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「……あ、れ?」
ふと重い瞼を開けて、瑠璃色の瞳を擦りながらニルは起き上がる。
見知らぬ天井と部屋。
その隅に置かれたベッドの上で俗に言う、女の子座りでキョトンとする。
「ゆめ……?」
さっきまで薄暗い独房にいたはずなのにと
ニルはぼーっとし
自分の格好を見て一気に眠気が吹き飛んだ。
白いワンピースは所々が火に炙られたように焦げ
ベージュのカーディガンに至っては殆どボロボロだった。
瞬時に理解する。
自分の身体の『内側』にいる女性が、『外側』に出て交代していた、と。
「……ミスティ?」
返事は聴こえない。
おそらく眠っているのだろう。
魂だけなのに寝たり起きたり出来るなんてどうかと思う。
自分は入れ替わるだけで気絶と同じ状態になるというのに。
しかし、わざわざ入れ替わるだけのことをしたというのなら
また戦ったのだろう、とニルは不安に駆られた。
「夢じゃ……ない?」
青ざめた顔で、急いで部屋を出る。
誰一人としていなかった。
ニルは、その孤独感に堪らなく嫌悪した。
「ミリノ?……ザッシュ?」
一番いて欲しいひと。
「…………ナギ……君……?」
返事は、ない。
自分一人を置いて、世界中の人間が消えたように思えた。
「は、はは」
疲れたように、悲しげに、ニルは笑った。
「もう、嘘だったのかな……?」
どうしようもなく、怖いと感じた。
不意に目頭から熱く込み上げてくる。
「みんな……みんな、はじめから無かったのかな?」
呪文のように繰り返してた
「……みーんな……なかったの?」
ただ、涙しかこぼれなかった。
その場に崩れ落ちるニル。
床を見つめ、蒼い綺麗な眼から涙を流した。
静かに。静かに泣いた。
「………………………」
ニルは黙って立ち上がり、虚無感に囚われてトボトボと歩き出す。
両足を引きずるようにして、ニルはドアノブに手を掛ける。
もう、ここにはいたくなかった。
どこでもいい、どこか違うところへ行きたかった。
扉を開け、差し込む光に朝だと気付いて、眼を細めた。
「ん、遅かったな」
その先に―――――――希望はあった。
「ふっ……ぐっ………えぅっ」
ニルの涙と共に出る嗚咽に、ジープの上から黒髪のサマナーは呆れて笑った。
「ったく。何泣いてんだよ、チビすけ」
「ない、て……ないもん!ふっ……うぅ……ちびでも、ないもん……」
グズっと鼻を啜って、瑠璃色を中心に真っ赤になった眼で精一杯にサマナーを睨んだ。
「ばか!ナギ君、の……ばかぁ!」
朝日の逆光を浴びて、サマナーは今度は笑わなかった。
「……悪い」
「いーけないんだ~いけないんだ~♪」
サマナーをはやしたてる、紅い長髪のレンジャー。
それに、どこぞの方言の技師もニヤニヤと便乗する。
「ナギ~。女の子泣かしたらあかんでぇ?」
頭のなかで何かが音をたてて亀裂を生む。
「うっせぇ!!テメェら、ほっとんど無傷のくせに何、友達のささやかなひやかし発言気取ってんだ!!!」
叫ぶサマナーに技師も涙目になる。というか、半泣きしだす始末。
とても二十歳とは思えない。
「な、何ゆーてんねん!!ワイかて肋骨にヒビ入っとんのやで!?」
「いいじゃねーか、そんだけでっ!
