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建国記念日をつくろう。

皇帝:忠臣デキムス

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どうやらデキムスも朝の会議コンロクィウムに出席するようだ。


ずるい。
私も参加したい。

カナメとゆっくりお茶を飲みながら談話したい。
できれば二人きりで。


しかし立派な皇帝としてはそんな理由で仕事を抜ける訳にはいかぬのである。
辛いが我慢だ。

人見知りのカナメが萎縮してしまわないか心配だが。


*****


デキムスがこちらを振り向いて。

「陛下も朝の会議に参加なされるのですよね?」
「勿論だ」
思わず即答した。

「では、そのように調整致しましょう」
デキムスは恭しく礼をした。

有能な執政官を得られて私は嬉しい。

これがルプスだったら、あえての仲間はずれとかしそうである。
ルプスが執政官の役を受けなくて良かった。

適材適所というものだ。


カナメがほっとしているのが見えた。
私がいないことが、そんなに心細かったのだろうか?

もうむしろ、ここで会議をしたら良いのではないだろうか。

子供の姿であったら、膝に乗せていても咎められなかったのだが。
そこが残念だ。


「では、失礼しました」
カナメはぺこりと頭を下げて、帰っていった。

歩く度にふわふわと揺れるやわらかな尾に触れたい。
ああ、動作の全てが愛らしい……。


「陛下は皇后を娶られて、良いほうへ変わられたようで。我が国も、ますますの発展を遂げるのでありましょうな」
カナメを見送っていたデキムスは、まるで爺やのように目を細めている。

「デキムスにも、まだまだ頑張ってもらわねば。少なくともあと百年や二百年は、肩の荷が降りただなど言わせんぞ?」
からかうように言ったが。

デキムスは慇懃に礼をし、腰を折った。
「おお、では百年ごとに建国祭を開催され、千年王国を目指されると。素晴らしい御志おこころざしでございます。不肖、わたくしデキムス・マルケッルスはガイウス陛下の御許以外に就く気はありませんので悪しからず」


私としては、きちんと統治する能力がある者であれば、皇帝の座を譲ってもかまわないのだが。
デキウスは私が皇帝になるというので自ら王の座を降り、補佐についてくれたのだ。

そこまで見込まれると、永く平和な治世が続くよう、心がけねばならない気になるな。


*****


仕事を終え、カナメの元へ足早に戻る。
愛する后に、一刻も早く触れたい気持ちで足が早まるのである。

護衛の兵士は走っているが。それはただの修行不足である。


「!?」
飛んできた短剣を、剣の鞘で受け、真上に弾く。

……この短剣ミセリコルデは。


「ルプスか、」
落ちてきた短剣を受け、投げ返す。

ルプスは、投げた短剣の刃を指で挟んで難なく受け取った。

さすがは剣術指南役ドクトレ
見事だ。


「よう陛下。鈍ってはいないようだな?」
短剣をくるくる回し、鞘に納めた。

「さては矢には、わざと刺さったな?」


……鋭いな。
正当防衛であれば、敵を仕留めても罪は問われない。

愛するカナメを狙った賊である。息の根を止めたかったのだ。

皇帝であっても、無辜の民を害すれば、評価が落ちる。
故に、急所を外し、わざと矢を受けたのだ。

カナメに心配をかけてしまうことになってしまい、申し訳なかったが。
心配してもらえて嬉しかったのも、真実である。


「気安く皇帝の命を狙うな。見張りの兵が困っているだろうが」
ざわつく兵に、大事無い、と合図する。

「パレードとやらに向けて、襲撃インクルシオ・スビタ対策の練習プラクティケ、ってことで」
ルプスは大袈裟に肩を竦めた。

「カナメが馬車に加護を掛けるから、心配御無用だ……」


丁度いい。
ルプスも誘っておくか。

「ああ、そうだ。ルプスも、明日の会議に参加しないか?」

「建国祭の? 構わんが。闘技会の打ち合わせか?」
首を傾げている。

「それもある。では明日朝9時半に、会議室で」
言いながら。


足早に、寝室のある棟へ向かう。
カナメを待たせてはいけないからである。


*****


カナメは夕食を済ませ風呂に入り、部屋に戻って居ると兵から報告を受けた。

今日も身体を磨き、待っていてくれていることを確信し。
私も急ぎ身体を流す。

夜着をまとい、部屋へ。


「ガイウス、おかえりなさい」
部屋に入るなり、私の胸に飛びついてきた愛しい后を抱きとめる。

ああ、幸せだ。

「ただいま、私の可愛い后。愛しているよ、カナメ」
頬に口付ける。


「あ、ルプスに会えた? 挨拶してくって言ってたけど」

「……手荒い挨拶を貰ったよ」
挨拶代わりに短剣を投げるのはやめて欲しいものだが。


ルプスはどうやら、記念闘技会の切符テッセラについての打ち合わせで城へ来ていたようだ。

「もう話を聞きつけた人たちから、凄い問い合わせが来てるらしくて。予約がいっぱいで、立ち見でも入りきらないから、試合の様子を投影魔法でコロッセウムの上空に映し出そうって話になったんだ」
「ほう、投影魔法」

それは、気合を入れないといけないな。
間違っても、無様な姿を晒すわけにはいかない。

無論、負ける気は無いが。


「あとは、当日まで内緒」
人差し指を唇に当てて言った。


カナメが愛らしすぎて、どうにかなりそうである。
思わず抱き締めてしまう。

「んむ、……んー、」
唇を奪い、下肢をまさぐる。

カナメの香りと共に、石鹸サポーの匂いがする。
私の匂いをつけてやりたい。

身体の奥の奥まで。


「っは、……ここじゃ、やだ。寝室、」

快楽に頬を染め。
潤んだ瞳で色っぽくねだられて。


姫君のように丁重に、寝室へ運んで差し上げた。


*****


おはようサルウェ、カナメ」
口付けを額に落として。

カナメも私の頬に口付けを返してくれ、今日も『神の加護』を掛けてくれる。


共に朝食を摂り。
美味しそうに牛乳ラクを飲んでいるカナメにあらぬ想像をしたり。

ソーセージを食む姿に、あの小さな口には入らないだろう、と考えたり。
朝から不埒な想像が止まらないが。

新婚なので、仕方が無いのである。


二人並んで、会議室へ向かう。
手を握ると、照れたような顔をして見上げてくるのがたまらなく愛らしい。

このまま部屋に戻って愛し合いたいところだが。
オクタも来た。


「おはようございます、陛下、カナメ様」
「おはよう」

カナメは手を握っている姿を見られるのが恥ずかしいのか、私の腕に掴まって、外套マンテルムで隠れるようにし、ちらりと顔だけ覗かせた。
「おはよー」


……そんな可愛い挨拶はしないでよろしい。
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