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第二章 軍役編
0025 別れと……
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きっと、もう戻ることはできないだろう。隊員たちにも、親父にも会うことは難しいかもしれない。その事実は通常なら悲しむべきなのだろう。だが未練はそこまでなかった。俺が軍にいた理由は奴らに近づくことだったのだから。そう、ここでならハッキリするはずだ。彼女が最後に言いかけた言葉とその意味。そしてカンナは何者だったのか。もしかしたら何処かにまだ……それは希望的観測すぎるだろうか。
俺は目の前に聳える塔を見上げる。それは塔と言うにはあまりに異形だった。高さはどれほどあるのか、少なくともルナンにはこの高さの建造物は存在していない。1階層目の直径は、視界では捉えきれないほど大きい。こんなものが世界のどこかにあるなど聞いたことはない。世界中どこへでも人類が行ける時代で、この異様な建物が見つからないなどということがありうるのだろうか。そんな疑問が一瞬で脳裏を掠めつつ、奴らに関して考えても、考えるだけ無駄だと思い直す。そんなことよりも現実と向き合わなくてはならない。俺はこれからどうなるのだろうか。歩き出す小さな背中を追いかけて話しかける。
「親父たちの元にすぐに支援は届くのか?」
「ああ。そうじゃの。援軍がすぐ到着するじゃろ。まあ、生き残れるかは、あやつら次第じゃな」
その冷めきった口調に、興味のなさが伺い知れた。俺たちなど極論どうなろうとも関係がないのだろう。それに、あまりにもことが早すぎる。前もってここまで想定済みと言ったところか。選択肢を突きつけているようでいて、そんなものは最初からない。全て奴らの手の平の上なのだから。
「どうせ軍の上層部にでもすでに話は通してあったんだろ」
「ああ、もっと上位の連中に話はとっくにつけてある。ま、ワシが出向いたのも出来レースじゃな」
「そんなところだろうな……それと、なぜ俺がお前たちに招かれた?」
「それは中で話す」
その後は黙ってひた歩き、巨大な門の前に着いた。ツクヨミが手をかざすと門はひとりでに開き始める。魔法を使ったようにも見えなかったが、もはや受け入れるしかないと諦めた。俺は異形の建物へと足を踏み入れる。
それと同時に天井に埋められた光の魔晶石が輝きを灯し、内装が顕になった。外見の仰々しさとは打って変わって、列強諸国にあるという城のような内装だ。秩序だった柱の連なりと、突き抜けるような階段。置かれている多くの高級感が漂うソファやテーブル。大理石の床に赤い絨毯。広大すぎて全ては把握できないが、パッと見ただけでも洗練されたセンスを感じる。俺は彼女の後をついて階段の横を通り抜けると、扉がいくつかあり、扉の上部には魔法陣が光っていた。
「俺たちはどこへ向かっているんだ?」
「涅槃の数名が集まっておる。そこでお主にも諸々を伝えるというわけじゃな。全く……。ワシが出向くことになるとは思わなんだが、まあ今回ばかりは仕方がないの」
「わかった……その部屋というのはこの扉の先というわけか」
「何を馬鹿な……ああ、エレベーターなぞ知らぬか。とりあえず乗れ。この箱で八十階層までいく」
エレベーター……。最近ルナンでも一部では普及し始めているというが、昇降機のことか?しかし、80階層などというのは馬鹿げている。
扉の先は小さめの部屋が1つあり、扉のそばにある壁には、魔法陣に加えて61から80の範囲で数字が記されている。スイッチのようになっているらしく、ツクヨミが80の場所にある魔法陣へと魔力を流すと同時に、この部屋自体が急速に上昇していくのが肌で感じられた。意味がわからないことばかりだが、既に慣れつつあるのが恐ろしい。そして、俺の乗る小部屋が動きを止めて扉が開いた。
「さ、着いたぞ。お主の見知った顔もいるじゃろうて」
円卓が置かれた大部屋。そこには数人の黒ローブの連中が既に椅子に腰掛けていた。道化師と死神、それに加えて見知らぬ仮面の人物が2人。1人は黄色く太陽が描かれた仮面、もう1人は十字架の仮面だ。太陽はつまらなさげに卓上に頬杖をついており、十字架は腕を組んで姿勢良く座っている。
「ほれ、連れてきてやったぞ。小僧、名乗れ」
そう言うとツクヨミは俺を残して、奥の空いている席にどさと腰掛けた。とりあえず名乗るべきだろうな。それにしてもなんという圧だろうか……。最悪だな。戦場などの経験や道化師との接触がなかったなら狂っていたかもしれない。それほどの空気だった。俺は緊張を振り切るようにハッキリと告げる。