こちとら両脚ミディアムにされて、首の骨折&爆死の体験ツアーご招待♪の上に
『当分、右手使うな』なんて医者に言われたんだぞ!?利き腕封じられたら飯作れねぇだろが!!」
「そんなん、無茶したお前が悪いんやんか!!料理かてまた当番にすれば―――――――」
同時に運転席を見やる二人。
「悪い、はよ治るとええな、右手」
「あぁ。一刻も早く復帰しなければ」
「な"っ……!ちょっとアンタ達、なんでそこでアタシを見るのよ!?」
「んだぁ!?自覚無いのも大概にしろや、この悪魔の料理の天才がぁ!!!」
「なぁぁぁぁんですってぇ!!?」
「つーか、なにやったら緑色のチャーハンが出来んだっ。何を混ぜたか訊いたら『えへへぇ』じゃねぇ!!!」
「あはは……はは」
何気ない喧嘩
何気ない光景
いま
確かに、ここにあるんだ。
そう思えて、ニルは笑った。
涙の枯れた眼で、笑った。
「な~に笑ってんだ、行くぞ。早く乗れ、ニル」
「え……どこに?」
「すぐ近くの郊外近辺でな。次の依頼だ、すぐ出発しないと間に合いそうもない」
「あの科学者んトコからいくつか動力石かっぱらってきたから、アリシア5号の初発進よ!」
「すごい心配だけどな」
「だまらっしゃい!!!」
「ここに毛布あるさかい準備は出来てんで~♪」
サマナーはニッと笑いながら少女のほうへリンゴを投げた。
「さあ、行こうぜ?」
その一言が
嬉しかった。
「うんっ♪」
そうしてニルが乗り込んで、黒いジープは古めかしい機械音と共に、進みだす。
必然。
それは当たり前の世界。
出逢いも、争いも、苦痛も、悲哀も、
偶然じゃない世界。
シビアな現実。
出逢いも、争いも、苦痛も、悲哀も、
当たり前だけど―――――――、
大切な想い出。
乗り越える為に、今は進む。
ひたすら進む。
「どうして?」と訊かれたら
きっと笑って答えられるだろう。
「進んでから考えるから」と―――――――。
とりあえず、見上げた空は快晴。
澄んだ空気がおいしくて、
ニルは嬉しそうに『えへへ♪』と笑った。
第一部
Fin
ふと重い瞼を開けて、瑠璃色の瞳を擦りながらニルは起き上がる。
見知らぬ天井と部屋。
その隅に置かれたベッドの上で俗に言う、女の子座りでキョトンとする。
「ゆめ……?」
さっきまで薄暗い独房にいたはずなのにと
ニルはぼーっとし
自分の格好を見て一気に眠気が吹き飛んだ。
白いワンピースは所々が火に炙られたように焦げ
ベージュのカーディガンに至っては殆どボロボロだった。
瞬時に理解する。
自分の身体の『内側』にいる女性が、『外側』に出て交代していた、と。
「……ミスティ?」
返事は聴こえない。
おそらく眠っているのだろう。
魂だけなのに寝たり起きたり出来るなんてどうかと思う。
自分は入れ替わるだけで気絶と同じ状態になるというのに。
しかし、わざわざ入れ替わるだけのことをしたというのなら
また戦ったのだろう、とニルは不安に駆られた。
「夢じゃ……ない?」
青ざめた顔で、急いで部屋を出る。
誰一人としていなかった。
ニルは、その孤独感に堪らなく嫌悪した。
「ミリノ?……ザッシュ?」
一番いて欲しいひと。
「…………ナギ……君……?」
返事は、ない。
自分一人を置いて、世界中の人間が消えたように思えた。
「は、はは」
疲れたように、悲しげに、ニルは笑った。
「もう、嘘だったのかな……?」
どうしようもなく、怖いと感じた。
不意に目頭から熱く込み上げてくる。
「みんな……みんな、はじめから無かったのかな?」
呪文のように繰り返してた
「……みーんな……なかったの?」
ただ、涙しかこぼれなかった。
その場に崩れ落ちるニル。
床を見つめ、蒼い綺麗な眼から涙を流した。
