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45歳童貞、異世界へ行く
俺氏、勝者の商品にされる。
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えー、本日ここアルバ帝国コロッセウムにおいて、今まさに歴史的瞬間が生まれようとしております。
などと実況中継風に言ってみたり。
コロッセウムには、ガイウス皇帝陛下と伝説の剣闘士ルプスが真剣勝負する、という噂を聞きつけた人でいっぱいで。立ち見客まで居るようだ。
料金を取るわけじゃないから、客といっていいのかわかんないけど。
俺は皇帝席で見学である。
隣にはわくわく顔の騎士長官と神祇官が居るし。
だいたいの闘技場では、前列は元老院階級席、中列が騎士階級席、その後ろが裕福な市民席、最後列が一般市民と女性席だったりするので。
騎士長官はちゃっかり護衛という言い訳で最前列にいるのだ。
*****
皇帝レベルMAXと、剣闘士レベルMAXの頂点試合だ。
そりゃ皆、興味あるよな……。
俺も実は気になってた。
魔法禁止、純粋に剣と剣とで勝敗を決めるという。
どちらも剣術のレベルMAX同士、ガチの剣術勝負だ。気にならない訳がないか。
ガイウスは、盾は持たなくて、手甲と剣だけで戦う。
全身鎧で。
ルプスは肘に小さな盾のようなものを装備して。
最低限の防具しか着けないのは、素早さが下がるからかな。
長いしっぽは強者の証って感じ?
剣闘士たちは、先生頑張ってーと声援を送っている。
俺もガイウスに声援を送るべきだろうか?
一応、皇妃なんだし。
「陛下ー、陛下が勝ったら今夜は大サービスだってカナメ様がー」
何だと。
あ、ガイウスがすごいやる気になってる……。
「何言ってくれてんの!?」
騎士長官の肩をぺしぺし叩く。
「男とは、単純な生き物なのです……ここはこらえてください」
いや、俺も男だよ!?
「勝者には、我がアルバ帝国の勝利の女神である皇妃様より月桂冠の授与と、祝福のキスをいただきたい!」
ルプスは観客に向かって叫んだ。
「えええっ!?」
ルプスも、何言ってんの!?
誰が女神だ。
わーっ、と観客が盛り上がっている。
えーっと、これ。
やんなきゃいけない流れ……?
皇妃っていっても、男だよ?
嬉しいか?
「我が最愛の后よ、私が負けることなど万に一つも無い。その唇を知るのは生涯私一人だけだ。安心するがいい」
ガイウスは俺に向けて投げキッスをした上に、高らかに勝利宣言した。
キャーッ、と女性達の悲鳴が。
……もういっそ、二人とも吹っ飛ばして、俺が勝者ってことにしてもいい?
魔法禁止? なら肉体強化かけまくるか。
*****
試合開始の鐘が鳴って。
二人は剣を構えた。
それだけなのに、ここまで覇気が伝わる。
うわ、さすがレベルMAX同士、凄まじい迫力だな。
あれ?
何か二人とも、ガチで殺気立ってない!?
立ち見が出るくらい、人が大勢居るというのに。
コロッセウム内は、しんと静まり返っている。
皆、固唾を呑んで、勝負の行方を見ているのだ。
一瞬目を離したら、試合が終わってそうだ。
ルプスが腰から短剣を取り、派手にくるくる回して、長剣と一緒に構えた。
おお、二刀流?
うおお、と声が上がる。
剣闘士は、ショーアクターでもある。
魅せる剣技も得意だろう。だからかな?
