異世界の婚活イベントに巻き込まれて言葉が通じないままイヌ耳黒騎士に娶られてネコにされてしまいました。

篠崎笙

文字の大きさ
46 / 68

今度はノーティオで

しおりを挟む
パラスケヴィの家に着いた。


タキやノエ達はやっぱり、帰りが遅いのを心配してたようだ。
でも、遅くなった理由を説明したら、良かったですね、って言ってくれた。


「しかし、次にご友人を馬車で迎えに行く時は、絶対に、着いて行きますからね」
と念を押すのは忘れなかった。

置いてけぼりにしてごめんってば。


*****


「でも、いいのかなあ」

「何がだ?」
「アナトリコの国的には、俺や徳田さん……仙人みたいに、ここにはない知識を持ってる人って、喉から手が出るほど欲しい人材じゃないの? 俺が依井を連れて帰ったら、捜索しただけ損じゃない?」


先日俺が何気なく言った温室栽培も、すでに実験段階に入ってて。
それが上手くいきそうだという話で。

これが本格的になれば、輸入に頼らなくても暖かい地方の植物を栽培可になる。
少なからず、輸入と輸出のバランスが崩れるんじゃないかな?


「……レオニダスは、国益より何よりも、スオウの信頼を得ることを選んだのだろう」

「俺の?」
レオニダス王は立派な国王だなって信頼なら、とっくにしてるけど。

「俺に信頼されて、何の得があるの?」


俺はヴォーレィオ王国の王子であるゼノンの伴侶だし。
仲良くなっても、アナトリコの国益になることは言わないと思うけど。

そう言うと。
ゼノンははあ、と大きな溜息を吐いた。

「全く、厄介なのに目をつけられてしまったな……、これもスオウが自然体で魅力的な故か……」
何言ってんの?


それにしても。
中学生の時からの友人に、猫耳猫しっぽの女装姿、しかも王子様にお姫様抱っこされてる姿を見られてしまったという現実。

しょうがなかったとはいえ。
ゼノンとえっちして猫になってこっちの言葉がわかるようになった、なんて話を人前で話してしまった。

冷静になってみれば、恥ずかしすぎる……!


ゼノンは仕事場に行ったから、俺も図書室で勉強したいところだけど。
今日はふとんにダイブして、ふて寝することにする。


でも、大きなベッドをいくらゴロゴロしても、恥ずかしさは消えないのだった。


*****


「ええっ!? 今度はノーティオで”耳の無いヒト”が見つかった!?」


ヴォーレィオには徳田さんと俺。
アナトリコには依井。

アドニスも、探してくれたんだろうけど。
短期間で、異世界人集まり過ぎじゃないか?

それとも、案外異世界の扉ってそんなに簡単に開いちゃうもんなの?
いや、まだノーティオで見つかったのが異世界人だとは決定してないのか。


「ああ。アドニスが確認したので確実だ。ただ、やはり言葉が通じないので……」

そうか。
アドニスは俺がまだ猫じゃない時の耳も見てるからな。

「俺に確認して欲しい、ってわけね。OK」


どうでもいいけど、英語の『OK』ってどういう風に翻訳されてるんだろう。
普通に翻訳されてそう。

カタカナ語を混ぜるギャグが通じないなんて、お笑い芸人には辛い世界だな。


「さすがに、今度も俺の知り合いだなんていうミラクルは無いと思うけど。とりあえず、確認だけしてみたい」
「ああ、では飛竜で行こう」

近衛騎士のタキとノエ、またしてもお留守番である。


「スオウ! またアナトリコに行くの?」
塔へ行くと、アルギュロスが羽根をばたばたさせて喜んで迎えた。

待機時間が多いせいか、お出かけが大好きなのだ。


「今度はノーティオまで乗せてって欲しいんだ」
「もちろん、よろこんで! またおやつもらえるかなあ?」

どうやらアナトリコでもらったおやつが気に入ったようだ。

ゼノンに通訳したら。
おやつをもらえるようお願いしてくれるそうだ。


*****


アルギュロスに乗って、ノーティオへ。


ノーティオへは、カルデアポリを経由して行かないといけない。
カルデアポリまで、馬車だと片道6時間掛かるのが、飛竜だとあっという間だ。

これでは汽車や飛行機は必要なさそうだ。
唯一の問題は乗れる人数が少ないだけで、便利だもん。


……あ、あれがカルデアポリとの国境かな? 
初めて見れた!

