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45歳童貞、異世界へ行く
俺氏、闘技会の覇者になる。
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「了解した!」
ルプスが、次々と襲い掛かってくる、遮光器土偶から伸びる手を避けながら、その手や肩を足がかりに飛び上がって。
刀で、額の文字を削り取った。
次の瞬間。
見事、遮光器土偶は泥になって崩れた。
おお、かの伝説は本当じゃったか……、とか思わず呟きそうになる。
「おお……」
「巨大なゴーレムが一撃で……」
「さすが、百年前の英雄!」
わあっと観客が沸く。
やったルプス自身も、驚いて。
こっちを見た。
「凄い。……こやつの弱点をよくご存知で。さすが異世界の大魔道士!」
いや、俺でも知ってるくらい、異世界では有名な話なんです……。
ファンタジー系漫画とかではお約束のように出てくるし。
元ネタの方は、靴紐を結べと屈ませて額の文字を削ったら、崩れた泥の塊に潰されて死んだ、とかいうシビアな話だけども。
*****
ほっとしたのも束の間。
大穴から、続けて三体の遮光器土偶……ゴーレムが落ちてきた。
しかしそれらは、争うようにガイウスが二体崩して。ルプスがもう一体を崩した。
二人とも、負けず嫌いか。
連続で二体倒したガイウスは、得意そうにこちらに手を振っている。
はいはい偉い偉い。
『おのれ……我がゴーレムが全てやられるとは……腕を上げたな、ガイウスめ』
空の穴から、悔しげな男の声が聞こえた。
「その声……プロカス!」
ガイウスが、上空を見上げて言った。
ルプスも、穴からの落下物を警戒しながら見上げている。
「敵?」
誰ともなしに訊くと、騎士長官と神祇官がこくこく頷いている。
百年前に封じられた魔王の名前らしい。
敵ならいいか。
魔王なら、これくらいじゃ死なないだろ。
「Sagitta・cometes」
彗星の矢を、大穴に向けて放った。
消費MP999、宇宙から彗星を呼び寄せてぶち当てる、次元魔法最大の術である。
ぐわあああ、と。
物凄く苦しそうな声が聞こえて。
上空の大穴から、黒い塊が落ちてきた。
*****
「mollis、terra……!」
辛うじて、地面を柔らかくする魔法をかけたみたいだけど。
それでもけっこうダメージを負ってるようだ。
どれどれ。
プロカス・カエキリウス・メテッルス 性別:男 年齢:350歳 状態:瀕死
職業:魔王? レベルMAX
HP1/9500 MP0/5000
スキル:神聖魔法レベル50・次元魔法レベル180・元素魔法レベルMAX・白魔法レベル150・黒魔法レベルMAX、犬族共通言語、神秘学、薬学、生物学、植物学、鑑定MAX
装備:魔王の帽子(破損)・魔王のローブ(破損)・魔王の靴(破損)・魔王の杖(破損)・肌着
所持金:なし
備考:毒無効、呪い無効、精神魔法無効、攻撃魔法耐性
称号:元アルバ国魔術師、元魔王
瀕死になってる……。
あ、そっか。今の『柔かな土』の魔法でMP使い切ったのか。
ゴーレム生成/召喚が消費MP500だから。4体で2000消費して。
時空の穴を開ける魔法が消費MP2000で。
防御魔法で相殺しようにも、MPが足りなかったんだな。
だいぶそれでダメージくらってたようだ。
それにしても。
何だよ『職業:魔王?』って。称号も『元魔王』になってるし。
あ、俺がすでに存在してるから、もうこの世界では魔王になれないのか。
魔王は世界に一人、オンリーワンなのか。
哀れ……。
「その人、今、MPゼロで瀕死だよ」
状態を教えたけど。
皆、ぽかんとしている。
*****
「……カナメ、いったい、何をしたんだ?」
ガイウスも、信じられない光景を見たような顔をしている。
「何って、穴に向かって『彗星の矢』を撃ち込んでみただけなんだけど……」
びっくりして穴から出てくるかな、と思ったら。
瀕死になって落ちてきちゃって。
俺もびっくりだ。
魔王なのに、弱すぎない?