「長月トバリだ」
「どうもどうもトバリさん!先日は楽しかったですねぇ。またお会いできて嬉しいですよ。実のところアナタにきてもらうのは、ワタシが提案したんです。それもそのはず、どうやらアナタは涅槃に入る資格がありそうなんでねぇ。ロンギヌス、使っていたでしょう?」
その言葉を聞いて少し考える。ロンギヌスは単なるブラフだったとここで明かしてもいいだろうか。あの魔法が涅槃に入るための基準になるものだとすれば、俺はその資格など持っていないことになる。そしてここは敵地であり、資格なきものは死ぬことになるだろう……ここで俺が選択したのは沈黙だ。おそらく道化は色々と話したがるだろう。俺が発言するにしても、まだ出ている情報が少なすぎる。
「……ふむふむ。話したくない、と。今更今更ムダですけれどもねぇ。サリエルさんとワタシはハッキリ見ましたから。あれはすなわちアナタがアカシックレコードにアクセスしたことがあるという紛れもない証拠でしょう。だからこうしてお呼びたてしたわけです。わざわざ、わざわざ」
「ワシの推測じゃが、この小僧はまだアクセスしたことはないぞ。此奴の男親の腕をぶった斬ったんじゃが、反応できてすらおらんかったしな。それに、ログに残っておらんじゃろ」
「ワタシのことはどうかジョジョとお呼びくださいツクヨミさん!まあ、おっしゃる通りでそれはそうなんですよねぇ。ロンギヌスだけを使えたというのはおかしいと言えばおかしい。我々と戦った時も光魔法と闇魔法を両方使用できていたことや、アンダカさんの武器を使っていたことくらいしか特別なところはなかったですし」
早速ボロが出てきたようだ。下手に隠し立てするよりは先手を打つ方がいいかもしれない。
「いいか、はっきり言おう。ロンギヌスとか言ったか。あれはハッタリだった。前に見たことがあったから、形だけを真似して生み出した紛い物だ」
道化師はあからさまに驚いた素振りをして椅子を蹴飛ばし立ち上がっているが、他の面々は特段のリアクションはなく、ただやれやれと首を振るだけだった。おそらく過去にもこの道化師が同じようなミスをしたのだろうなと想像される。
「ま、そんなところじゃろうな。大方、アンダカが死んだ時に居合わせたんじゃろ。ワシのバカな娘子が使ったのはハッキリしておるし。それくらい予想済みじゃからわざわざワシが出向いたんじゃ」
「ああ、そんな!まさかのよもや!ワタシの勘違いということですか?なんとなんと」
「落ち着け道化。だがな、こやつにはアクセスコードが刻まれておるはずじゃ。お主、カンナと交わったじゃろ?」
娘……?アクセスコード?なんのことだか一瞬戸惑う。つまりツクヨミとかいうこいつはカンナの母親ということか?呆けてなんの言葉も出せずにいると道化師が楽しそうに口を挟む。
「なんとなんと!であれば!でしたら!ワタシの見る目に狂いはなかったわけですねぇ!それどころか想像よりも面白い展開です。ああ愉悦愉悦!」
「うるさいぞ道化。まあ答えんとも良いわ。闇魔法の使い手で光魔法が使えるなど涅槃の者以外で例はないからな。十中八九混ざっておるよ。よもやカンナの魔力が馴染んでおるのは驚きじゃがな」
黙っているうちに話がどんどん進んでいく。こいつらの話はいつもこうだ。心の奥に浮かんだ一番の疑問を口にする。こいつらはきっと知っている。その確信があった。
「カンナは……生きて、いるのか?」
一番知りたかったこと。あの日、空に散っていった彼女は二度と姿を現さなかった。俺はずっとその後を追ってきた。気がついたからだ。彼女がいない世界では、生きている意味がほとんどないのだと。魔法学者になりたかったのも、結局はカンナに認めてほしかったからだ。ただ褒められた過去の延長に過ぎなかったのだと、いなくなって実感した。あれだけ興味のあった勉強への熱意もあれ以来押し殺してきた。しばらくは喪失感や虚無感とでも呼べる感覚だけに支配されていた。魔素はほとんど揺れなくなった。外部へ反応するための器官か何かがすっぽりと抜け落ちたように……。俺はただ彼女の残した言葉だけを頼りに、強さだけを欲して、人を殺して、この5年を生きてきた。それはただ真相を突き止めるためだ。
「死んだ」
残酷な言葉だった。やはり、彼女は死んでいたのか。残っていた希望の種が枯れていく。
「じゃが、他の世界では生きているとも言える」
「どういう意味だ?」
俺はとっさに反応していた。他の世界?いったい何のことを言っているんだ?
