異世界の婚活イベントに巻き込まれて言葉が通じないままイヌ耳黒騎士に娶られてネコにされてしまいました。

篠崎笙

文字の大きさ
7 / 68

意思の疎通が可能にはなったんだけど

しおりを挟む
ゼノンの言葉が理解できた途端。

蘇った。
昨日一日の記憶、すべて。


舞台の上で、俺と目が会った後。

ゼノンは真っ直ぐに俺を見て。
やっと会えた、受け取ってください、と言って。俺に花を差し出したんだ。

それで。
あなたは私の運命です、愛しています、って告白されて、キスされた。


それから、どういったマジックかはわからないけど、この国? に連れて来られた。

アドニス・レオンは、突然自分の目の前からゼノンの姿が消えたと思ったら。
しばらくして、また同じように突然戻って来た、って言った。

ゼノンはあの時点でもう、俺が男だってことはちゃんと知ってたんだ。
が自分の運命の相手だって紹介してたし。

それで。
に居たのを連れてきたとか……。

贈り物も受け取ってくれたから、結婚成立だ、とかいう理解しがたい会話をしていたような……。


そういえば周囲から、花を撒かれながら、結婚おめでとう、お幸せに、って口々に言われてたな。
もう結婚式を終えた後みたいな感じだった。

式なんか挙げた覚えはないけど。


*****


……ああ、そうか。

わかっちゃった。
舞台の上で渡されたあの花。

あれが、プロポーズだったんだ!


うっかり受け取っちゃったよ俺!
ゼノンからしてみれば、合意の上だったんだ。

なら、その後の行動も仕方ないかもしれないけど。

でも俺、こっちのルール知らなかったんだから。そんなのノーカンだろ!?
ノーカンなはずだ。

クーリングオフお願いしないと。
七日以内とはいわず、今すぐに。契約解消しないと。

もう男として大事な何かを失ってしまったような気がするけど。
犬に嚙まれたと思って忘れよう。


「あのさあ、俺、そっちのルール知らなかったんだけど!?」
ゼノンに言い募る。

「ルール?」
「あの花を受け取ったら結婚成立するってこと、俺は知らなかったんだ。だから、俺は結婚に同意してない! だから、昨日のアレは、合意じゃない。強姦だからな!?」


はっきりと自分の意思を告げると。

ゼノンは微妙な顔をした。
悲しいような困ったような、何とも表現しがたい顔。

……どういった感情なんだろう、この表情は。


ゼノンはしばらく考え込むような様子で。

「……まあ、ともかく。スオウが俺の運命の相手であるのは間違いない。こうなったのは全て神の思し召しだ。儀式の迷路がスオウの世界と繋がったのも、そういうことだろう」
と結論付けた。

何だそりゃ。
どういうことだよ。


*****


ゼノンが説明するには。

最初に俺達がいた場所は、この世界の中心に位置する、カルデアポリっていう国で。
ここでは皆、30歳になるまでに結婚しないといけないって神様に決められていて。

あの迷路みたいな白い壁のある場所は、結婚相手を決める儀式とか神事を行うのに使われているとかで。
あの白い塔には、実際に神様が棲んでるらしい。


今まで誰かを好きになったことも、発情したこともなかったゼノンは、いっそ修道士になろうかと思うくらい儀式に乗り気じゃなかったんだけど。
俺の……運命の相手、つまりツガイの匂いがするのに気づいた。

結婚する気なんかなかったから贈り物を用意してなかったので、焦って祝いの花を一輪貰って、急いで迷路に入った。

しばらく進んだら、急に目の前の時空が歪んで。
そこから漂ってくるツガイの匂いを追って、歪みに突っ込んだら、うちの学校の舞台に出たらしい。

獣耳のない人間が大勢いることに動揺した、とか言ってるけど。
そういう風には見えなかったな。

っていうか、目の前の空間が歪んでたりしたら、俺なら怖くなって逃げる。
何でそこで歪みに突っ込むのか。勇気ありすぎだろ。


「こんなに愛らしく、美しい少年が俺のツガイゼーヴゴスだと知って、とても嬉しかった。他の一切、目に入らなくなるほどに」
ゼノンはにこっと微笑んだ。


運命の相手を目の前にしたら。
もう居ても立っても居られない気持ちになって。

こんな花一輪では受け取ってもらえないだろうか、と思いながらも、必死な思いで花を差し出したら。
すぐに受け取ってもらえたので、嬉しくてついキスしてしまった、と。


で俺のファーストキスを奪うな。


婚姻の儀式も無事済ませたことだし。
早く家に連れて帰ろうと俺のことを抱き上げて、そのまま歪みがあった場所へ向かって歩いたら、いつの間にか元の世界に戻っていたらしい。

さすがに次元を二度も移動したのには驚いたって?

