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第五章
開幕 賢吾
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「ちょっと待った」
グレーのジャケットを着ている半藤君が僕と大谷さんを呼び止めた。
「何、急に?」
大谷さんがそう反応する。
うん、一体何だ?急がなくてはならないのに。
「おい、上の渡り廊下を覗いてみろよ。スカイタワーとグランドタワーを結ぶ扉が二枚共開いているぞ。ちょっと行ってみようぜ」
確か渡り廊下は全体がガラス張りだからここからだと扉も見える筈。
そう言われた僕達は窓から上を覗くと、確かに二枚共扉が開いている事を確認した。
恐らく透さんが開けたのだろう。
「止めようよ、貴新。勝手にそんな事しちゃまずいわよ。それに後二十分位でオープンパーティーが始まっちゃうわ」
「そっ、そうだよ」
僕もそれを止めに入る。
一体何を言っているんだ、この人は。
「折角名古屋まで来たんだよ。お前らグランドタワーの中の方も見てみたいとは思わないのか?何と言われようが俺は行くぞ」
そう強く言い放つと半籐は勝手にさっき乗って来たエレベーターの方へ向かい、スイッチを押しエレベーターに乗った。
「ったく。いつも勝手何だから」
それを見かねた亜理紗も愚痴をこぼしながらエレベーターに向かい乗った。
どうしよう。
もう先頭を行く御神君達の姿は見えない。
僕にはもう半籐君達に付いて行く選択肢しか残されていないだろう。
僕も嫌々エレベーターに向かい乗った。
そして暫くし、三十階に着き、僕達はグランドタワーに向かって渡り廊下を渡り始めた。
「しかし、改めてここから下を見ると相当高いよな」
半籐が上から下を俯瞰する。
「まぁ、この渡り廊下は地上百メートルの位置にあるからね」
亜理紗は不機嫌だ。
そして、三人がもう一つの扉を潜り、三十メートル程の距離があった渡り廊下を渡り終えた。
「ここら辺はあんましスカイタワーと変わらないな」
半藤が再びそう感想を述べる。
「そうね」
亜理紗はまだ不機嫌だ。
僕は二人のやり取りを静観していた。
今僕達は犯罪をしているのか?
何時か捕まるのか?
急に怖くなってきた。
人生で初めての悪行だ。
いや、初めてか?
いや、今はそんな事どっちでも良い。
僕の立場上二人に付いて行くしかない。三人なら怖くない。・・・・・?。
何か後ろで小さい物音が聞こえた気がした。
ふと、勢い良く後ろを振り向いた。
・・・・・しかし、そこには誰もいなかった。
勘違いだったのか?
前を向き直すと半藤君達はどんどん先を進んでいた。
僕は早歩きで追い付いた。
我々犯罪者達はスカイタワーとは違うグランドタワーの内装や造りを見ながら三十六階まで上がった。
しかし、特に面白い物はなかった。
何故、わざわざこんな面倒臭い事をしなければならないのか?
半藤君は本当に今楽しんでいるのか?
少し、悪い事がしたかっただけなのか?
そう思っていたら何時の間にか廊下の端に着いていた。
その時!