「どこから説明すべきか難しい問題じゃな。とりあえずアクセスすれば自分で疑問は解けるじゃろ。やり方を教えてやる」
「そうそう!今までの疑問がぱあーっと吹き飛びますよ!そして我々の仲間となるわけです。晴れてね!」
アカシックレコード。この世の法則だとか言っていたか……。それとアクセスコードとか言っていたが、本当に俺にそんな力があるのか?何の心当たりもない。
「なに、簡単じゃよ。すでにお主の魔力には特殊なコードが埋め込まれておる。目を閉じて、魔力を臍下丹田に集めるだけじゃ。そうすると全身が魔素の揺らぎに段々と飲み込まれる。その先にあるのがアカシックレコードじゃ。一度接続さえしてしまえば、自分で切らん限りはいつでも繋がれる」
「最初だけ難しいんですよねぇ。とてもとても。おひとりの方がやりやすいでしょうし、ゲストルームを使っていただいてはどうですか?」
「そんな必要があるか?一瞬でできたがの?」
「それはツクヨミさんだけですよ。最初は何時間、下手すれば何日間か迷走して瞑想し続けるんですから。でしょうみなさん??」
「俺様はイージーだったぜ。雑魚には難しいかもしれんがな」
「法への接触は神聖なる儀式であり神との謁見。ゆえに1日は与えても良いかと思います。それで無理ならば使徒たる資格なしとして断罪しましょう」
太陽、十字架が会話に加わる。どうやらできなければ”断罪”されるらしい。とにかく試してみるしかない。いったいどんなものなのかは全く理解できていないが。
「まあなんでも良いんじゃが、とりあえず今日1日かの……明日の朝までで12時間ほどじゃな。それで無理ならば死んでもらう。仮にも娘子が見そめた男じゃし大丈夫じゃと思うがな」
「なかなかに皆さま手厳しいですねぇ。まあ仕方ありませんか。ではお部屋へはワタシが案内しましょう」
そう言って立ち上がった道化師に案内されて、エレベーターとやらで65階層に下ろされると、そこには大きな部屋が用意されていた。
「では、明朝お迎えにあがります!それまでにアクセスしてくださいねぇ。殺さなくてはならなくなりますから。誠に誠に残念ながら。やり方は先ほどツクヨミさんが言っていた通り。まずは魔力を一点へと集中させてください。最初は手なんかがやりやすいでしょうねぇ。その感覚を丹田で行うだけです。まあ簡単簡単。アナタならきっとできますとも!保証は致しませんがね」
「とにかくやってやる。もしできなければ俺は死んで、ルナンはどうなる?お前らの援軍や技術提供は受けられるのか?」
「ああ、ルナンですか。まあ、敗戦して多くの死者が出るでしょうねぇ。アナタがもし涅槃に入れればその限りではないでしょうが。ま、そんなことは今考えるだけ無駄でしょう。失望させないでくださいよ」
道化師の声音が厳しいものになる。ルナンの動向などには心底興味がないのかもしれない。だが、俺がうまくやればルナンを守ることに少しの可能性はあるらしい。それよりも俺は死ぬことになるわけだが。どちらにせよやるしか選択肢はない。こいつらの力の秘密がわかれば何かしらの機会は得られるだろう。
「わかった。もう出ていってくれて構わない。時間もあまりないしな」
「ええ。それじゃあ、楽しみにしておりますよ。ふふふふ」
ぴょんぴょんと歩き去っていく姿を見送って、俺は独り高級感のある部屋で座禅を組む。魔法の修行を思い出すな。魔力を扱うのには慣れてきた自負がある。なんとかやってみせる。
そうして道化に言われた通り、魔力を指に集中することから始めたのだった。
俺は目の前に聳える塔を見上げる。それは塔と言うにはあまりに異形だった。高さはどれほどあるのか、少なくともルナンにはこの高さの建造物は存在していない。1階層目の直径は、視界では捉えきれないほど大きい。こんなものが世界のどこかにあるなど聞いたことはない。世界中どこへでも人類が行ける時代で、この異様な建物が見つからないなどということがありうるのだろうか。そんな疑問が一瞬で脳裏を掠めつつ、奴らに関して考えても、考えるだけ無駄だと思い直す。そんなことよりも現実と向き合わなくてはならない。俺はこれからどうなるのだろうか。歩き出す小さな背中を追いかけて話しかける。
