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建国記念日をつくろう。

皇帝:千年王国に向けて

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次々に、花火が上がる。

第一回セメルの今日は百発ケントゥム・イエキトだが。
次は二百デケンティナ三百トレケントス……いつかは数千ミッレもの花火を上げてみせよう。

百万ミリア、と言ったら。
カナメは笑うだろうか?

きっと笑いながら、自分が出来る限りの協力はする、と言ってくれるに違いない。
私には勿体ないほどの后である。


「行ってらっしゃい。頑張ってね」
互いに頬に口付けをして。

カナメに見送られ、闘技場アレーナへ。

皇帝陛下ばんざーいアベ・カエサル!!」
入口アーチから闘技場内に足を踏み入れるなり、大歓声だ。

手を振り、声援に応える。
カナメは皇帝席に戻り、投影魔法のオーブを操作している。


反対側の入口からルプスが登場して。
眼帯が無いことに気付いた観客がざわついている。

死を呼ぶ狼モルス・ルプス』の復活に、昔からの支持者から喜びの声が上がり、それが拡がっていく。

ルプスがいつもの皮肉げイローニア笑みアッリデーレを浮かべているのが見えた。
ルプスはいつも照れ隠しに、ああいう笑みを浮かべるのだ。


*****


試合開始の合図が出て。
互いにグラディウスを構えるのだが。

ルプスは短剣ミセリコルデを腰から抜き、ひらめかせる。

私も左の手甲の小刀シーカを出し剣と合わせ、外套マンテルムをひるがえし、大袈裟に構えてみせる。


戦ならば、わざわざ隠し武器を見せる必要はないのだが。
闘技であるので、ある程度の演出は仕方ない。

今回は、容赦なく体力を削らせていただこう。
いざ。


ルプスが駿足で駆けて来る。
敵の本陣へ突っ込んでいって、旋回しながら二つの刃で敵を切り裂くのだ。

まともに喰らえば、鎧をも切り裂くカエデーン旋風テンペスタースの如き刃でズタズタにされる。戦場では何度も目にした光景だ。
味方であれば心強いが、敵に回すとなると恐るべき相手である。


劇的な演出をしてみるか。
私はルプスが旋回し始めるのと同時に、逆向きに旋回してみせた。

客席で悲鳴が上がる。

切り裂かれた私とルプスの赤い外套が、血飛沫のように見えたのだろう。
これはさすがに再生不可能だろうな。

ルプスがやるな、といった顔をした。

私とてこの百年、遊んでいた訳ではない。魔王再臨に備え、日々研鑽していたのだ。


だが、今は。
私の剣技の総てを注ぎ込んだこの勝負。

必ずや、師を越えて。


我が最愛の后、カナメに奉げる。


*****


周囲の音も聞こえなくなるほど集中し、随分長い時間戦っていたような錯覚がしたが。


ルプスは人差し指を高々と上げた。
降参デディティオネムの合図だ。

剣を納めると同時に、ルプスは地に膝をついた。


見れば、お互いぼろぼろである。
こちらもかなり体力を削られていた。

ルプスは腕の盾が砕けて、服もあちこち切れて血が滲んでいる。

私も兜は割れて落ちてるし、手甲も砕けている。
満身創痍である。


拍手と声援が、遅れて耳に届いた。


……勝ったのか、私が。
あの、ルプスに?