突然背後で扉の開く音がした。
誰かが部屋から出てきようだ。
緊張が走る。
・・・・・透さんだ。
何か昨日と雰囲気が違う。
いやそんな事より勝手にこっちに来た事をバレたくない。
とっさに三人共隠れろという共通本能が働き、近くにあったソファーの後ろに素早く隠れた。
子供の遊びみたいだ。
こんな状況でもどこか懐かしい気分になった。
そして、その状態のまま少し経ったら透さんの姿が見えなくなった。
「・・・・・やっぱり透さんがあの渡り廊下の扉を開けたのか」
「そうみたいね」
「あの部屋に何の用事があったのだろう?」
「どうでも良いわよ、そんな事。それより早く向こうのホテルに戻らなく
ちゃ。オープンパーティーが始まっちゃうわよ」
そうだ。
もう直ぐオープンパーティーが始まるんだった。
こんな事をしている場合ではない。
僕達は十分程でグランドタワーの滞在を終わりにして、スカイタワーへ戻る為、三十階の渡り廊下へ向かい始めた。
十八時五十分。
「あっ、あれ、もしかして扉が閉まっている!?」
半藤君が三十メートル先の向こうを見て、そう言う。
僕も確認してみたら、やっぱり彼の言う通りだった。
「ええ、そんな嘘!」
大谷さんが絶句する。
恐らく透さんが閉めたのだろう。
最悪だ。
「・・・・・どうしよう」
「・・・・・じゃあいっその事、積王商事側のオープンパーティーに参加してしまおうぜ」
半藤君がとんでもない事を言い出した。
この人の思考回路が本当に理解出来ない。
「馬鹿!勝手にそんな事、しちゃ駄目に決まっているでしょ!」
「別にいいじゃん。外まで出るの面倒臭いし、それにお前だって雨に濡れて折角の衣装を台無しにするのは嫌だろ」
「・・・・・それは、そうだけど」
大谷さんがそう言うと半藤君が勝手に二十八階のオープンパーティー会場に向かい始めてしまった。
「もう、私知らない!」
大谷さんが怒りながらも半藤君に付いて行く。
僕も付いて行くしかない。
果して僕達はばれずに無事に参加する事が出来るのか?
僕達は二十八階のオープンパーティー会場に入った。
まるで、他人の家に不法侵入する気分だ。
しかし、そんな事を欺くようにそこは坩堝と化していた。
五百人を超える人達で溢れているだろうか?
「お客様、ご招待券を拝借させて頂いても宜しいでしょうか?」
突然、受付にいるスーツを着た華奢な体格な女が僕達にそう促した。
やはりそう上手く行く筈がない。
緊張が走る。
手に汗が湿る。
「如何致しましたか?」
その女が僕達の異変に気付き、もの問いたげに投げ掛ける。
それはそうだ。
僕達は不審者に見えても仕方ない。
「あっ、はいはい」
半籐君がそう言ってスカイタワーのオープンパーティーの招待券を差し出した。
「ちょっと、あんた」
大谷さんがそう言って半籐君の手を抑える。
「なんだよ」
「如何しましたか?」
「えっ、えっえーと。私達はその・・・・・グランドタワーのオープンパーティーではなくスカイタワーのオープンパーティーに招待された高校生です。・・・・・」
「馬鹿、黙ってろよ」
「どうして関係のない高校生達がこのオープンパーティーに参加しようとしているのかしら?」
その女が僕達にこの悪行の経緯の説明を求める。
僕は圧倒され、たじろぐ。
「・・・・・はい実は、私達はスカイタワーのオープンパーティー会場に向かう際、三十階の渡り廊下の二枚の扉が開いている事に気付き、こんな事でもなければ、グランドタワーには一生行けないと思い、興味本位でスカイタワーから渡り廊下を使ってこっちに来たのです。暫く、こっちのホテルを楽しんだ後、オープンパーティーが始まるので、急いで戻ろうとしたのですが、もうその時には渡り廊下の扉が二枚共閉まっておりまして、それで戻れなくなってしまい、外は豪雨だという事もあり、こちらのオープンパーティーに参加しようとした次第です。・・・・・本当に申し訳ありません」
流石は生徒会長だ。
説明が上手い。
いや、感心している場合ではない。
女の反応は?
「そもそも戻れなくなった以前に勝手にこっちに来たりしては駄目でしょう」
ごもっとも・・・・・だろ。半藤君。
「全くあの人も何やっているのかしら。開けたらちゃんと閉めないと」
あの人・・・・・?半藤君も大谷さんもハテナである。
「如何されたのですか?」
別の女がトラブルを嗅ぎつけやって来た。
目がきりっとした都会美人のスーツ姿の女だ。華奢な女がその美人にトラブルの説明をする。
「まぁ、利恵さん、宜しいではないですか。彼らも悪気があってそうしたのではないでしょうから」
「まぁ、しょうがないわね。参加しても良いわよ」
「あっ、有難う御座います」
二人の女に向かって頭を下げそう礼を言い、僕達は美人の方の女と共に会場の中へ入って行った。
「私、積王商事の社長秘書をしています氷室彩乃と申します。君達は山光興業に誰か知り合いがいるのですか?」
「はい、山光興業の主催者の透さんの弟さんの婚約者の佳純さんに誘って頂きました」
大谷さんが代表して答えた。
「そうでしたか。透さんの弟さんの婚約者と」
「あのー、一つ訊いても良いですか?」
「はい、良いですよ」
「さっきの受付の女の人と透さんって何か関係しているんでしょうか?」
「あの女の人は笹野利恵さんと言いまして、透さんの奥さんなのですよ」
「そっ、そうなんですか!」
僕もこの意外な事実に驚いた。
あの二人の相性は果して合うのか?
