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ヴァルラム
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「智紀様、本当に獣王の伴侶になられるのですか?」
ユリアーンは智紀に、今更な質問をした。
智紀は揺り籠の横で座っていた私を見上げ。
私の胸元の毛を撫でている。
「男同士で番っても、童貞のままだから聖神としての務めもできる、というのは本当? 問題はないのかな……」
ユリアーンに訊き。
「清らかであるのが当然の聖神様に手を出す男など、歴史上初めての事態ですからね。まだ、どうなるものか……わかりかねます」
ユリアーンは正直に応えた。
文字が伝わるまでは、口伝で大まかなことしかわかっておらぬのだが。
この国の歴史上、初めてのことである。
故に、誰かが試さねば、ずっと謎のままであっただろう。
智紀が召喚されてから今まで天候も平穏で。
私が智紀に手を出してもそれは変わらず、むしろ農作物も豊作になっていたくらいであった。
故に、皆はほっと胸を撫で下ろし、安心していたのだが。
*****
「今朝、珍しく空が曇ったので、とうとう獣王が智紀様によからぬ行為をしたのかと」
違うのか、とイリヤが首を傾げている。
「昨夜、性器を挿入されたのですか?」
ユリアーンに訊かれた。
「いや、昨夜が初めて最後までした日ではないぞ?」
故に、昨夜もう一度抱いたのだ。
「では、今日の曇りの原因は何だったのでしょうね」
レナートも首を傾げているが。
それは、私にもわからぬ。
挿入を焦らしたせいかと思ったが。
時間的に、もう少し前のようであった。
当人である智紀に訊きたいが。
可哀想なほど真っ赤になっているので、皆も気が引けるのだろう。
私に質問が集中するのも仕方ない。
恥ずかしがりの智紀の前でこのような話題をするのは悪いが。
何しろ国の行く末が掛かっているのである。
その為には、憂いの原因を特定せねばならない。
「獣王の技巧がいまいちで、満足されなかったのでは?」
ユリアーンは遠慮なかった。
「毎回、きちんと気持ち良さそうに射精している、それはない」
「相手が獣王と知って、がっかりした?」
パーヴェルに問われる。
「それならば、今朝でなく昨日の時点で曇っているはずだ」
智紀はずっと夢だと思っていて。
相手が私だと認識したのは一昨日の夜だったという。
「曇りだしたのは今朝からだろう? 私が智紀の腹の中に射精しはじめたのは夜更け過ぎだが。外は静かなものだったぞ」
「犬族の射精は長時間になるので、きつかったのでは?」
レナートに問われ。
「悦さそうだったが。射精が終わった後も外の様子を伺ったが。まだ静かなものだった」
イリヤが天候の変化に気付いた時間は、寄り添って話をしていた頃だと思われる。
曇るようなことがあったのか。
*****
いくら私に訊いても埒が明かない事に気付いたのだろう。
イリヤは申し訳なさそうに智紀に向き直った。
「智紀様は、何か思い当たられる心配事などはございますか?」
智紀は私をちらりと見て。
「ええと、狼族は、生涯一人だけなのに。こんなに簡単に伴侶を決めてしまって、大丈夫なのかって悩んでた……」
私との事で悩んでいたというのか!
私が、国を治める王であるから。跡継ぎのことなどで思い悩んだか?