「だけ……だと……? あれだけ、多くの大魔法を……使って、おきながら。まだ、余裕があったとは……」
虫の息の魔王? が、驚愕に目を見開いている。
魔王っぽい黒衣だけど。
あちこち焦げちゃってる。
どこかで監視してたのかな? 皆が弱ったところを襲おうと狙ってたようだけど。
俺のMPが切れることは有り得ないんだよな。無限大なので。
神様ありがとう。
「あ、ガイウスもルプスもHP減ってるから回復するね。sanatio」
二人に回復魔法をかける。
「ああ、ありがとうカナメ。マントも直してくれたのか」
「あ、どうも。身体が軽くなった。すごいな高レベル回復は」
魔王? は完全回復した二人を、大口を開けて見ている。
遮光器土偶の落下とかで荒れたアリーナも、綺麗に修復しておこう。
ついでに空に開いた大穴も塞いじゃえ。
「Restaurare」
よし、全部綺麗になった。
「ば、化け物……、」
震えながら、魔王? は気絶した。
失礼な!
俺はただの、魔法使いの王様だ。
*****
魔法の縄で拘束して。
もう危険な魔法が使えないように、沈黙魔法をかけてから兵士に引き渡した。
俺が解除の魔法を唱えない限り、二度と魔法は使えない。
突然の魔王? 出現に戸惑っていた観客たちも落ち着いて。
コロッセオ内はざわざわしている。
結局、勝敗はどうなるんだ? という声も聞こえて。
「そういえば、手合わせの途中だったが。元凶が捕まってしまってはな……」
「ああ、そうだった……だが、勝者はもう、決まってるな?」
なんか、ガイウスとルプスが仲良く話している。
戦った後、土手とかで『お前やるな』、『お前こそやるじゃないか』みたいな、友情が深まるあれだろうか。
二人は、俺の脇に立って。
でかいのに挟まれたな、と思ったら。
「皆のもの、己が目で見たであろう! 百年前、我々が一丸となり必死で封じた魔王が復活し、襲撃してきたのを!」
ガイウスが俺の腰を抱いて引き寄せる。
「しかし、それを見事成敗したのは、このアルバ帝国の誇る、最大最高の魔術師にして我が皇妃である、カナメだ!」
ルプスも、俺の肩に手を回して。
「そういうわけで、本日の勝者は、勝利の女神である、皇妃ご自身だ! 皆、異存はないな?」
え?
*****
わあああっ、と観客が沸いた。
コロッセウムを揺るがすような、大歓声。
「偉大なる魔術師様ばんさーい!!」
「皇妃殿下ばんざーい!!」
ええっ!?
俺が優勝なの!?
観客の皆さん、ほんとにそれでいいの!?
「ご結婚おめでとうございます!」
「皇帝陛下ばんざーい!!」
皇帝の結婚を、ついでに祝うというカオスっぷり。
ガイウスは、笑顔で手を振っている。
ルプスが俺の頭に勝者の証である月桂冠をかぶせて。
ガイウスが、俺の頬にキスをした。
新婚だから初々しい、とか皆から囃されて恥ずかしかったけど。
この国を襲う脅威がひとつでも去ったようだし。
良かった。
打ち上げと称して。
公衆浴場を貸し切って、みんなで風呂に入った。
剣闘士たちは、さすがに鍛えられたいい身体をしているな。
俺はやっぱりチュニックを渡された。
神祇官とお揃いだ。
温水プールのテピダリウムに浸かりながら。
何でプロカスはあのタイミングで現れたんだろう、という話になって。
「ガイウスとルプスが戦ってて、丁度HP半分くらいになったとこで遮光器土偶……じゃなかったゴーレムが現れたから、ずっと強敵である二人が弱るチャンスを狙ってたんだと思うよ」
次元の穴を開ける魔法は、最近覚えたもののようだ。
すぐに襲撃しないで、しばらく様子を見たのは、強力な魔法を使う魔術師……俺が現れたことを知って、警戒したためかもしれないけど。
「まあ、あれだけの大魔法を連発していたら、いい加減、魔力が切れたと。普通は思うだろうしな……」