「如何しましたか?」
僕達がボーとしていると、突然、氷室さんがさっきからあたふたしている従業員らしき人達に声を掛けた。
「いや、こちらの従業員が昨日からずっと3603号室のVIPルームのカードキーとスペアキーがなくなっていると言っているのです」
「そうなんですか?それは困りましたね。私も後で探します。あっ、でも透さんが勝手に持ち出したのかもしれませんよ」
「ああ、その可能性もありますね」
「透さんがですか?」
大谷さんが二人の会話にそう割り込んだ。
「ええ、透さんはスカイタワーもグランドタワーも全てのVIPルームを管理しているのです。だから、カードキーやスペアキーを自由に持ち出す事も可能なのです」
「そうなんですか。積王商事の方もですか?」
「ええ、実は山光興業と積王商事は今回のプロジェクトに共同出資しましたが、今回のプロジェクトは山光興業が主導で多く出資したのです。ですからプロジェクトリーダーである透さんが実質のこの両ホテルの最高責任者で、お客様が泊っていないVIPルームには自由に出入り出来るのです」
それは僕達も昨日誠さんから聞いていた。
御神君が粘ったおかげで。
そして僕達はまだ従業員と話している氷室さんを邪魔してはいけないと思って別れた。
カードキーとスペアキーは紛失したのか?
それとも透さんが勝手に持ち出しているだけなのか?
果して大丈夫なのか?
十九時。
僕達は料理を皿に盛り、食べている。
さっきまでいろいろな事があったせいか僕はあまり食欲がないが半藤君は相変わらずそんな事お構いなしである。
気付けば、そろそろオープンパーティーが始まる時間だった。
「本日お集まりの皆様方、私本日の司会進行を務めさせて頂きますと伊藤と申し上げます。・・・・・・・・・・では今回のオープンパーティーの主催者である積王商事株式会社代表取締役、福田義信様よりご臨席の皆様方にご挨拶と乾杯の音頭を取って頂きます」
伊藤がそう切り出すと、老社長の福田が壇上に上りマイクの前に立った。
この人が噂の長話社長か。今からする挨拶も長くなるのか?
「只今、今ご紹介に預かりました、本日のオープンパーティーの主催者を務めさせて頂きます積王商事株式会社代表取締役の福田喜助で御座います。皆様、本日はグランドタワーのオープンパーティーにご参加して頂き誠に有難う御座います。この度我が社は新規参入という形で・・・・・・・・・・では、この先のグランドタワーの成功を祈願して乾杯!」
三分。
案の定、長かった。
「乾杯!」
オープンパーティーが始まって四十五分が経過した。
それはグランドタワーでも予期せぬ事態が起こる時刻になったという事だ。
「おっ、お客様、ご招待券を拝借させて頂いても宜しいでしょうか?」
利恵がオープンパーティーに遅れて来た不気味な格好をした四人集団にそう促した。
しかしその集団は利恵を無視し、足を止めない。
「おっ、お客様!」
黒いジャケットと手袋を着用し、更に黒い覆面で顔を覆い、黒いニット帽を被り、サングラスを掛けた四人が突然この会場に入って来た。
他の客達もそれに気付き、騒ぎ出す。
「何あの人達?」
「どういう事なの?」
「これもパティーの内容なの?」
覆面男達四人の内の一人が壇上に上がった。
それを傍観していた僕は非常に嫌な予感がした。
いや、怖くなった。
さっき体験した怖さよりも遙かに上だ。
「おいなんだ、お前は!」
福田が覆面男に強く怒鳴った。
そう怒鳴られた覆面男が内ポケットから銃を取り出し、天井に向かって一発発砲した。
ドーン!