ガイウスは、篭手からジャキン、と小刀を出した。
こっちも変則二刀流か。こっちは女性からの歓声が多いな。
マントが翻って格好いいけど。
そんなやたらかっこいいポーズ、取る必要ないのでは。
いや、格好いいけど。
ルプスが舞うように飛んで。
頭上から長剣で斬りかかるのを、ガイウスが篭手でいなして。
着地したルプスに斬りかかるガイウスの長剣を、短剣で受けるルプス。
まるで剣舞のようだ。
しかし、真剣勝負にしては妙に大袈裟で、無駄な動きが多いな、と思って見てたら。
「観客が多いんで、サービスしてるんですよ」
こそっと騎士長官が教えてくれた。
お互い本気でやれば、それこそ一瞬で終わるだろうから、それじゃ見てるほうもつまらないと、わざと大袈裟に動いてるようだ。
さっきの勝利宣言や、勝者へのご褒美発言も観客サービスだったのか。
ルプスは剣闘士だったから性分として。ずいぶんサービス精神旺盛な皇帝だな……。
でも勝負自体はガチでやってるぞ。
二人とも地味にHP減っていってるし。
試合前に、一応、二人とも回復したけど。
終わったらまた回復かけなきゃ。
*****
刀と刀が当たる音が響き渡る度に、歓声が上がる。
実力伯仲だ。
どっちが勝っても負けても不思議じゃない。
この国ではガイウスが一番強いそうだけど。
ルプスも、こんな強いのか。
魔法を使っての勝負なら、ガイウスに利があるだろう、という。
今まで演習や模擬戦はしてたけど、ガチで戦ったことはないから。
どちらが勝つかは誰にもわからない、ということだ。
騎士長官が言うには、ガイウスは若い頃にルプスから剣を教わっていたそうだ。
言われてみれば、二人の戦い方はよく似ている。
目の色も似てるけど。親戚か何かだろうか?
「犬人ですが、お二方は北方の狼人の血を引いてるそうです」
二人の勝負から目を離さないまま、神祇官が教えてくれた。
そうなんだ。
二人とも狼犬なのか。確かに強そうだ。
ガイウスが皇帝になって、てっきりルプスがその右腕になると思われてたのに。
剣闘士の指南役になってしまったのはもったいない、まことに残念だ、と騎士長官が呟いた。
安泰な生活より、生涯現役を目指したわけか。ルプスって戦うの、本当に好きそうだもんな。
今も、生き生きしてる。
あ、ガイウスのマント、斬られた。
凄い切れ味だな。こわっ。
でも、ルプスは短剣を吹っ飛ばされたようだ。
短剣を取りに行く隙を与えず、斬り込むガイウス。
それを身軽に避けるルプス。
二人とも、もうHPは半分近く削れてる。
思わず、手に汗握って見守ってしまう。
どっちも負けないで欲しいな。などと思う。
いっそ、勝敗はわからないままの方がいいんじゃない?
いや、キスしたくない訳ではない。
多分。
*****
……ん?
ゴロゴロ、と空から不穏な音が。
雷か?
コロッセウムって、荒天向きじゃないんだよな。天井無いし。
雨とか降らないといいけど。
雲の様子を見ようと空を見上げると。
何だ、あの黒い穴……?
上空に、黒い穴が空いていて。
中から、何か出てくる。
石の塊……?
真下には、真剣勝負をしている二人。
「ガイウス、ルプス、頭上! 大きな石が降って来る!」
叫ぶと。
二人は別方向にさっと引いて。
直前まで二人が居た場所に、ズシン、と大きな石の塊が落ちてきた。
間一髪。
危ないところだった。
いや、石の塊じゃない。
立ち上がるように動き出した。
あの宇宙人のように大きな目? にメリハリのきいた特徴的なフォルム。間違いない、あれは。
「……遮光器土偶……!?」
北の国の人が雪を直視しないように作った眼鏡、遮光器。
それをつけているように見えるので遮光器土偶と名付けられたのだ。
*****
「え、あれの名をご存知なのですか?」
神祇官が遮光器土偶を指差した。
「あれは、通称『ゴーレム』と呼ばれている泥人形で、物理攻撃も攻撃魔法も効きにくく、頑丈で。厄介なものです。水魔法の使い手が居れば、泥を流し崩すことが出来るのですが……」
この姿だと、イマイチ馴染みがなかったのか。
はっ、と俺が魔法使いだったことを思い出したようで。
「あ、カナメ様、お願いできます?」
どう見ても遮光器土偶なんだけど。
ゴーレム?