カナメが、オーブをルキウスに渡して、こちらへ駆けて来るのが見えた。

手をこちらへ伸ばして。
ventusウェントゥスsānātīvusサーナティウス!」


ふわり、とあたたかい風が頬を撫で。

心地好い風に、全身を包まれるのを感じた。
同時に痛みも疲労も消え去った。


「ガイウス、おめでとう……!」
涙目で飛びついてきたカナメを抱きとめる。

その時点ではすっかり回復していたので、みっともなく倒れなくて良かった。


*****


Deusデウスbenedīcatベネディーカト

『神の加護』。
もうすぐ一日も終わるというのに。

そんなにも、私を。


わああっ、と闘技場内が沸く。

気付けばカナメを抱き締め、口付けていた。
堪能してから唇を離すと。

カナメは真っ赤になって、私の胸をぺしぺし叩いた。

愛らしい。愛おしい。
私の、可愛い后。


「この勝利は、カナメに奉げようと思っていた」

絶対に負けられないと。
それだけの思いで戦っていた。

「……馬鹿……」
カナメは私の外套を引っ張った。

愛らしい仕草だが。……ズタズタになった外套や、砕けた手甲までも直っているとは。
割れた兜は、直った状態で地面に転がっている。

神聖魔法とはいえ、凄まじい威力である。


「あれ、ルプス?」
カナメは闘技場で寝っ転がっているルプスを見た。

カナメの『癒しの風』で回復しているはずなのだが。
ルプスが寝たまま起きて来ない。


「ルプス? 風に当たらなかったのか?」
ルプスの顔を覗き込んだら。

盛大に膨れっ面をしていた。

「crap! ……強くなったな、ガイウス坊ちゃんソヌス
手を差し出すと、私の手を掴んで起き上がった。

こちらもすっかり外套まで直っている。


「今日は勝ちを譲ることになったが、次は俺が巻き返す!」
「望むところだ、師匠」

手を上にあげ、叩き合う。

「次の勝負はまた、百年後の世紀競技祭の時だな」
ルプスはまだまだやる気だった。

しかも百年後とは。先が長い。


*****


「はい、ガイウス」

カナメが私の頭に月桂冠を乗せた。
私の勝利の女神からの祝福だ。

「優勝おめでと、……んんっ、」
頬に口付けをしようとしたカナメの唇を奪う。


コロッセウム内が再び、結婚おめでとう、の声援でいっぱいになる。

ああ。
結婚して良かった。

カナメと出逢えた幸せを、国民からも祝ってもらえて嬉しい。


真っ赤になっているカナメにぺしぺし可愛く叩かれながら。
観客の声援に応えた。


*****


閉幕の挨拶をして。
建国百年を祝う祭りは終わった。

しかし、祭りが終わったからといって、休んでいる暇はない。
明日も変わらず仕事である。

その変わらない毎日が大切なのだと、改めて思う。


国を動かすのには綺麗事ばかりは言っていられないが。
次回の世紀競技祭が無事開催できるよう、きちんと政を布いていかねばならない。

グラナタ・フェス自体は毎年あるのだが。
祝日と公衆浴場解放くらいは毎年やっても良いだろう。

私の誕生日祝いは、カナメからたっぷり頂いたので満足である。
来年も是非、やって欲しいものだが。


「俺、ガイウスの支えになれてるかなあ?」
控えめなカナメは、相変わらずである。支えどころではない。

「私はもう、君なしでは生きていけない。命ある限り、私を支えていて欲しい。私も、持てる力を総て使ってカナメを護ろう」


心からの言葉を。
愛を。

何度でも贈ろうと思う。
言わずに終わるより、後悔のない人生を。

そう教えてくれたのは、カナメである。


初めて人を愛することを知り、我が国をより愛するようになれた。
愛を知り、私は強くなった。

大切なものを護らねばならないからである。

我が国最強の魔術師……否、”魔法使いの王様”であり、私の最愛の后で、運命のツガイであるカナメをこちらの世界へ送ってくれた神には、心から感謝したい。


「無事終わってよかったね。肩の荷が降りたよ」
安心しているカナメも愛らしいが。

「次は、カナメが生まれてきてくれた日と、我が国に天使が舞い降りてきた日を感謝しなければな?」

カナメはええ~、と肩を落としていたが。

「で、またそれが終わったら、ガイウスの生まれてきた日に感謝だね」
悪戯っぽく笑った。


そうやって。
二人で居れば、幸せはずっと、交互に訪れるのである。




おわり
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みんなの感想(7件)

睦月
2022.07.09 睦月

可愛いモフモフな魔法使いの王様に心臓撃ち抜かれて、一気読みしちゃいました!        可愛い〜(*´▽`*)

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骨々ノック
2022.06.29 骨々ノック

めっちゃローマ感。
ローマの知識がはげしく浅い私でもとっても楽しめました(^^)

解除
acco
2022.06.28 acco

モフモフで癒されました(〃▽〃)
ローマ帝国大好きだったことを思い出し、ニヨニヨしながら楽しみました!
素敵な作品をありがとうございます

解除
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