静かに。静かに泣いた。
「………………………」
ニルは黙って立ち上がり、虚無感に囚われてトボトボと歩き出す。
両足を引きずるようにして、ニルはドアノブに手を掛ける。
もう、ここにはいたくなかった。
どこでもいい、どこか違うところへ行きたかった。
扉を開け、差し込む光に朝だと気付いて、眼を細めた。
「ん、遅かったな」
その先に―――――――希望はあった。
「ふっ……ぐっ………えぅっ」
ニルの涙と共に出る嗚咽に、ジープの上から黒髪のサマナーは呆れて笑った。
「ったく。何泣いてんだよ、チビすけ」
「ない、て……ないもん!ふっ……うぅ……ちびでも、ないもん……」
グズっと鼻を啜って、瑠璃色を中心に真っ赤になった眼で精一杯にサマナーを睨んだ。
「ばか!ナギ君、の……ばかぁ!」
朝日の逆光を浴びて、サマナーは今度は笑わなかった。
「……悪い」
「いーけないんだ~いけないんだ~♪」
サマナーをはやしたてる、紅い長髪のレンジャー。
それに、どこぞの方言の技師もニヤニヤと便乗する。
「ナギ~。女の子泣かしたらあかんでぇ?」
頭のなかで何かが音をたてて亀裂を生む。
「うっせぇ!!テメェら、ほっとんど無傷のくせに何、友達のささやかなひやかし発言気取ってんだ!!!」
叫ぶサマナーに技師も涙目になる。というか、半泣きしだす始末。
とても二十歳とは思えない。
「な、何ゆーてんねん!!ワイかて肋骨にヒビ入っとんのやで!?」
「いいじゃねーか、そんだけでっ!
こちとら両脚ミディアムにされて、首の骨折&爆死の体験ツアーご招待♪の上に
『当分、右手使うな』なんて医者に言われたんだぞ!?利き腕封じられたら飯作れねぇだろが!!」
「そんなん、無茶したお前が悪いんやんか!!料理かてまた当番にすれば―――――――」
同時に運転席を見やる二人。
「悪い、はよ治るとええな、右手」
「あぁ。一刻も早く復帰しなければ」
「な"っ……!ちょっとアンタ達、なんでそこでアタシを見るのよ!?」
「んだぁ!?自覚無いのも大概にしろや、この悪魔の料理の天才がぁ!!!」
「なぁぁぁぁんですってぇ!!?」
「つーか、なにやったら緑色のチャーハンが出来んだっ。何を混ぜたか訊いたら『えへへぇ』じゃねぇ!!!」
「あはは……はは」
何気ない喧嘩
何気ない光景
いま
確かに、ここにあるんだ。
そう思えて、ニルは笑った。
涙の枯れた眼で、笑った。
「な~に笑ってんだ、行くぞ。早く乗れ、ニル」
「え……どこに?」
「すぐ近くの郊外近辺でな。次の依頼だ、すぐ出発しないと間に合いそうもない」
「あの科学者んトコからいくつか動力石かっぱらってきたから、アリシア5号の初発進よ!」
「すごい心配だけどな」
「だまらっしゃい!!!」
「ここに毛布あるさかい準備は出来てんで~♪」
サマナーはニッと笑いながら少女のほうへリンゴを投げた。
「さあ、行こうぜ?」
その一言が
嬉しかった。
「うんっ♪」
そうしてニルが乗り込んで、黒いジープは古めかしい機械音と共に、進みだす。
必然。
それは当たり前の世界。
出逢いも、争いも、苦痛も、悲哀も、
偶然じゃない世界。
シビアな現実。
出逢いも、争いも、苦痛も、悲哀も、
当たり前だけど―――――――、
大切な想い出。
乗り越える為に、今は進む。
ひたすら進む。
「どうして?」と訊かれたら
きっと笑って答えられるだろう。
「進んでから考えるから」と―――――――。
とりあえず、見上げた空は快晴。
澄んだ空気がおいしくて、
ニルは嬉しそうに『えへへ♪』と笑った。
第一部
Fin
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