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意思の疎通が可能にはなったんだけど
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ゼノンの言葉が理解できた途端。
蘇った。
昨日一日の記憶、すべて。
舞台の上で、俺と目が会った後。
ゼノンは真っ直ぐに俺を見て。
やっと会えた、受け取ってください、と言って。俺に花を差し出したんだ。
それで。
あなたは私の運命です、愛しています、って告白されて、キスされた。
それから、どういったマジックかはわからないけど、この国? に連れて来られた。
アドニス・レオンは、突然自分の目の前からゼノンの姿が消えたと思ったら。
しばらくして、また同じように突然戻って来た、って言った。
ゼノンはあの時点でもう、俺が男だってことはちゃんと知ってたんだ。
彼が自分の運命の相手だって紹介してたし。
それで。
別の次元に居たのを連れてきたとか……。
贈り物も受け取ってくれたから、結婚成立だ、とかいう理解しがたい会話をしていたような……。
そういえば周囲から、花を撒かれながら、結婚おめでとう、お幸せに、って口々に言われてたな。
もう結婚式を終えた後みたいな感じだった。
式なんか挙げた覚えはないけど。
*****
……ああ、そうか。
わかっちゃった。
舞台の上で渡されたあの花。
あれが、プロポーズだったんだ!
うっかり受け取っちゃったよ俺!
ゼノンからしてみれば、合意の上だったんだ。
なら、その後の行動も仕方ないかもしれないけど。
でも俺、こっちのルール知らなかったんだから。そんなのノーカンだろ!?
ノーカンなはずだ。
クーリングオフお願いしないと。
七日以内とはいわず、今すぐに。契約解消しないと。
もう男として大事な何かを失ってしまったような気がするけど。
犬に嚙まれたと思って忘れよう。
「あのさあ、俺、そっちのルール知らなかったんだけど!?」
ゼノンに言い募る。
「ルール?」
「あの花を受け取ったら結婚成立するってこと、俺は知らなかったんだ。だから、俺は結婚に同意してない! だから、昨日のアレは、合意じゃない。強姦だからな!?」
はっきりと自分の意思を告げると。
ゼノンは微妙な顔をした。
悲しいような困ったような、何とも表現しがたい顔。
……どういった感情なんだろう、この表情は。
ゼノンはしばらく考え込むような様子で。
「……まあ、ともかく。スオウが俺の運命の相手であるのは間違いない。こうなったのは全て神の思し召しだ。儀式の迷路がスオウの世界と繋がったのも、そういうことだろう」
と結論付けた。
何だそりゃ。
どういうことだよ。
*****
ゼノンが説明するには。
最初に俺達がいた場所は、この世界の中心に位置する、カルデアポリっていう国で。
ここでは皆、30歳になるまでに結婚しないといけないって神様に決められていて。
あの迷路みたいな白い壁のある場所は、結婚相手を決める儀式とか神事を行うのに使われているとかで。
あの白い塔には、実際に神様が棲んでるらしい。
今まで誰かを好きになったことも、発情したこともなかったゼノンは、いっそ修道士になろうかと思うくらい儀式に乗り気じゃなかったんだけど。
俺の……運命の相手、つまりツガイの匂いがするのに気づいた。
結婚する気なんかなかったから贈り物を用意してなかったので、焦って祝いの花を一輪貰って、急いで迷路に入った。
しばらく進んだら、急に目の前の時空が歪んで。
そこから漂ってくるツガイの匂いを追って、歪みに突っ込んだら、うちの学校の舞台に出たらしい。
獣耳のない人間が大勢いることに動揺した、とか言ってるけど。
そういう風には見えなかったな。
っていうか、目の前の空間が歪んでたりしたら、俺なら怖くなって逃げる。
何でそこで歪みに突っ込むのか。勇気ありすぎだろ。
「こんなに愛らしく、美しい少年が俺のツガイだと知って、とても嬉しかった。他の一切、目に入らなくなるほどに」
ゼノンはにこっと微笑んだ。
運命の相手を目の前にしたら。
もう居ても立っても居られない気持ちになって。
こんな花一輪では受け取ってもらえないだろうか、と思いながらも、必死な思いで花を差し出したら。
すぐに受け取ってもらえたので、嬉しくてついキスしてしまった、と。
ついで俺のファーストキスを奪うな。
婚姻の儀式も無事済ませたことだし。
早く家に連れて帰ろうと俺のことを抱き上げて、そのまま歪みがあった場所へ向かって歩いたら、いつの間にか元の世界に戻っていたらしい。
さすがに次元を二度も移動したのには驚いたって?