ルプスは遠い目をした。
ルプスが、次々と襲い掛かってくる、遮光器土偶から伸びる手を避けながら、その手や肩を足がかりに飛び上がって。
刀で、額の文字を削り取った。
次の瞬間。
見事、遮光器土偶は泥になって崩れた。
おお、かの伝説は本当じゃったか……、とか思わず呟きそうになる。
「おお……」
「巨大なゴーレムが一撃で……」
「さすが、百年前の英雄!」
わあっと観客が沸く。
やったルプス自身も、驚いて。
こっちを見た。
「凄い。……こやつの弱点をよくご存知で。さすが異世界の大魔道士!」
いや、俺でも知ってるくらい、異世界では有名な話なんです……。
ファンタジー系漫画とかではお約束のように出てくるし。
元ネタの方は、靴紐を結べと屈ませて額の文字を削ったら、崩れた泥の塊に潰されて死んだ、とかいうシビアな話だけども。
*****
ほっとしたのも束の間。
大穴から、続けて三体の遮光器土偶……ゴーレムが落ちてきた。
しかしそれらは、争うようにガイウスが二体崩して。ルプスがもう一体を崩した。
二人とも、負けず嫌いか。
連続で二体倒したガイウスは、得意そうにこちらに手を振っている。
はいはい偉い偉い。
『おのれ……我がゴーレムが全てやられるとは……腕を上げたな、ガイウスめ』
空の穴から、悔しげな男の声が聞こえた。
「その声……プロカス!」
ガイウスが、上空を見上げて言った。
ルプスも、穴からの落下物を警戒しながら見上げている。
「敵?」
誰ともなしに訊くと、騎士長官と神祇官がこくこく頷いている。
百年前に封じられた魔王の名前らしい。
敵ならいいか。
魔王なら、これくらいじゃ死なないだろ。
「Sagitta・cometes」
彗星の矢を、大穴に向けて放った。
消費MP999、宇宙から彗星を呼び寄せてぶち当てる、次元魔法最大の術である。
ぐわあああ、と。
物凄く苦しそうな声が聞こえて。
上空の大穴から、黒い塊が落ちてきた。
*****
「mollis、terra……!」
辛うじて、地面を柔らかくする魔法をかけたみたいだけど。
それでもけっこうダメージを負ってるようだ。
どれどれ。
プロカス・カエキリウス・メテッルス 性別:男 年齢:350歳 状態:瀕死
職業:魔王? レベルMAX
HP1/9500 MP0/5000
スキル:神聖魔法レベル50・次元魔法レベル180・元素魔法レベルMAX・白魔法レベル150・黒魔法レベルMAX、犬族共通言語、神秘学、薬学、生物学、植物学、鑑定MAX
装備:魔王の帽子(破損)・魔王のローブ(破損)・魔王の靴(破損)・魔王の杖(破損)・肌着
所持金:なし
備考:毒無効、呪い無効、精神魔法無効、攻撃魔法耐性
称号:元アルバ国魔術師、元魔王
瀕死になってる……。
あ、そっか。今の『柔かな土』の魔法でMP使い切ったのか。
ゴーレム生成/召喚が消費MP500だから。4体で2000消費して。
時空の穴を開ける魔法が消費MP2000で。
防御魔法で相殺しようにも、MPが足りなかったんだな。
だいぶそれでダメージくらってたようだ。
それにしても。
何だよ『職業:魔王?』って。称号も『元魔王』になってるし。
あ、俺がすでに存在してるから、もうこの世界では魔王になれないのか。
魔王は世界に一人、オンリーワンなのか。
哀れ……。
「その人、今、MPゼロで瀕死だよ」
状態を教えたけど。
皆、ぽかんとしている。
*****
「……カナメ、いったい、何をしたんだ?」
ガイウスも、信じられない光景を見たような顔をしている。
「何って、穴に向かって『彗星の矢』を撃ち込んでみただけなんだけど……」
びっくりして穴から出てくるかな、と思ったら。
瀕死になって落ちてきちゃって。
俺もびっくりだ。
魔王なのに、弱すぎない?
