異世界の婚活イベントに巻き込まれて言葉が通じないままイヌ耳黒騎士に娶られてネコにされてしまいました。

篠崎笙

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ディティコ王城、到着

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しばらく一本道が続いて。
ようやくディティコ王国の城っぽいのが見えてきた。

やたら長く感じる道のりだった……。


城の前の、駐車場……馬車置き場? に馬車を停めて。
ゼノンは安心したように大きく息を吐いた。

もう6時間近くも罠を警戒しつつ、魔法を使ってたんだし。
かなり気を張ってただろう。

疲れるのも当たり前だよな。


*****


「お疲れさま」
あんまり意味はないだろうけど、肩を揉んだりして。

痛いの痛いの飛んでけ~、って。
本当に飛んでったら良いんだけどな。あんな罠張った奴に。倍返しで。


「ありがとう、本当に疲れが飛んでいった」

嬉しそうにしっぽを揺らしてる。
やっぱり反応が可愛いな。


「あー、私もずっと上を見ていたので首が疲れたなあ」

「陛下、みっともないのでやめて下さい」
ちらちらとこっちを見ながら、わざとらしく首を抑えていたレオニダス王は、近衛騎士に引きずられていった。

竜族だからか、わりと細めに見えるのに、騎士も凄い力だな。

後から他の騎士も数人着いて行った。あっちは大所帯だ。
ってゼノンが警備少なすぎるんだけど。


コントみたいな二人のやり取りに思わず笑ってしまったら、ゼノンも笑った。
みんな無事に着いてよかったな。

抱き上げられて、馬車を降りる。
馬止めに馬を繋いできたタキとノエが後ろに着いて。

いよいよディティコ王国の城へ突入だ。


色々足止めされたし。
何が待ち受けてるかわからない。

なんかドキドキしてきた。
俺はなるべく、ゼノンの側から離れないように気をつけなくちゃ。

……男として、かなり情けないような気がするけど。
弱いのは事実なんだから、しょうがない。

俺も、魔法とか覚えられたら良いんだけどな……。
剣は多分無理。

体育の成績はずっと普通……正直に言えば運動音痴だった。


*****


ディティコ王国の城は、外観からして豪華だった。
金だよ、オール金!

金閣寺もびっくりの金ピカ装飾っぷりに、目がチカチカしてきそう。
夏とか、反射で熱くならないかね?


中に入ったら、さすがに内装までは金尽くしじゃなかったのでホッとする。
でも、あからさまに高そうな調度品ばっかりだ。

それにしても趣味が悪い……。

金とか宝石とかがゴテゴテついてて、装飾過剰だ。
それに、ただ高価だったから手あたり次第に集めたような感じで、統一性が無いんだよな。

何かこれに相応しい言葉があったな。

……あ、そうだ。
成金だ! 成金趣味!


「相変わらず悪趣味だねえ?」

アドニスがはっきり言っちゃった。
みんな思っても言わなかっただろうに。

「贋作は無いので、見る目は確かなのがまた癪だ……」
ゼノンはうんざりしたように溜息を吐いた。


レオニダス王が近衛騎士と、こそこそ「これって趣味が悪いのか?」「そうみたいですね」なんて話をしてる。

趣味が合うのか……。

竜族は派手好きなようだ。
そういえば、アナトリコ王国の城も色使いが派手だった。

でもちゃんと統一性はあったし、悪趣味ではなかったと思う。


ゼノンの家は、本人と同じで質実剛健! って感じ?
飾り気はあんまり無くても品がある。実家もそんな感じだった。

あ、そういえば。
これでこの世界の王城、ほとんど見たことになるんだ。


残すはノーティオ王国、アドニスの実家だけだ。
見る機会、あるかなあ?


大きなホールに案内されて。
その入り口には、大きな灰色の熊が立っていた。

いや、顔の半分以上が髭で顔が見えないだけの、熊耳がついた人だった。

それに、やたらでかい。
竜人のレオニダス王よりも大きいってどういうこと!?

ここの熊って、竜より大きいの!?


*****


「ようこそみなさん、今日は来てくれてありがとう」
声は意外と若かった。

「セルジオスのやつ、全然変わってないな……」
うんざりしたようなアドニスの声。


え、あれがセルジオス王なの? 王様が自ら出迎えちゃうんだ。

そういえばゼノンやアドニスと同世代なんだっけ?
髭で隠れて顔が見えないから、年齢がよくわかんないや。

レオニダス王と握手してる。
なんか噂よりも普通っぽいけど。人は見かけによらないっていうしな……。


「おお、ゼノン、よく来てくれた。相変わらず美しい毛並みだ……ん?」
両手を広げてゼノンを歓迎の意を示したセルジオス王が、俺に視線を移したようだ。

さすがに、失礼だからって腕からは降ろしてもらったけど。
ぴったりくっついてる。

「……俺のツガイ、スオウだ」
「はじめまして、」


「おお……、うおおおおおおお!!!」

セルジオス王は、突然咆哮のような声を上げたかと思ったら。
ダッシュで横にあったドアに消えた。

巨体なのに、素早いな。

何事かとその場で呆然としていたら。
凄い勢いで戻って来た。


あ、顔を覆ってた髭が無くなってる。

今、隣の部屋で剃って来たみたいだ。
でも、何で?


髭の無くなった顔は整っていて。
灰色の髪、垂れ目がちの紫色の目をした色男だった。

王族って、みんなイケメン揃いなんだ……。
美人の王妃を貰ったりするからかな?


「生まれて初めて女性に胸を射抜かれた……不覚にも」

はい?
何だって?


「麗しの君、ディティコ王国の王妃になりませんか?」


*****


「スオウは俺のツガイだと言っただろうが。貴様の脳は軽石か? それとも俺を斃して手に入れるとでもいうのか」
「え? そんな、……ぐわっ!?」

ゼノンは容赦なくセルジオス王の脛を蹴っ飛ばした。
セルジオス王は痛そうに脛を押さえて跳ねてる。

おいおい、相手、他国の王様だよ!?


「じゃあ二人とも我が国に嫁いでくればいいじゃないか……痛い、痛いというに」
今度はお尻を蹴飛ばされて涙目になってる。

黙ってればハンサムなのに。
色々残念過ぎる。


次に、アドニスの結婚報告を受けて。
セルジオス王は自分も儀式に参加すればよかった、ってがっくりしてた。

前の王様が死んでしまって以降、それどころじゃなかったらしい。


「今日までも、やっと王位継承したっていうのに相変わらず命は狙われるし、大変だったんだよ。ははは」
明るく笑ってるけど。

笑い事じゃない。
王様になってまで、現在進行形で命を狙われてるって。

ここに来るまでにあった様々な妨害も、その関係だったり?


「臣下にまで嫌われてるのか……」
ゼノン、いくらセルジオス王がウザくても、それは言い過ぎだよ!?
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