六月八日十九時四十五分。
一発の爆音がグランドタワーのオープンパーティー会場に木霊した。
外は相変わらず豪雨の音と雷鳴が鳴り響いている。
グレーのジャケットを着ている半藤君が僕と大谷さんを呼び止めた。
「何、急に?」
大谷さんがそう反応する。
うん、一体何だ?急がなくてはならないのに。
「おい、上の渡り廊下を覗いてみろよ。スカイタワーとグランドタワーを結ぶ扉が二枚共開いているぞ。ちょっと行ってみようぜ」
確か渡り廊下は全体がガラス張りだからここからだと扉も見える筈。
そう言われた僕達は窓から上を覗くと、確かに二枚共扉が開いている事を確認した。
恐らく透さんが開けたのだろう。
「止めようよ、貴新。勝手にそんな事しちゃまずいわよ。それに後二十分位でオープンパーティーが始まっちゃうわ」
「そっ、そうだよ」
僕もそれを止めに入る。
一体何を言っているんだ、この人は。
「折角名古屋まで来たんだよ。お前らグランドタワーの中の方も見てみたいとは思わないのか?何と言われようが俺は行くぞ」
そう強く言い放つと半籐は勝手にさっき乗って来たエレベーターの方へ向かい、スイッチを押しエレベーターに乗った。
「ったく。いつも勝手何だから」
それを見かねた亜理紗も愚痴をこぼしながらエレベーターに向かい乗った。
どうしよう。
もう先頭を行く御神君達の姿は見えない。
僕にはもう半籐君達に付いて行く選択肢しか残されていないだろう。
僕も嫌々エレベーターに向かい乗った。
そして暫くし、三十階に着き、僕達はグランドタワーに向かって渡り廊下を渡り始めた。
「しかし、改めてここから下を見ると相当高いよな」
半籐が上から下を俯瞰する。
「まぁ、この渡り廊下は地上百メートルの位置にあるからね」
亜理紗は不機嫌だ。
そして、三人がもう一つの扉を潜り、三十メートル程の距離があった渡り廊下を渡り終えた。
「ここら辺はあんましスカイタワーと変わらないな」
半藤が再びそう感想を述べる。
「そうね」
亜理紗はまだ不機嫌だ。
僕は二人のやり取りを静観していた。
今僕達は犯罪をしているのか?
何時か捕まるのか?
急に怖くなってきた。
人生で初めての悪行だ。
いや、初めてか?
いや、今はそんな事どっちでも良い。
僕の立場上二人に付いて行くしかない。三人なら怖くない。・・・・・?。
何か後ろで小さい物音が聞こえた気がした。
ふと、勢い良く後ろを振り向いた。
・・・・・しかし、そこには誰もいなかった。
勘違いだったのか?
前を向き直すと半藤君達はどんどん先を進んでいた。
僕は早歩きで追い付いた。
我々犯罪者達はスカイタワーとは違うグランドタワーの内装や造りを見ながら三十六階まで上がった。
しかし、特に面白い物はなかった。
何故、わざわざこんな面倒臭い事をしなければならないのか?
半藤君は本当に今楽しんでいるのか?
少し、悪い事がしたかっただけなのか?
そう思っていたら何時の間にか廊下の端に着いていた。
その時!