全然動揺していたように見えなかった。
当たり前みたいな感じで、普通に歩いてたように見えたのに。
っていうか次元の移動って、そんな簡単に出来るもんなの!?
いつの間にか異世界来ちゃったとか。
普通、メチャクチャびっくりするじゃん!
こんな漫画とかラノベみたいな世界が実際にあったんだ、とか動揺しないの!? 俺は今、してるけど!
「こちらに難なく戻ってこれたのも、それが神の御意思であるからだろう、と納得した」
ああ、神の御意思で納得しちゃうんだ。
神様がリアルにいる世界ならそうなのかもな……。
*****
夫である自分の名前を呼ぶよりも先にアドニスの名を呼んだのでムッとしたけど。
見知らぬ場所に連れてこられたせいか、不安そうにきょろきょろと辺りを見回している俺を見て。
ここではもう頼れるのは夫である自分しかいないのだから、大切にしないといけないと思って気を取り直して。
とにかく早く家に帰って”初夜の儀式”を済ませようと、自分の住む国であるヴォーレィオ国へ馬車で戻ったらしい。
何だよ”初夜の儀式”って。
えっちすることか?
「そしてここはヴォーレィオ王国の領地にある、俺の家だ。これでも王太子と呼ばれる身分なので色々と忙しいが。この国にも慣れて欲しいので新婚旅行がてら、案内するつもりだ」
あ、やっぱり王子様だったんだ。
ナチュラルに偉そうだもんな。
王太子って。
確か、次の王様になる候補ナンバーワンのことだったよな。
「王様もいるの?」
「ここは俺の家なので、城にいる。後で紹介しよう」
ここ、城じゃなくてゼノンの家なんだ。
家でこの規模とか、じゃあ城とやらはどんだけ広いんだろ……。
じゃなくて!
「いや、だから。俺を元の世界に帰してくれよ!!」
何で着々と結婚後にする親への挨拶とかの話になってんだよ!?
俺が王様のこと聞いちゃったのが悪いんだろうけど。
俺はこっちのルールなんて知らなかったんだから、婚姻の儀式とやらも無効だって言ってるのに。
言葉は通じてるはずなのに。
何で、伝わらないんだよ?
蘇った。
昨日一日の記憶、すべて。
舞台の上で、俺と目が会った後。
ゼノンは真っ直ぐに俺を見て。
やっと会えた、受け取ってください、と言って。俺に花を差し出したんだ。
それで。
あなたは私の運命です、愛しています、って告白されて、キスされた。
それから、どういったマジックかはわからないけど、この国? に連れて来られた。
アドニス・レオンは、突然自分の目の前からゼノンの姿が消えたと思ったら。
しばらくして、また同じように突然戻って来た、って言った。
ゼノンはあの時点でもう、俺が男だってことはちゃんと知ってたんだ。
彼が自分の運命の相手だって紹介してたし。
それで。
別の次元に居たのを連れてきたとか……。
贈り物も受け取ってくれたから、結婚成立だ、とかいう理解しがたい会話をしていたような……。
そういえば周囲から、花を撒かれながら、結婚おめでとう、お幸せに、って口々に言われてたな。
もう結婚式を終えた後みたいな感じだった。
式なんか挙げた覚えはないけど。
*****
……ああ、そうか。
わかっちゃった。
舞台の上で渡されたあの花。
あれが、プロポーズだったんだ!
うっかり受け取っちゃったよ俺!
ゼノンからしてみれば、合意の上だったんだ。
なら、その後の行動も仕方ないかもしれないけど。
でも俺、こっちのルール知らなかったんだから。そんなのノーカンだろ!?
