戦慄の傀儡師 本当に操られているのは誰か?

ダジリ

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プロローグ

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もう少しだ。もう少しでこの平凡な日々ともおさらばだ。



あの野郎とあいつが死ねさえすれば・・・・・。



私が今、人前で毅然と振舞えられるのは長年の野心が高揚感を包括するからだ。





今、目の前にいる長年付き合っている同期にも私の気持ちは顔から悟られていないだろう。





この調子なら、後少しの間も大丈夫だろう。





ふと時計に目をやると針が十三時二十五分を示していた。





「そろそろだな」



「ああ、そうだな」





私がそう答えると私達は資料とノートパソコンを両手に抱え、会議室へと歩み出した。







名古屋に本社を構えるとある大手興業のビルの一室で、ある大規模な殺人計画が一人の初老男性に伝わろうとしている。





ここは密談をする為の専用部屋で、地上から約五十メートルに位置し、ここに辿り着くまでにはねずみでも通る事が難しいセキュリティーを通り抜かなければならず、この会社の社長とその社長の入室許可を得られた者以外はまず立ち入る事は出来ない。





その唯一と言っても良いこの部屋の出入りが自由に出来る人間がこの山鍋興業社長、山鍋清彦だ。





清彦は人の能力を全て自分で作った公式を使用して数値化し、それがある基準値に達しているかどうかを査定し、この隠れ家的部屋に足を踏み入れるに値するべき人間か否かを決めている。





その清彦の基準値に達する事は難しく、有名国立大学卒の人間ですらなかなかそれに値する人間は出現せず、歴代でこの部屋に入れた人間は片手で数えられる程しかいない。





しかしそんな中、数少ない清彦に入室を認められた者の中でもずば抜けた最高点を獲得した者が最近出現した。





その者の名は、犯罪コーディネーター兼プランナーのレントだ。





レントの仕事は強盗から殺人までのあらゆる犯罪の計画と実行を依頼者に代わって、代行する事だ。



そして今日は待ちに待ったレントとの密談の日だ。



当然この隠れ家が利用されている。







数週間前からこの日を待ち望んだ清彦がレントの持参した殺人計画書を高級本革使用のイタリア製ソファーに座り、目を凝らしながら、興奮気味に一読している。





「すっ・・・・・素晴らしい。これほど鳥肌が立ったのは生まれて初めてだ。やはり高い金を払ってでも君に依頼して正解だったな」





「お褒めのお言葉は大変光栄なのですが、その言葉はこの計画が無事に成功するまで取っておいて下さい。また再度確認で恐縮ですが、依頼料は前金としてこの計画の成功有無にかかわらず一億円支払って頂きます。また、もしこの計画が成功したのならば成功報酬として犯行終了後に追加で三億円支払って頂きます。宜しいですね」





レントも清彦の向かえ側の高級ソファーに座っているが、清彦から出された老舗和菓子店甲風の高級饅頭と濃厚な黄緑色をした熱い緑茶にまだ手を付けてはいない。





「分かっておる。それにもう既に前金は用意出来ておる」





そう言うと清彦が高級ソファーから腰を上げて、その位置から五メートル程離れた壁に埋め込まれている分厚い金属で出来た金庫のある方へ歩き出した。



そこに着くと、自分しか知らない数字の位置までダイヤルを回す作業を七回繰り返す。





「そう言えばこの金庫を人前で開けるのも久しぶりだな」





清彦が背を向けている間にレントが高級饅頭を黒い布で出来たマスクを半分程剥ぎ取って食べ、その後に少し冷えた緑茶を飲んだ。



その直後、清彦が開け終わった金庫の中からジュラルミンケースを一つ取り出し、それをレントの目の前に置き、再び高級ソファーの上に腰を掛けた。





「これが前金一億円分入っているジュラルミンケースだ。一応、自分の目で確認してくれたまえ」





そう言われるとレントが紙幣カウンターを灰色の鞄から取り出し、金属の箱を開け、恐らく百万円分で纏めたであろう札束を手に取り、金を数え始めた。



そして、暫くその作業を見ていた清彦だがそれを止め、再び殺人計画書を手に取り読み始めた。





「しかし、改めて見ると本当に素晴らしい計画だ。まるで、手品の種明かしを見ているような気分になる」





再度、清彦がレントの殺人計画を絶賛したが、レントは目線を合わせず、一般家庭で持っているは少ないであろう機械を使い無言で黙々と作業を行っている。





山鍋清彦は大手興業㈱山鍋興業の最高取締役という社会的地位を持つ、今年で五十八歳になる初老社長だ。





この大手商社山鍋興業は清彦の父、清助が一代で築き上げた会社だ。



その跡取り息子は有名私立幼稚園からエスカレータ式で小、中、高、大と上がり大学卒業後は父親が社長という最大のコネでこの山鍋興業に入社、そして順調に出世し、父親が第一線から身を退けると直ぐに社長のポストに就任という経歴を持つ、典型的な同族企業の跡取りだ。





しかし、そんなエリート清彦でも大きな悩みを抱えており、それは殺人という法の中でも最悪の罪を犯してでも解決する事を最終的に選択した位なのだから一般人では考えられない大きな悩みに違いない。







「これが上手く行ったら私の野望が・・・・・おや、もう終わったのかい?」



 気付くとレントが機械を自分の鞄に片付け始めていた。





「良いでしょう。丁度一億円ありました。今日はこれで失礼しますが、最後に何か質問は御座いますでしょうか?」





そう言いながらレントは机に置いている資料を片付け始め、帰る支度を淡々としている。





「では一つ。本当に私はこの計画では何もしなくても良いのだな」



「貴方が私の指示に従う事がこの計画の成功確率を上げる事に繋がります。そして、その私から貴方への指示というのは、当日貴方は何もしないで下さいという事です」



清彦がそのセリフを聞き、目を瞑った。





「果報は寝て待て・・・・・か」





そう一言だけ発すると静かに目を開け、机の上に置いてある殺人計画書をじっと見つめた。



「もう質問がないのならば私はこれで。また、絶対にその殺人計画書の流出等をしないように最善の注意を払って下さい」





レントがそう告げると、ここに来る時には持っていなかった大きなケースと自分の鞄を両手で持ち、高級ソファーから立ち上がった。





「ああ、分かっている。絶対にここから持ち出さない。もう帰って頂いても結構。一応確認しておくが帰る時も来た時と同様そのIDカードを磁気カードリーダーに翳し、同様のパスワードを入力すれば全ての扉のセキュルティーは解除される。では当日は宜しく頼むよ。・・・・・いや、最後にもう一つ訊いても良いかな?」





「何でしょうか?」





「うむ。何故故、君は声を変声器で変え、顔をサングラスやマスクで覆っているのだい?」







レントが暫く間を開け一言。





「・・・・・強いて言うのならば、この殺人計画の成功確率を1%でも上げる為です」



それだけ告げると、プランナーはこの隠れ家から出て行った。清彦が扉の完全に閉まる音を聞き終わると一言。





「上手く行きそうだな」 

 



自分以外誰もいない部屋でそう発すると少し笑みを浮かべながら、すっかり冷めきってしまった緑茶を一気に飲み干した。
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