突然背後で扉の開く音がした。
誰かが部屋から出てきようだ。
緊張が走る。
・・・・・透さんだ。
何か昨日と雰囲気が違う。
いやそんな事より勝手にこっちに来た事をバレたくない。
とっさに三人共隠れろという共通本能が働き、近くにあったソファーの後ろに素早く隠れた。
子供の遊びみたいだ。
こんな状況でもどこか懐かしい気分になった。
そして、その状態のまま少し経ったら透さんの姿が見えなくなった。
「・・・・・やっぱり透さんがあの渡り廊下の扉を開けたのか」
「そうみたいね」
「あの部屋に何の用事があったのだろう?」
「どうでも良いわよ、そんな事。それより早く向こうのホテルに戻らなく
ちゃ。オープンパーティーが始まっちゃうわよ」
そうだ。
もう直ぐオープンパーティーが始まるんだった。
こんな事をしている場合ではない。
僕達は十分程でグランドタワーの滞在を終わりにして、スカイタワーへ戻る為、三十階の渡り廊下へ向かい始めた。
十八時五十分。
「あっ、あれ、もしかして扉が閉まっている!?」
半藤君が三十メートル先の向こうを見て、そう言う。
僕も確認してみたら、やっぱり彼の言う通りだった。
「ええ、そんな嘘!」
大谷さんが絶句する。
恐らく透さんが閉めたのだろう。
最悪だ。
「・・・・・どうしよう」
「・・・・・じゃあいっその事、積王商事側のオープンパーティーに参加してしまおうぜ」
半藤君がとんでもない事を言い出した。
この人の思考回路が本当に理解出来ない。
「馬鹿!勝手にそんな事、しちゃ駄目に決まっているでしょ!」
「別にいいじゃん。外まで出るの面倒臭いし、それにお前だって雨に濡れて折角の衣装を台無しにするのは嫌だろ」
「・・・・・それは、そうだけど」
大谷さんがそう言うと半藤君が勝手に二十八階のオープンパーティー会場に向かい始めてしまった。
「もう、私知らない!」
大谷さんが怒りながらも半藤君に付いて行く。
僕も付いて行くしかない。
果して僕達はばれずに無事に参加する事が出来るのか?
僕達は二十八階のオープンパーティー会場に入った。
まるで、他人の家に不法侵入する気分だ。
しかし、そんな事を欺くようにそこは坩堝と化していた。
五百人を超える人達で溢れているだろうか?
「お客様、ご招待券を拝借させて頂いても宜しいでしょうか?」
突然、受付にいるスーツを着た華奢な体格な女が僕達にそう促した。
やはりそう上手く行く筈がない。
緊張が走る。
手に汗が湿る。
「如何致しましたか?」
その女が僕達の異変に気付き、もの問いたげに投げ掛ける。
それはそうだ。
僕達は不審者に見えても仕方ない。
「あっ、はいはい」
半籐君がそう言ってスカイタワーのオープンパーティーの招待券を差し出した。
「ちょっと、あんた」
大谷さんがそう言って半籐君の手を抑える。
「なんだよ」
「如何しましたか?」
「えっ、えっえーと。私達はその・・・・・グランドタワーのオープンパーティーではなくスカイタワーのオープンパーティーに招待された高校生です。・・・・・」
「馬鹿、黙ってろよ」
「どうして関係のない高校生達がこのオープンパーティーに参加しようとしているのかしら?」
その女が僕達にこの悪行の経緯の説明を求める。
僕は圧倒され、たじろぐ。
「・・・・・はい実は、私達はスカイタワーのオープンパーティー会場に向かう際、三十階の渡り廊下の二枚の扉が開いている事に気付き、こんな事でもなければ、グランドタワーには一生行けないと思い、興味本位でスカイタワーから渡り廊下を使ってこっちに来たのです。暫く、こっちのホテルを楽しんだ後、オープンパーティーが始まるので、急いで戻ろうとしたのですが、もうその時には渡り廊下の扉が二枚共閉まっておりまして、それで戻れなくなってしまい、外は豪雨だという事もあり、こちらのオープンパーティーに参加しようとした次第です。・・・・・本当に申し訳ありません」
流石は生徒会長だ。
説明が上手い。
いや、感心している場合ではない。
女の反応は?
「そもそも戻れなくなった以前に勝手にこっちに来たりしては駄目でしょう」
ごもっとも・・・・・だろ。半藤君。
「全くあの人も何やっているのかしら。開けたらちゃんと閉めないと」
あの人・・・・・?半藤君も大谷さんもハテナである。
「如何されたのですか?」
別の女がトラブルを嗅ぎつけやって来た。
目がきりっとした都会美人のスーツ姿の女だ。華奢な女がその美人にトラブルの説明をする。
「まぁ、利恵さん、宜しいではないですか。彼らも悪気があってそうしたのではないでしょうから」
「まぁ、しょうがないわね。参加しても良いわよ」
「あっ、有難う御座います」
二人の女に向かって頭を下げそう礼を言い、僕達は美人の方の女と共に会場の中へ入って行った。
「私、積王商事の社長秘書をしています氷室彩乃と申します。君達は山光興業に誰か知り合いがいるのですか?」
「はい、山光興業の主催者の透さんの弟さんの婚約者の佳純さんに誘って頂きました」
大谷さんが代表して答えた。
「そうでしたか。透さんの弟さんの婚約者と」
「あのー、一つ訊いても良いですか?」
「はい、良いですよ」
「さっきの受付の女の人と透さんって何か関係しているんでしょうか?」
「あの女の人は笹野利恵さんと言いまして、透さんの奥さんなのですよ」
「そっ、そうなんですか!」
僕もこの意外な事実に驚いた。
あの二人の相性は果して合うのか?