「親父たちの元にすぐに支援は届くのか?」
「ああ。そうじゃの。援軍がすぐ到着するじゃろ。まあ、生き残れるかは、あやつら次第じゃな」
その冷めきった口調に、興味のなさが伺い知れた。俺たちなど極論どうなろうとも関係がないのだろう。それに、あまりにもことが早すぎる。前もってここまで想定済みと言ったところか。選択肢を突きつけているようでいて、そんなものは最初からない。全て奴らの手の平の上なのだから。
「どうせ軍の上層部にでもすでに話は通してあったんだろ」
「ああ、もっと上位の連中に話はとっくにつけてある。ま、ワシが出向いたのも出来レースじゃな」
「そんなところだろうな……それと、なぜ俺がお前たちに招かれた?」
「それは中で話す」
その後は黙ってひた歩き、巨大な門の前に着いた。ツクヨミが手をかざすと門はひとりでに開き始める。魔法を使ったようにも見えなかったが、もはや受け入れるしかないと諦めた。俺は異形の建物へと足を踏み入れる。
それと同時に天井に埋められた光の魔晶石が輝きを灯し、内装が顕になった。外見の仰々しさとは打って変わって、列強諸国にあるという城のような内装だ。秩序だった柱の連なりと、突き抜けるような階段。置かれている多くの高級感が漂うソファやテーブル。大理石の床に赤い絨毯。広大すぎて全ては把握できないが、パッと見ただけでも洗練されたセンスを感じる。俺は彼女の後をついて階段の横を通り抜けると、扉がいくつかあり、扉の上部には魔法陣が光っていた。
「俺たちはどこへ向かっているんだ?」
「涅槃の数名が集まっておる。そこでお主にも諸々を伝えるというわけじゃな。全く……。ワシが出向くことになるとは思わなんだが、まあ今回ばかりは仕方がないの」
「わかった……その部屋というのはこの扉の先というわけか」
「何を馬鹿な……ああ、エレベーターなぞ知らぬか。とりあえず乗れ。この箱で八十階層までいく」
エレベーター……。最近ルナンでも一部では普及し始めているというが、昇降機のことか?しかし、80階層などというのは馬鹿げている。
扉の先は小さめの部屋が1つあり、扉のそばにある壁には、魔法陣に加えて61から80の範囲で数字が記されている。スイッチのようになっているらしく、ツクヨミが80の場所にある魔法陣へと魔力を流すと同時に、この部屋自体が急速に上昇していくのが肌で感じられた。意味がわからないことばかりだが、既に慣れつつあるのが恐ろしい。そして、俺の乗る小部屋が動きを止めて扉が開いた。
「さ、着いたぞ。お主の見知った顔もいるじゃろうて」
円卓が置かれた大部屋。そこには数人の黒ローブの連中が既に椅子に腰掛けていた。道化師と死神、それに加えて見知らぬ仮面の人物が2人。1人は黄色く太陽が描かれた仮面、もう1人は十字架の仮面だ。太陽はつまらなさげに卓上に頬杖をついており、十字架は腕を組んで姿勢良く座っている。
「ほれ、連れてきてやったぞ。小僧、名乗れ」
そう言うとツクヨミは俺を残して、奥の空いている席にどさと腰掛けた。とりあえず名乗るべきだろうな。それにしてもなんという圧だろうか……。最悪だな。戦場などの経験や道化師との接触がなかったなら狂っていたかもしれない。それほどの空気だった。俺は緊張を振り切るようにハッキリと告げる。
「長月トバリだ」
「どうもどうもトバリさん!先日は楽しかったですねぇ。またお会いできて嬉しいですよ。実のところアナタにきてもらうのは、ワタシが提案したんです。それもそのはず、どうやらアナタは涅槃に入る資格がありそうなんでねぇ。ロンギヌス、使っていたでしょう?」