アナトリコとの国境ほど厳重じゃないのは、神域だからかな?
神様を信じてないようで、不敬になるから。


カルデアポリに近づいたら、アルギュロスが飛ぶ高度を下げた。

あまり上を飛んだら神様に怒られちゃうからね、って。
あの塔にいる神様に直、お叱りを受けるのか……。

すごい世界だなあ。


この世界は、神様が直接見守ってくれてるから。
天災とか天候が大きく崩れることも無く、ここの人達が生活していけるんだろうな。

これからも見守っていてくれるよう、お祈りしておこう。


「ん? 神の塔に、何か祈ったのか?」
「うん。これからもここの人達を見守ってくださいって」

「そうか」
ぎゅっと抱き締められる。

「スオウは欲が無い」


そうかなあ?
何事もなく平和を望むって、かなり貪欲なことだと思うけど。

天災のある異世界から来たからかな?
台風も地震も無いって、凄く幸せな世界だと思うよ。


*****


カルデアポリとノーティオの国境に着いて。

国境で、アドニスが待っていた。
遠目にも鮮やかな、青いマントが翻る。


「おーい、こっちこっち、」
アドニスも飛竜に乗って、”耳の無いヒト”がいる場所まで案内してくれるようだ。

「こんにちわー」
「元気?」
飛竜同士、嬉しそうに挨拶してる。

可愛いな。
言葉がどこか子供っぽいせいもあるけど。

そっちは最近どう? なんて世間話してる。


話の内容をゼノンに伝えると。
友好国のノーティオだからまだいいが、国防的には困るらしい。

飛竜って、空から色々見てるもんな。
でも、言葉がわかる人はそうそういないし、大丈夫じゃないかな?


着いたのは、ノーティオの港町の外れだった。
南の国っぽい、白い砂浜、碧い海が綺麗だ。泳ぎたい……。


その人は、海沿いの、木で作られた小屋に住んでいるらしい。

アドニスが耳を確認するために、じろじろと覗き込んでしまったせいか、警戒されて。
小屋に閉じこもって、出てきてくれないんだそうだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

猫の王子は最強の竜帝陛下に食べられたくない

muku
BL
 猫の国の第五王子ミカは、片目の色が違うことで兄達から迫害されていた。戦勝国である鼠の国に差し出され、囚われているところへ、ある日竜帝セライナがやって来る。  竜族は獣人の中でも最強の種族で、セライナに引き取られたミカは竜族の住む島で生活することに。  猫が大好きな竜族達にちやほやされるミカだったが、どうしても受け入れられないことがあった。  どうやら自分は竜帝セライナの「エサ」として連れてこられたらしく、どうしても食べられたくないミカは、それを回避しようと奮闘するのだが――。  勘違いから始まる、獣人BLファンタジー。

愛を知らない少年たちの番物語。

あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。 *触れ合いシーンは★マークをつけます。

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

黒豹拾いました

おーか
BL
森で暮らし始めたオレは、ボロボロになった子猫を拾った。逞しく育ったその子は、どうやら黒豹の獣人だったようだ。 大人になって独り立ちしていくんだなぁ、と父親のような気持ちで送り出そうとしたのだが… 「大好きだよ。だから、俺の側にずっと居てくれるよね?」 そう迫ってくる。おかしいな…? 育て方間違ったか…。でも、美形に育ったし、可愛い息子だ。拒否も出来ないままに流される。

転生したら猫獣人になってました

おーか
BL
自分が死んだ記憶はない。 でも…今は猫の赤ちゃんになってる。 この事実を鑑みるに、転生というやつなんだろう…。 それだけでも衝撃的なのに、加えて俺は猫ではなく猫獣人で成長すれば人型をとれるようになるらしい。 それに、バース性なるものが存在するという。 第10回BL小説大賞 奨励賞を頂きました。読んで、応援して下さった皆様ありがとうございました。 

処理中です...