わー、ほんとだー。
額には『אמת』と書かれている。
まあ、水で流せば額の文字も消えるよな。
でも。
「ゴーレムといえば、『אמת』の『א』の一文字を消して『מת』にすると、『死んだ』って意味になって、ただの泥に戻るんだよね」
「……だそうです!」
神祇官は白魔法の『増幅・拡散』で俺の声を二人に届けた。
拡声器いらずだな。
などと実況中継風に言ってみたり。
コロッセウムには、ガイウス皇帝陛下と伝説の剣闘士ルプスが真剣勝負する、という噂を聞きつけた人でいっぱいで。立ち見客まで居るようだ。
料金を取るわけじゃないから、客といっていいのかわかんないけど。
俺は皇帝席で見学である。
隣にはわくわく顔の騎士長官と神祇官が居るし。
だいたいの闘技場では、前列は元老院階級席、中列が騎士階級席、その後ろが裕福な市民席、最後列が一般市民と女性席だったりするので。
騎士長官はちゃっかり護衛という言い訳で最前列にいるのだ。
*****
皇帝レベルMAXと、剣闘士レベルMAXの頂点試合だ。
そりゃ皆、興味あるよな……。
俺も実は気になってた。
魔法禁止、純粋に剣と剣とで勝敗を決めるという。
どちらも剣術のレベルMAX同士、ガチの剣術勝負だ。気にならない訳がないか。
ガイウスは、盾は持たなくて、手甲と剣だけで戦う。
全身鎧で。
ルプスは肘に小さな盾のようなものを装備して。
最低限の防具しか着けないのは、素早さが下がるからかな。
長いしっぽは強者の証って感じ?
剣闘士たちは、先生頑張ってーと声援を送っている。
俺もガイウスに声援を送るべきだろうか?
一応、皇妃なんだし。
「陛下ー、陛下が勝ったら今夜は大サービスだってカナメ様がー」
何だと。
あ、ガイウスがすごいやる気になってる……。
「何言ってくれてんの!?」
騎士長官の肩をぺしぺし叩く。
「男とは、単純な生き物なのです……ここはこらえてください」
いや、俺も男だよ!?
「勝者には、我がアルバ帝国の勝利の女神である皇妃様より月桂冠の授与と、祝福のキスをいただきたい!」
ルプスは観客に向かって叫んだ。
「えええっ!?」
ルプスも、何言ってんの!?
誰が女神だ。
わーっ、と観客が盛り上がっている。
えーっと、これ。
やんなきゃいけない流れ……?
皇妃っていっても、男だよ?
嬉しいか?
「我が最愛の后よ、私が負けることなど万に一つも無い。その唇を知るのは生涯私一人だけだ。安心するがいい」
ガイウスは俺に向けて投げキッスをした上に、高らかに勝利宣言した。
キャーッ、と女性達の悲鳴が。
……もういっそ、二人とも吹っ飛ばして、俺が勝者ってことにしてもいい?
魔法禁止? なら肉体強化かけまくるか。
*****
試合開始の鐘が鳴って。
二人は剣を構えた。
それだけなのに、ここまで覇気が伝わる。
うわ、さすがレベルMAX同士、凄まじい迫力だな。
あれ?
何か二人とも、ガチで殺気立ってない!?
立ち見が出るくらい、人が大勢居るというのに。
コロッセウム内は、しんと静まり返っている。
皆、固唾を呑んで、勝負の行方を見ているのだ。
一瞬目を離したら、試合が終わってそうだ。
ルプスが腰から短剣を取り、派手にくるくる回して、長剣と一緒に構えた。
おお、二刀流?
うおお、と声が上がる。
剣闘士は、ショーアクターでもある。
魅せる剣技も得意だろう。だからかな?