その言葉を聞いて少し考える。ロンギヌスは単なるブラフだったとここで明かしてもいいだろうか。あの魔法が涅槃に入るための基準になるものだとすれば、俺はその資格など持っていないことになる。そしてここは敵地であり、資格なきものは死ぬことになるだろう……ここで俺が選択したのは沈黙だ。おそらく道化は色々と話したがるだろう。俺が発言するにしても、まだ出ている情報が少なすぎる。
「……ふむふむ。話したくない、と。今更今更ムダですけれどもねぇ。サリエルさんとワタシはハッキリ見ましたから。あれはすなわちアナタがアカシックレコードにアクセスしたことがあるという紛れもない証拠でしょう。だからこうしてお呼びたてしたわけです。わざわざ、わざわざ」
「ワシの推測じゃが、この小僧はまだアクセスしたことはないぞ。此奴の男親の腕をぶった斬ったんじゃが、反応できてすらおらんかったしな。それに、ログに残っておらんじゃろ」
「ワタシのことはどうかジョジョとお呼びくださいツクヨミさん!まあ、おっしゃる通りでそれはそうなんですよねぇ。ロンギヌスだけを使えたというのはおかしいと言えばおかしい。我々と戦った時も光魔法と闇魔法を両方使用できていたことや、アンダカさんの武器を使っていたことくらいしか特別なところはなかったですし」
早速ボロが出てきたようだ。下手に隠し立てするよりは先手を打つ方がいいかもしれない。
「いいか、はっきり言おう。ロンギヌスとか言ったか。あれはハッタリだった。前に見たことがあったから、形だけを真似して生み出した紛い物だ」
道化師はあからさまに驚いた素振りをして椅子を蹴飛ばし立ち上がっているが、他の面々は特段のリアクションはなく、ただやれやれと首を振るだけだった。おそらく過去にもこの道化師が同じようなミスをしたのだろうなと想像される。
「ま、そんなところじゃろうな。大方、アンダカが死んだ時に居合わせたんじゃろ。ワシのバカな娘子が使ったのはハッキリしておるし。それくらい予想済みじゃからわざわざワシが出向いたんじゃ」
「ああ、そんな!まさかのよもや!ワタシの勘違いということですか?なんとなんと」
「落ち着け道化。だがな、こやつにはアクセスコードが刻まれておるはずじゃ。お主、カンナと交わったじゃろ?」
娘……?アクセスコード?なんのことだか一瞬戸惑う。つまりツクヨミとかいうこいつはカンナの母親ということか?呆けてなんの言葉も出せずにいると道化師が楽しそうに口を挟む。
「なんとなんと!であれば!でしたら!ワタシの見る目に狂いはなかったわけですねぇ!それどころか想像よりも面白い展開です。ああ愉悦愉悦!」
「うるさいぞ道化。まあ答えんとも良いわ。闇魔法の使い手で光魔法が使えるなど涅槃の者以外で例はないからな。十中八九混ざっておるよ。よもやカンナの魔力が馴染んでおるのは驚きじゃがな」
黙っているうちに話がどんどん進んでいく。こいつらの話はいつもこうだ。心の奥に浮かんだ一番の疑問を口にする。こいつらはきっと知っている。その確信があった。
「カンナは……生きて、いるのか?」
一番知りたかったこと。あの日、空に散っていった彼女は二度と姿を現さなかった。俺はずっとその後を追ってきた。気がついたからだ。彼女がいない世界では、生きている意味がほとんどないのだと。魔法学者になりたかったのも、結局はカンナに認めてほしかったからだ。ただ褒められた過去の延長に過ぎなかったのだと、いなくなって実感した。あれだけ興味のあった勉強への熱意もあれ以来押し殺してきた。しばらくは喪失感や虚無感とでも呼べる感覚だけに支配されていた。魔素はほとんど揺れなくなった。外部へ反応するための器官か何かがすっぽりと抜け落ちたように……。俺はただ彼女の残した言葉だけを頼りに、強さだけを欲して、人を殺して、この5年を生きてきた。それはただ真相を突き止めるためだ。
「死んだ」
残酷な言葉だった。やはり、彼女は死んでいたのか。残っていた希望の種が枯れていく。
「じゃが、他の世界では生きているとも言える」
「どういう意味だ?」
俺はとっさに反応していた。他の世界?いったい何のことを言っているんだ?