奥ゆかしいのにもほどがある。
「簡単ではないぞ! 聖神相手であるし、これでも悩んだのだ。しかし、どうしても触れたくて、我慢できなかった」
愛しいツガイに頬ずりした。
「ツガイというのは、匂いでもそれと判別できる。間違えよう筈がない」
智紀は小さな声で。
僕もヴァルラムはいい匂いがするな、と思ってた、と照れたように言った。
ああ、可愛らしくてたまらない。
「もし、嫌いになったり飽きたりしたら?」
「なるわけがない。我等はそのような習性を持つ一族なのだから」
狼族は一度相手をツガイと決めれば死ぬまで愛す種族である。
万が一ツガイに嫌われ、捨てられでもした場合、悲しみのあまり衰弱し、死ぬことも多々ある生き物であることを説明した。
「私が王を継いだのも、先代獣王のツガイ……私の母が不慮の事故で死んだため、嘆き悲しみ、衰弱死したのがその理由である。狼族にとってツガイは己の命よりも大切な存在だからな」
納得したのだろう。
智紀は何かを決心したかのように、こくりと頷いた。
*****
しばらく後。
兵が急ぎ、何かを報告に来た。
それを受けたイリヤは目を瞬かせた。
「……空の雲が晴れ、虹が現れたそうです」
智紀の憂いは晴れた。
虹が出現したのは、智紀が私からの求婚を受けることを決心した瞬間であった。
「ならば、正式に婚姻を申し込もう」
正装を魔術で引き寄せ、身に着ける。
智紀はまるで見惚れているようにうっとりと、私を見た。
「……智紀、」
智紀の前で膝をつき、その手を取り、手の甲に口付ける。
「そなたをひと目見た時から、私の心はずっと智紀でいっぱいに満たされている。その神秘的な黒い髪も愛らしい瞳も、すべてが私を魅了してやまない。これほどまでに私の鼓動を速くするのはこの世で智紀だけだ。そなたのいない人生など、生きていく意味がない。私には智紀が必要だ。……結婚して欲しい」
「は、ひゃい、」
声がひっくり返っている。
鼓動が跳ね上がったのが聞こえた。
緊張しているのだろう。
緊張しているのは私も同じだが。
「……智紀様、了承する場合は、相手の額に口付けをするのですよ」
イリヤが小声で智紀に言った。
ああ、舞い上がりすぎて、求婚などの作法について教えるのをすっかり忘れていた。
智紀は異世界人であった。
こちらの作法など、知るはずがなかったというのに。
*****
智紀は私の頬に手を添え。
そっと、やわらかな唇が額に触れた。
目を開くと。
恥ずかしそうな智紀の姿。
色々と駄目な部分を見せてきたにも関わらず。
こんな私の求婚を、受けてくれたのだ。
愛おしい、私のツガイ。
「おめでとうございます」
「ご成婚、めでたく存じます」
祝いの声はやけに大勢からで。
ユリアーンやイリヤ達だけでなく、神殿の神官や兵士達まで”繭”の周囲に集まって来ていたのだった。
捜索に出ていた者達か。
喜びに、やに下がった顔で手を振ってしまったが。
愛しいツガイに受け入れられた、記念すべき日である。
仕方がないと思って欲しい。
ユリアーンは智紀に、今更な質問をした。
智紀は揺り籠の横で座っていた私を見上げ。
私の胸元の毛を撫でている。
「男同士で番っても、童貞のままだから聖神としての務めもできる、というのは本当? 問題はないのかな……」
ユリアーンに訊き。
「清らかであるのが当然の聖神様に手を出す男など、歴史上初めての事態ですからね。まだ、どうなるものか……わかりかねます」
ユリアーンは正直に応えた。
文字が伝わるまでは、口伝で大まかなことしかわかっておらぬのだが。
この国の歴史上、初めてのことである。
故に、誰かが試さねば、ずっと謎のままであっただろう。
智紀が召喚されてから今まで天候も平穏で。
私が智紀に手を出してもそれは変わらず、むしろ農作物も豊作になっていたくらいであった。
故に、皆はほっと胸を撫で下ろし、安心していたのだが。
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「今朝、珍しく空が曇ったので、とうとう獣王が智紀様によからぬ行為をしたのかと」
違うのか、とイリヤが首を傾げている。
「昨夜、性器を挿入されたのですか?」
ユリアーンに訊かれた。
「いや、昨夜が初めて最後までした日ではないぞ?」
故に、昨夜もう一度抱いたのだ。
「では、今日の曇りの原因は何だったのでしょうね」
レナートも首を傾げているが。
それは、私にもわからぬ。
挿入を焦らしたせいかと思ったが。
時間的に、もう少し前のようであった。
当人である智紀に訊きたいが。
可哀想なほど真っ赤になっているので、皆も気が引けるのだろう。
私に質問が集中するのも仕方ない。
恥ずかしがりの智紀の前でこのような話題をするのは悪いが。
何しろ国の行く末が掛かっているのである。
その為には、憂いの原因を特定せねばならない。
「獣王の技巧がいまいちで、満足されなかったのでは?」
ユリアーンは遠慮なかった。
「毎回、きちんと気持ち良さそうに射精している、それはない」
「相手が獣王と知って、がっかりした?」
パーヴェルに問われる。
「それならば、今朝でなく昨日の時点で曇っているはずだ」
智紀はずっと夢だと思っていて。
相手が私だと認識したのは一昨日の夜だったという。
「曇りだしたのは今朝からだろう? 私が智紀の腹の中に射精しはじめたのは夜更け過ぎだが。外は静かなものだったぞ」
「犬族の射精は長時間になるので、きつかったのでは?」
レナートに問われ。
「悦さそうだったが。射精が終わった後も外の様子を伺ったが。まだ静かなものだった」
イリヤが天候の変化に気付いた時間は、寄り添って話をしていた頃だと思われる。
曇るようなことがあったのか。
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いくら私に訊いても埒が明かない事に気付いたのだろう。
イリヤは申し訳なさそうに智紀に向き直った。
「智紀様は、何か思い当たられる心配事などはございますか?」
智紀は私をちらりと見て。
「ええと、狼族は、生涯一人だけなのに。こんなに簡単に伴侶を決めてしまって、大丈夫なのかって悩んでた……」
私との事で悩んでいたというのか!