ノーカンなはずだ。
クーリングオフお願いしないと。
七日以内とはいわず、今すぐに。契約解消しないと。
もう男として大事な何かを失ってしまったような気がするけど。
犬に嚙まれたと思って忘れよう。
「あのさあ、俺、そっちのルール知らなかったんだけど!?」
ゼノンに言い募る。
「ルール?」
「あの花を受け取ったら結婚成立するってこと、俺は知らなかったんだ。だから、俺は結婚に同意してない! だから、昨日のアレは、合意じゃない。強姦だからな!?」
はっきりと自分の意思を告げると。
ゼノンは微妙な顔をした。
悲しいような困ったような、何とも表現しがたい顔。
……どういった感情なんだろう、この表情は。
ゼノンはしばらく考え込むような様子で。
「……まあ、ともかく。スオウが俺の運命の相手であるのは間違いない。こうなったのは全て神の思し召しだ。儀式の迷路がスオウの世界と繋がったのも、そういうことだろう」
と結論付けた。
何だそりゃ。
どういうことだよ。
*****
ゼノンが説明するには。
最初に俺達がいた場所は、この世界の中心に位置する、カルデアポリっていう国で。
ここでは皆、30歳になるまでに結婚しないといけないって神様に決められていて。
あの迷路みたいな白い壁のある場所は、結婚相手を決める儀式とか神事を行うのに使われているとかで。
あの白い塔には、実際に神様が棲んでるらしい。
今まで誰かを好きになったことも、発情したこともなかったゼノンは、いっそ修道士になろうかと思うくらい儀式に乗り気じゃなかったんだけど。
俺の……運命の相手、つまりツガイの匂いがするのに気づいた。
結婚する気なんかなかったから贈り物を用意してなかったので、焦って祝いの花を一輪貰って、急いで迷路に入った。
しばらく進んだら、急に目の前の時空が歪んで。
そこから漂ってくるツガイの匂いを追って、歪みに突っ込んだら、うちの学校の舞台に出たらしい。
獣耳のない人間が大勢いることに動揺した、とか言ってるけど。
そういう風には見えなかったな。
っていうか、目の前の空間が歪んでたりしたら、俺なら怖くなって逃げる。
何でそこで歪みに突っ込むのか。勇気ありすぎだろ。
「こんなに愛らしく、美しい少年が俺のツガイだと知って、とても嬉しかった。他の一切、目に入らなくなるほどに」
ゼノンはにこっと微笑んだ。
運命の相手を目の前にしたら。
もう居ても立っても居られない気持ちになって。
こんな花一輪では受け取ってもらえないだろうか、と思いながらも、必死な思いで花を差し出したら。
すぐに受け取ってもらえたので、嬉しくてついキスしてしまった、と。
ついで俺のファーストキスを奪うな。
婚姻の儀式も無事済ませたことだし。
早く家に連れて帰ろうと俺のことを抱き上げて、そのまま歪みがあった場所へ向かって歩いたら、いつの間にか元の世界に戻っていたらしい。
さすがに次元を二度も移動したのには驚いたって?
全然動揺していたように見えなかった。
当たり前みたいな感じで、普通に歩いてたように見えたのに。
っていうか次元の移動って、そんな簡単に出来るもんなの!?
いつの間にか異世界来ちゃったとか。
普通、メチャクチャびっくりするじゃん!
こんな漫画とかラノベみたいな世界が実際にあったんだ、とか動揺しないの!? 俺は今、してるけど!
「こちらに難なく戻ってこれたのも、それが神の御意思であるからだろう、と納得した」
ああ、神の御意思で納得しちゃうんだ。
神様がリアルにいる世界ならそうなのかもな……。
*****
夫である自分の名前を呼ぶよりも先にアドニスの名を呼んだのでムッとしたけど。
見知らぬ場所に連れてこられたせいか、不安そうにきょろきょろと辺りを見回している俺を見て。
ここではもう頼れるのは夫である自分しかいないのだから、大切にしないといけないと思って気を取り直して。
とにかく早く家に帰って”初夜の儀式”を済ませようと、自分の住む国であるヴォーレィオ国へ馬車で戻ったらしい。
何だよ”初夜の儀式”って。
えっちすることか?
「そしてここはヴォーレィオ王国の領地にある、俺の家だ。これでも王太子と呼ばれる身分なので色々と忙しいが。この国にも慣れて欲しいので新婚旅行がてら、案内するつもりだ」
あ、やっぱり王子様だったんだ。
ナチュラルに偉そうだもんな。
王太子って。
確か、次の王様になる候補ナンバーワンのことだったよな。
「王様もいるの?」
「ここは俺の家なので、城にいる。後で紹介しよう」
ここ、城じゃなくてゼノンの家なんだ。
家でこの規模とか、じゃあ城とやらはどんだけ広いんだろ……。
じゃなくて!
「いや、だから。俺を元の世界に帰してくれよ!!」
何で着々と結婚後にする親への挨拶とかの話になってんだよ!?
俺が王様のこと聞いちゃったのが悪いんだろうけど。
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