「どこから説明すべきか難しい問題じゃな。とりあえずアクセスすれば自分で疑問は解けるじゃろ。やり方を教えてやる」
「そうそう!今までの疑問がぱあーっと吹き飛びますよ!そして我々の仲間となるわけです。晴れてね!」
アカシックレコード。この世の法則だとか言っていたか……。それとアクセスコードとか言っていたが、本当に俺にそんな力があるのか?何の心当たりもない。
「なに、簡単じゃよ。すでにお主の魔力には特殊なコードが埋め込まれておる。目を閉じて、魔力を臍下丹田に集めるだけじゃ。そうすると全身が魔素の揺らぎに段々と飲み込まれる。その先にあるのがアカシックレコードじゃ。一度接続さえしてしまえば、自分で切らん限りはいつでも繋がれる」
「最初だけ難しいんですよねぇ。とてもとても。おひとりの方がやりやすいでしょうし、ゲストルームを使っていただいてはどうですか?」
「そんな必要があるか?一瞬でできたがの?」
「それはツクヨミさんだけですよ。最初は何時間、下手すれば何日間か迷走して瞑想し続けるんですから。でしょうみなさん??」
「俺様はイージーだったぜ。雑魚には難しいかもしれんがな」
「法への接触は神聖なる儀式であり神との謁見。ゆえに1日は与えても良いかと思います。それで無理ならば使徒たる資格なしとして断罪しましょう」
太陽、十字架が会話に加わる。どうやらできなければ”断罪”されるらしい。とにかく試してみるしかない。いったいどんなものなのかは全く理解できていないが。
「まあなんでも良いんじゃが、とりあえず今日1日かの……明日の朝までで12時間ほどじゃな。それで無理ならば死んでもらう。仮にも娘子が見そめた男じゃし大丈夫じゃと思うがな」
「なかなかに皆さま手厳しいですねぇ。まあ仕方ありませんか。ではお部屋へはワタシが案内しましょう」
そう言って立ち上がった道化師に案内されて、エレベーターとやらで65階層に下ろされると、そこには大きな部屋が用意されていた。
「では、明朝お迎えにあがります!それまでにアクセスしてくださいねぇ。殺さなくてはならなくなりますから。誠に誠に残念ながら。やり方は先ほどツクヨミさんが言っていた通り。まずは魔力を一点へと集中させてください。最初は手なんかがやりやすいでしょうねぇ。その感覚を丹田で行うだけです。まあ簡単簡単。アナタならきっとできますとも!保証は致しませんがね」
「とにかくやってやる。もしできなければ俺は死んで、ルナンはどうなる?お前らの援軍や技術提供は受けられるのか?」
「ああ、ルナンですか。まあ、敗戦して多くの死者が出るでしょうねぇ。アナタがもし涅槃に入れればその限りではないでしょうが。ま、そんなことは今考えるだけ無駄でしょう。失望させないでくださいよ」
道化師の声音が厳しいものになる。ルナンの動向などには心底興味がないのかもしれない。だが、俺がうまくやればルナンを守ることに少しの可能性はあるらしい。それよりも俺は死ぬことになるわけだが。どちらにせよやるしか選択肢はない。こいつらの力の秘密がわかれば何かしらの機会は得られるだろう。
「わかった。もう出ていってくれて構わない。時間もあまりないしな」
「ええ。それじゃあ、楽しみにしておりますよ。ふふふふ」
ぴょんぴょんと歩き去っていく姿を見送って、俺は独り高級感のある部屋で座禅を組む。魔法の修行を思い出すな。魔力を扱うのには慣れてきた自負がある。なんとかやってみせる。
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・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
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最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
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ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』
たったこの一言から、すべてが始まった。
ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。
そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。
それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。
ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。
スキルとは祝福か、呪いか……
ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!!
主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。
ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。
ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。
しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。
一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。
途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。
その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。
そして、世界存亡の危機。
全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した……
※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。
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