私が、国を治める王であるから。跡継ぎのことなどで思い悩んだか?
奥ゆかしいのにもほどがある。
「簡単ではないぞ! 聖神相手であるし、これでも悩んだのだ。しかし、どうしても触れたくて、我慢できなかった」
愛しいツガイに頬ずりした。
「ツガイというのは、匂いでもそれと判別できる。間違えよう筈がない」
智紀は小さな声で。
僕もヴァルラムはいい匂いがするな、と思ってた、と照れたように言った。
ああ、可愛らしくてたまらない。
「もし、嫌いになったり飽きたりしたら?」
「なるわけがない。我等はそのような習性を持つ一族なのだから」
狼族は一度相手をツガイと決めれば死ぬまで愛す種族である。
万が一ツガイに嫌われ、捨てられでもした場合、悲しみのあまり衰弱し、死ぬことも多々ある生き物であることを説明した。
「私が王を継いだのも、先代獣王のツガイ……私の母が不慮の事故で死んだため、嘆き悲しみ、衰弱死したのがその理由である。狼族にとってツガイは己の命よりも大切な存在だからな」
納得したのだろう。
智紀は何かを決心したかのように、こくりと頷いた。
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しばらく後。
兵が急ぎ、何かを報告に来た。
それを受けたイリヤは目を瞬かせた。
「……空の雲が晴れ、虹が現れたそうです」
智紀の憂いは晴れた。
虹が出現したのは、智紀が私からの求婚を受けることを決心した瞬間であった。
「ならば、正式に婚姻を申し込もう」
正装を魔術で引き寄せ、身に着ける。
智紀はまるで見惚れているようにうっとりと、私を見た。
「……智紀、」
智紀の前で膝をつき、その手を取り、手の甲に口付ける。
「そなたをひと目見た時から、私の心はずっと智紀でいっぱいに満たされている。その神秘的な黒い髪も愛らしい瞳も、すべてが私を魅了してやまない。これほどまでに私の鼓動を速くするのはこの世で智紀だけだ。そなたのいない人生など、生きていく意味がない。私には智紀が必要だ。……結婚して欲しい」
「は、ひゃい、」
声がひっくり返っている。
鼓動が跳ね上がったのが聞こえた。
緊張しているのだろう。
緊張しているのは私も同じだが。
「……智紀様、了承する場合は、相手の額に口付けをするのですよ」
イリヤが小声で智紀に言った。
ああ、舞い上がりすぎて、求婚などの作法について教えるのをすっかり忘れていた。
智紀は異世界人であった。
こちらの作法など、知るはずがなかったというのに。
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智紀は私の頬に手を添え。
そっと、やわらかな唇が額に触れた。
目を開くと。
恥ずかしそうな智紀の姿。
色々と駄目な部分を見せてきたにも関わらず。
こんな私の求婚を、受けてくれたのだ。
愛おしい、私のツガイ。
「おめでとうございます」
「ご成婚、めでたく存じます」
祝いの声はやけに大勢からで。
ユリアーンやイリヤ達だけでなく、神殿の神官や兵士達まで”繭”の周囲に集まって来ていたのだった。
捜索に出ていた者達か。
喜びに、やに下がった顔で手を振ってしまったが。
愛しいツガイに受け入れられた、記念すべき日である。
仕方がないと思って欲しい。
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