異世界の婚活イベントに巻き込まれて言葉が通じないままイヌ耳黒騎士に娶られてネコにされてしまいました。

篠崎笙

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一時帰還

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「そういえば、モグラ族の人達は、あれからどうしてます?」


レオニダス王がゴフッ、とむせった。

喉に食べ物を詰まらせてしまったようだ。
顔が真っ赤だ。

後ろに控えていたデメトリが慌てて飛んできて、背を叩いてる。
気管に入った場合、背中を叩いちゃ駄目だっていうよ?


「すみません、俺がいきなり話しかけたから。驚かせたみたいで……」

「い、いや、天使殿のせいではないので、ご心配なく……、」
まだむせってるみたいだ。

……回復魔法おまじない、掛けた方がいいかな?


「あの者達でしたら、さすがにが過ぎたのでこの城周辺から出入り禁止にしました」
まだ苦しそうなレオニダス王の代わりに、デメトリが答えた。

そうなんだ。
でも、そのくらいの罰で済んで良かったな。


下手すれば、不敬罪とかでお手討ちになってたかもしれないし。


*****


デザートトラゲーマタにはロダキノなどを用意しております。お嫌いでないといいのですが」
デメトリがレオニダス王にナプキンを渡しながら、俺に振り返って言った。


「あ、好物です。桃、こっちにもあるんだ。嬉しいなあ」
東の国は、色々中華風なのかな?

「それは何よりです。陛下が天上人様に是非とも喜んでいただきたく、張り切って取り寄せさせたものですので」

「こら、デメトリ。それは内緒にしておくよう言っただろう」
恥ずかしそうに咳払いしている。

……やっぱり仲良いな、この二人。


桃を使ったデザートとか、フルーツ盛り沢山のケーキとか出てきて。
どれも美味しかった。

「ご馳走さまでした。どれも美味しかったです」
お礼を言ったら、レオニダス王はとても嬉しそうだった。

「申し訳ない、そろそろ戻らねばならない用事が……、」
ゼノンが懐中時計を取り出して言った。


あ、そうだった。
すぐ帰る予定だったんだっけ。

思ったより長居してしまった。
タキとノエ、心配してるだろうな。


「それは残念。……どうですかな。天使殿のご友人は、こちらで預かって様子を見てみる、というのは」

依井も乗り気だったし。
婚姻の儀式を試してみたらどうか、という話のようだ。

「後日改めて、彼を迎えに来られたらよい」


飛竜は三人も乗れないので。
どのみちヴォーレィオから馬車を連れてくる必要がある。

なので、一度国に戻って、改めて迎えに来たら良いって言ってくれたんだ。


*****


「ではお言葉に甘えて。お願いできますか、アナトリコ王」
「私の名に掛けて、丁重に扱おう」

ゼノンとレオニダス王が握手をしている。
おお、進展……。


俺はレオニダス王の言葉を、依井に通訳した。

さすがにここに一人で置いてかれるのは心細いようだけど。
またすぐ来るよ、と言ったら。ほっとしたようだ。

でも、俺がいたら、”儀式”をするのも気まずいだろう。


見送りには、みんなで屋上に来てくれた。

「おそーい」
アルギュロスは待ちかねた様子で、羽根をばたばたさせている。

「遅くなってごめん、アルギュロス」

「んー、待ったよー。でも、ここの人におやつもらって食べてたから大丈夫ー」
「そうか、おやつもらったんだ。良かったな」

擦り寄って来るアルギュロスの頭を、よしよしと撫でてやる。


「天使殿、まさか、飛竜の言葉も理解されているので……?」
レオニダス王とデメトリが目を丸くして驚いている。

あ、いけね。
飛竜と話せるの、バレちゃった。

でも、アルギュロスが話しかけてくるのをシカトするわけにもいかないし。
この二人は俺が方言も理解してるって知ってるからいいか。


竜族ですら、魔力が高くないと意思の疎通は出来ないらしい。
レオニダス王は飛竜の言ってること、何となくわかるって。

それも凄いんじゃないの?


「天上人はこの世の全ての生物の言葉を操る、という言い伝えは真実だった……」
一人で納得して、しみじみ頷いている。

ああ、レオニダス王の俺への印象が、どんどん爆ageしていく……。

本当は天上人じゃないんだけど。
そう思われている方が都合が良いようなので、そういうことにしておこう。


バチが当たりませんように。


*****


「改めて、捜索して下さってありがとうございました。依井のこと、よろしくお願いします」
改めて、レオニダス王にお礼をする。


「いやいや、礼などよろしいのです。度々こうして遊びに来ていただければ嬉しいのですが……」

「遊びに……行きたいですけど……、」
振り返って、ゼノンを見た。

ゼノンは苦虫を嚙み潰したような顔をしてるけど。
仕方なさそうに頷いてみせた。


「伴侶の許可も出たようですので、また遊びに来ますね!」

「この次は、また空の話をお聞きしたいが。よろしいですかな?」
「ええ、喜んで」


心細そうな顔をしてる依井のほうを見て。
「じゃあ、俺達は一旦家に帰るけど。また来るから。……上手くいくといいな」

「ああ、次に会う時は、こっちの言葉を流暢に話せるようになったハイパーマックスな成長を遂げた俺と会えるよう祈っててくれ」


ハイタッチ。

依井の手を叩く。
すっかり硬い手になっていた。


アルギュロスの背に乗って。
レオニダス王とデメトリ、依井がどんどん小さくなっていく。


*****


「……良かったな」

「え?」
何が?

「向こうの友人と出逢えて、楽しそうだった。……あの状況で飛び出せる者はなかなかいないだろう。そういう友は得難いものだ」 
「うん。ゼノンとアドニスが仲良くて羨ましかったから、久しぶりに友達と話せて嬉しかった」

依井にしてみれば酷い目に遭ったんだろうけど。
これからは、俺にできるフォローはしていきたいと思う。


「アドニスに、妬いたのか?」
何でそんな嬉しそうな顔をしてるかな。

そうだよ。
妬いたけど何か?


「……戻ったら、山積みの仕事片づけるの頑張ってね。早く依井の様子を見に行きたいんだから」

「む、」
仕事のことを思い出したゼノンは、渋い顔をした。

「こっちの文字を覚えたら猫の手貸してやるからさ。待ってろよ?」
にゃん、とゼノンの腕に猫手にした手を乗せる。


「ああ、楽しみだな」
すぐに機嫌を直した。

ゼノンは本当に俺のことが大好きなんだなあ。


依井も、成功してもしなくても、結婚相手のこと好きになれたらいいんだけど。
こればっかりは難しいか。
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