「如何しましたか?」
僕達がボーとしていると、突然、氷室さんがさっきからあたふたしている従業員らしき人達に声を掛けた。
「いや、こちらの従業員が昨日からずっと3603号室のVIPルームのカードキーとスペアキーがなくなっていると言っているのです」
「そうなんですか?それは困りましたね。私も後で探します。あっ、でも透さんが勝手に持ち出したのかもしれませんよ」
「ああ、その可能性もありますね」
「透さんがですか?」
大谷さんが二人の会話にそう割り込んだ。
「ええ、透さんはスカイタワーもグランドタワーも全てのVIPルームを管理しているのです。だから、カードキーやスペアキーを自由に持ち出す事も可能なのです」
「そうなんですか。積王商事の方もですか?」
「ええ、実は山光興業と積王商事は今回のプロジェクトに共同出資しましたが、今回のプロジェクトは山光興業が主導で多く出資したのです。ですからプロジェクトリーダーである透さんが実質のこの両ホテルの最高責任者で、お客様が泊っていないVIPルームには自由に出入り出来るのです」
それは僕達も昨日誠さんから聞いていた。
御神君が粘ったおかげで。
そして僕達はまだ従業員と話している氷室さんを邪魔してはいけないと思って別れた。
カードキーとスペアキーは紛失したのか?
それとも透さんが勝手に持ち出しているだけなのか?
果して大丈夫なのか?
十九時。
僕達は料理を皿に盛り、食べている。
さっきまでいろいろな事があったせいか僕はあまり食欲がないが半藤君は相変わらずそんな事お構いなしである。
気付けば、そろそろオープンパーティーが始まる時間だった。
「本日お集まりの皆様方、私本日の司会進行を務めさせて頂きますと伊藤と申し上げます。・・・・・・・・・・では今回のオープンパーティーの主催者である積王商事株式会社代表取締役、福田義信様よりご臨席の皆様方にご挨拶と乾杯の音頭を取って頂きます」
伊藤がそう切り出すと、老社長の福田が壇上に上りマイクの前に立った。
この人が噂の長話社長か。今からする挨拶も長くなるのか?
「只今、今ご紹介に預かりました、本日のオープンパーティーの主催者を務めさせて頂きます積王商事株式会社代表取締役の福田喜助で御座います。皆様、本日はグランドタワーのオープンパーティーにご参加して頂き誠に有難う御座います。この度我が社は新規参入という形で・・・・・・・・・・では、この先のグランドタワーの成功を祈願して乾杯!」
三分。
案の定、長かった。
「乾杯!」
オープンパーティーが始まって四十五分が経過した。
それはグランドタワーでも予期せぬ事態が起こる時刻になったという事だ。
「おっ、お客様、ご招待券を拝借させて頂いても宜しいでしょうか?」
利恵がオープンパーティーに遅れて来た不気味な格好をした四人集団にそう促した。
しかしその集団は利恵を無視し、足を止めない。
「おっ、お客様!」
黒いジャケットと手袋を着用し、更に黒い覆面で顔を覆い、黒いニット帽を被り、サングラスを掛けた四人が突然この会場に入って来た。
他の客達もそれに気付き、騒ぎ出す。
「何あの人達?」
「どういう事なの?」
「これもパティーの内容なの?」
覆面男達四人の内の一人が壇上に上がった。
それを傍観していた僕は非常に嫌な予感がした。
いや、怖くなった。
さっき体験した怖さよりも遙かに上だ。
「おいなんだ、お前は!」
福田が覆面男に強く怒鳴った。
そう怒鳴られた覆面男が内ポケットから銃を取り出し、天井に向かって一発発砲した。
ドーン!
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