「だけ……だと……? あれだけ、多くの大魔法を……使って、おきながら。まだ、余裕があったとは……」
虫の息の魔王? が、驚愕に目を見開いている。
魔王っぽい黒衣だけど。
あちこち焦げちゃってる。
どこかで監視してたのかな? 皆が弱ったところを襲おうと狙ってたようだけど。
俺のMPが切れることは有り得ないんだよな。無限大なので。
神様ありがとう。
「あ、ガイウスもルプスもHP減ってるから回復するね。sanatio」
二人に回復魔法をかける。
「ああ、ありがとうカナメ。マントも直してくれたのか」
「あ、どうも。身体が軽くなった。すごいな高レベル回復は」
魔王? は完全回復した二人を、大口を開けて見ている。
遮光器土偶の落下とかで荒れたアリーナも、綺麗に修復しておこう。
ついでに空に開いた大穴も塞いじゃえ。
「Restaurare」
よし、全部綺麗になった。
「ば、化け物……、」
震えながら、魔王? は気絶した。
失礼な!
俺はただの、魔法使いの王様だ。
*****
魔法の縄で拘束して。
もう危険な魔法が使えないように、沈黙魔法をかけてから兵士に引き渡した。
俺が解除の魔法を唱えない限り、二度と魔法は使えない。
突然の魔王? 出現に戸惑っていた観客たちも落ち着いて。
コロッセオ内はざわざわしている。
結局、勝敗はどうなるんだ? という声も聞こえて。
「そういえば、手合わせの途中だったが。元凶が捕まってしまってはな……」
「ああ、そうだった……だが、勝者はもう、決まってるな?」
なんか、ガイウスとルプスが仲良く話している。
戦った後、土手とかで『お前やるな』、『お前こそやるじゃないか』みたいな、友情が深まるあれだろうか。
二人は、俺の脇に立って。
でかいのに挟まれたな、と思ったら。
「皆のもの、己が目で見たであろう! 百年前、我々が一丸となり必死で封じた魔王が復活し、襲撃してきたのを!」
ガイウスが俺の腰を抱いて引き寄せる。
「しかし、それを見事成敗したのは、このアルバ帝国の誇る、最大最高の魔術師にして我が皇妃である、カナメだ!」
ルプスも、俺の肩に手を回して。
「そういうわけで、本日の勝者は、勝利の女神である、皇妃ご自身だ! 皆、異存はないな?」
え?
*****
わあああっ、と観客が沸いた。
コロッセウムを揺るがすような、大歓声。
「偉大なる魔術師様ばんさーい!!」
「皇妃殿下ばんざーい!!」
ええっ!?
俺が優勝なの!?
観客の皆さん、ほんとにそれでいいの!?
「ご結婚おめでとうございます!」
「皇帝陛下ばんざーい!!」
皇帝の結婚を、ついでに祝うというカオスっぷり。
ガイウスは、笑顔で手を振っている。
ルプスが俺の頭に勝者の証である月桂冠をかぶせて。
ガイウスが、俺の頬にキスをした。
新婚だから初々しい、とか皆から囃されて恥ずかしかったけど。
この国を襲う脅威がひとつでも去ったようだし。
良かった。
打ち上げと称して。
公衆浴場を貸し切って、みんなで風呂に入った。
剣闘士たちは、さすがに鍛えられたいい身体をしているな。
俺はやっぱりチュニックを渡された。
神祇官とお揃いだ。
温水プールのテピダリウムに浸かりながら。
何でプロカスはあのタイミングで現れたんだろう、という話になって。
「ガイウスとルプスが戦ってて、丁度HP半分くらいになったとこで遮光器土偶……じゃなかったゴーレムが現れたから、ずっと強敵である二人が弱るチャンスを狙ってたんだと思うよ」
次元の穴を開ける魔法は、最近覚えたもののようだ。
すぐに襲撃しないで、しばらく様子を見たのは、強力な魔法を使う魔術師……俺が現れたことを知って、警戒したためかもしれないけど。
「まあ、あれだけの大魔法を連発していたら、いい加減、魔力が切れたと。普通は思うだろうしな……」
ルプスは遠い目をした。
応援ありがとうございます!
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