ガイウスは、篭手からジャキン、と小刀を出した。
こっちも変則二刀流か。こっちは女性からの歓声が多いな。
マントが翻って格好いいけど。
そんなやたらかっこいいポーズ、取る必要ないのでは。
いや、格好いいけど。
ルプスが舞うように飛んで。
頭上から長剣で斬りかかるのを、ガイウスが篭手でいなして。
着地したルプスに斬りかかるガイウスの長剣を、短剣で受けるルプス。
まるで剣舞のようだ。
しかし、真剣勝負にしては妙に大袈裟で、無駄な動きが多いな、と思って見てたら。
「観客が多いんで、サービスしてるんですよ」
こそっと騎士長官が教えてくれた。
お互い本気でやれば、それこそ一瞬で終わるだろうから、それじゃ見てるほうもつまらないと、わざと大袈裟に動いてるようだ。
さっきの勝利宣言や、勝者へのご褒美発言も観客サービスだったのか。
ルプスは剣闘士だったから性分として。ずいぶんサービス精神旺盛な皇帝だな……。
でも勝負自体はガチでやってるぞ。
二人とも地味にHP減っていってるし。
試合前に、一応、二人とも回復したけど。
終わったらまた回復かけなきゃ。
*****
刀と刀が当たる音が響き渡る度に、歓声が上がる。
実力伯仲だ。
どっちが勝っても負けても不思議じゃない。
この国ではガイウスが一番強いそうだけど。
ルプスも、こんな強いのか。
魔法を使っての勝負なら、ガイウスに利があるだろう、という。
今まで演習や模擬戦はしてたけど、ガチで戦ったことはないから。
どちらが勝つかは誰にもわからない、ということだ。
騎士長官が言うには、ガイウスは若い頃にルプスから剣を教わっていたそうだ。
言われてみれば、二人の戦い方はよく似ている。
目の色も似てるけど。親戚か何かだろうか?
「犬人ですが、お二方は北方の狼人の血を引いてるそうです」
二人の勝負から目を離さないまま、神祇官が教えてくれた。
そうなんだ。
二人とも狼犬なのか。確かに強そうだ。
ガイウスが皇帝になって、てっきりルプスがその右腕になると思われてたのに。
剣闘士の指南役になってしまったのはもったいない、まことに残念だ、と騎士長官が呟いた。
安泰な生活より、生涯現役を目指したわけか。ルプスって戦うの、本当に好きそうだもんな。
今も、生き生きしてる。
あ、ガイウスのマント、斬られた。
凄い切れ味だな。こわっ。
でも、ルプスは短剣を吹っ飛ばされたようだ。
短剣を取りに行く隙を与えず、斬り込むガイウス。
それを身軽に避けるルプス。
二人とも、もうHPは半分近く削れてる。
思わず、手に汗握って見守ってしまう。
どっちも負けないで欲しいな。などと思う。
いっそ、勝敗はわからないままの方がいいんじゃない?
いや、キスしたくない訳ではない。
多分。
*****
……ん?
ゴロゴロ、と空から不穏な音が。
雷か?
コロッセウムって、荒天向きじゃないんだよな。天井無いし。
雨とか降らないといいけど。
雲の様子を見ようと空を見上げると。
何だ、あの黒い穴……?
上空に、黒い穴が空いていて。
中から、何か出てくる。
石の塊……?
真下には、真剣勝負をしている二人。
「ガイウス、ルプス、頭上! 大きな石が降って来る!」
叫ぶと。
二人は別方向にさっと引いて。
直前まで二人が居た場所に、ズシン、と大きな石の塊が落ちてきた。
間一髪。
危ないところだった。
いや、石の塊じゃない。
立ち上がるように動き出した。
あの宇宙人のように大きな目? にメリハリのきいた特徴的なフォルム。間違いない、あれは。
「……遮光器土偶……!?」
北の国の人が雪を直視しないように作った眼鏡、遮光器。
それをつけているように見えるので遮光器土偶と名付けられたのだ。
*****
「え、あれの名をご存知なのですか?」
神祇官が遮光器土偶を指差した。
「あれは、通称『ゴーレム』と呼ばれている泥人形で、物理攻撃も攻撃魔法も効きにくく、頑丈で。厄介なものです。水魔法の使い手が居れば、泥を流し崩すことが出来るのですが……」
この姿だと、イマイチ馴染みがなかったのか。
はっ、と俺が魔法使いだったことを思い出したようで。
「あ、カナメ様、お願いできます?」
どう見ても遮光器土偶なんだけど。
ゴーレム?
わー、ほんとだー。
額には『אמת』と書かれている。
まあ、水で流せば額の文字も消えるよな。
でも。
「ゴーレムといえば、『אמת』の『א』の一文字を消して『מת』にすると、『死んだ』って意味になって、ただの泥に戻るんだよね」
「……だそうです!」
神祇官は白魔法の『増幅・拡散』で俺の声を二人に届けた。
拡声器いらずだな。
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