全然動揺していたように見えなかった。
当たり前みたいな感じで、普通に歩いてたように見えたのに。

っていうか次元の移動って、そんな簡単に出来るもんなの!?

いつの間にか異世界来ちゃったとか。
普通、メチャクチャびっくりするじゃん!

こんな漫画とかラノベみたいな世界が実際にあったんだ、とか動揺しないの!? 俺は今、してるけど!


「こちらに難なく戻ってこれたのも、それが神の御意思であるからだろう、と納得した」

ああ、神の御意思で納得しちゃうんだ。
神様がリアルにいる世界ならそうなのかもな……。


*****


夫である自分の名前を呼ぶよりも先にアドニスの名を呼んだのでムッとしたけど。

見知らぬ場所に連れてこられたせいか、不安そうにきょろきょろと辺りを見回している俺を見て。
ここではもう頼れるのは夫である自分しかいないのだから、大切にしないといけないと思って気を取り直して。

とにかく早く家に帰って”初夜の儀式”を済ませようと、自分の住む国であるヴォーレィオ国へ馬車で戻ったらしい。

何だよ”初夜の儀式”って。
えっちすることか?


「そしてここはヴォーレィオ王国の領地にある、俺の家だ。これでも王太子と呼ばれる身分なので色々と忙しいが。この国にも慣れて欲しいので新婚旅行がてら、案内するつもりだ」

あ、やっぱり王子様だったんだ。
ナチュラルに偉そうだもんな。

王太子って。
確か、次の王様になる候補ナンバーワンのことだったよな。


「王様もいるの?」
「ここは俺の家なので、城にいる。後で紹介しよう」

ここ、城じゃなくてゼノンのなんだ。
家でこの規模とか、じゃあ城とやらはどんだけ広いんだろ……。

じゃなくて!
「いや、だから。俺を元の世界に帰してくれよ!!」


何で着々と結婚後にする親への挨拶とかの話になってんだよ!?

俺が王様のこと聞いちゃったのが悪いんだろうけど。

俺はこっちのルールなんて知らなかったんだから、婚姻の儀式とやらも無効だって言ってるのに。
言葉は通じてるはずなのに。


何で、伝わらないんだよ?
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

猫の王子は最強の竜帝陛下に食べられたくない

muku
BL
 猫の国の第五王子ミカは、片目の色が違うことで兄達から迫害されていた。戦勝国である鼠の国に差し出され、囚われているところへ、ある日竜帝セライナがやって来る。  竜族は獣人の中でも最強の種族で、セライナに引き取られたミカは竜族の住む島で生活することに。  猫が大好きな竜族達にちやほやされるミカだったが、どうしても受け入れられないことがあった。  どうやら自分は竜帝セライナの「エサ」として連れてこられたらしく、どうしても食べられたくないミカは、それを回避しようと奮闘するのだが――。  勘違いから始まる、獣人BLファンタジー。

愛を知らない少年たちの番物語。

あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。 *触れ合いシーンは★マークをつけます。

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

黒豹拾いました

おーか
BL
森で暮らし始めたオレは、ボロボロになった子猫を拾った。逞しく育ったその子は、どうやら黒豹の獣人だったようだ。 大人になって独り立ちしていくんだなぁ、と父親のような気持ちで送り出そうとしたのだが… 「大好きだよ。だから、俺の側にずっと居てくれるよね?」 そう迫ってくる。おかしいな…? 育て方間違ったか…。でも、美形に育ったし、可愛い息子だ。拒否も出来ないままに流される。

転生したら猫獣人になってました

おーか
BL
自分が死んだ記憶はない。 でも…今は猫の赤ちゃんになってる。 この事実を鑑みるに、転生というやつなんだろう…。 それだけでも衝撃的なのに、加えて俺は猫ではなく猫獣人で成長すれば人型をとれるようになるらしい。 それに、バース性なるものが存在するという。 第10回BL小説大賞 奨励賞を頂きました。読んで、応援して下さった皆様ありがとうございました。 

処理中です...