務 レベル200 
HP11000/10000 MP220/300
スキル:元素魔法レベル80・神聖魔法レベル80、体術レベル50・剣技レベル50、犬属共通言語、算術、建築学、神秘学、経済学、交渉術、逮捕術、乗馬、登攀、目利き
装備:管理官の制服・管理官のマント・管理官の靴・騎士の剣・肌着・財布・測量道具・縄
所持金:5アウレ2デナリ200セス
備考:寒さ耐性、暑さ耐性、高所耐性、呪い耐性


おお、300歳か……。今のところ、最高齢だな。
やっぱり仕事が出来る人のようだ。

「いや、湖水を綺麗にして、飲料用水にしたらどうかと后が言うので、話を聞いて検討して欲しいと呼んだのだ」
ガイウスが俺を示すと。

按察官は俺を見て、相好を崩した。
「はあ、とんでもない魔術師だという噂の皇妃様ですね。先日は、城の井戸を満杯にしてくださったそうで。ありがとうございます。それで、どうやって綺麗にするのですか? そんな魔法があるのですか?」


濾過と浄化槽の話をしたら、すごい食いついてきた。

メモを取りながら聞いてる。
仕事熱心だなあ。

「それで、いっそ給水口に浄水装置を取り付ければどうかな、って」
「なるほど。……まずは浄水の実験をしてからでよろしいでしょうか?」

「うん。試してからのほうがいいと思う」
自分の目で見ないと信用できないよな。


*****


プラスチックはないので、底に穴を開けたガラスのビンに、焼いたり天日干しして消毒した布、砂利、砂、炭などを入れて。濁った水を注いで濾過する。
ペットボトルでも出来る、簡単な浄水実験だ。


「……おお、緑色だった水が、透明になって……素晴らしい。これが、濾過ですか」

穴から落ちてくる、濾過された水を受けたコップを見て。
按察官は感嘆の声を上げた。

この濾過する層の規模が大きければ大きいほど、水は綺麗になる。
山の湧き水と同じ原理だ。


「ここで一回濾過して、分水施設でも濾過すれば、だいぶ綺麗になるんじゃないかな?」
飲めるレベルの水になるかもしれない。

「ええ。そうなれば、かなり助かりますね。即急に工事の手配を致しましょう」

按察官も井戸水の問題には、以前からだいぶ悩まされていたようで。
これで解消されそうだと、すっかり笑顔になっている。


「一時的な救済でなく、我が国の将来を考えてくださるとは。素晴らしい皇妃様をお迎えすることができて一国民として嬉しいです」
褒めすぎでございます。

「后は、鉛管の危険も知っていたぞ」
何故かガイウスが得意顔だ。

「これは恥ずかしい。あれは手痛い失敗でした」


「何かあれば、また是非お知恵をお貸しください」
測量とか設計図を作るために、按察官は先に城へ帰って行った。

まあ、何やら役に立てたようで良かった。


異世界の知識でチートとか俺の貧相な脳ミソじゃ無理かと思っていたが。
意外に役立ったな。昔やった実験。

他に、使えそうなネタはあるだろうか。


*****


「うわ、」
むぎゅ、と抱き締められる。

なに拗ねた顔してるんだ、ガイウス。
250歳にもなって。


あれ・・はかなり気難しい男なのだが。カナメは誰でも虜にしてしまうのだな。妬いたぞ」
それは、単に俺に付与されてる魅了効果のせいだろう。

ガイウスが、俺に惚れてるのも。


「おや、私が贈った下着、穿いてくれているのか」

ぴら、とローブを捲られた。
堂々と、正面から。


「こら、セクハラすんな!」

お子様の身体とはいえ。
中身は大人だっていうのに、全く。

「せくはら?」
ガイウスは首を傾げた。

やはりこちらでは存在しない言葉だった。
存在する言葉なら、自動翻訳されるようだが。

ええと。
「性的な嫌がらせ……せくしゃるはらすめんと……?」

「何と、夫を性犯罪者呼ばわりとは!」
こっちはあったようだ。

「似たようなもんじゃん」
「何だと、こら」

もう中身を知られているせいか、だいぶ慣れて話せるようになった気がする。

人見知りな上、コミュ障なので。
思ったことを言えなかったりして、ストレスが溜まるのだ。


「んもー、モフモフするなってば、」
ぎゅうぎゅう抱き締められて、しっぽとかをくすぐられる。


*****


「!」
ガイウスは、突然真顔になって。


「ひゃあ、」
俺を抱いたまま、地面に転がった。

バスッ、と音がして。


「ガ、ガイウス!?」

地面とガイウスの背に、矢が刺さっていた。
何だこれ、襲撃か!?
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

処理中です...