クーデレお嬢様のお世話をすることになりました

すずと

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第16話 お嬢様にも色々事情があるみたいです

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 ゲームセンターで時間を潰して、それなりに晩御飯を食べる良い時間となったので、本日の本来の目的である串カツ食べ放題の店にやって来た。

 店内へ向かって歩いて行く途中に、店の外から見える食べ放題の店になら最近よく置いてあるチョコレートタワーをアヤノはジッと見つめていた。

「いらっしゃいませー。お客様2名様ですか?」

 店内に入ると女性店員さんが接客してくれる。

「はい」
「当店のご利用は初めてでしょうか?」
「いえ、何回かあります」
「かしこまりました。お席にご案内します。こちらどうぞー」

 店員さんに案内されて4人席様のテーブルへ案内された。

 晩御飯時だけど平日で客も全然入っておらずなので広い席に案内してくれたのだろう。

「お荷物はこちらへどうぞー」

 店員さんがベンチ型の椅子の座る所に手をかけ、持ち上げる。そこには収納スペースが出てきたので俺はそこにぺったんこの鞄を置く。

「アヤノ?」

 アヤノを見ると少しだけあっけらかんとしていた。
 そうだよな。まさかそこが開くなんて思わないわな。

「あ、うん」

 我に返り、アヤノも収納スペースへ鞄とヌタローを置いた。

 収納スペースを閉じてもらい、俺達は対面で座る。

「お時間90分制となっております。お時間が来ましたらこちらのバインダーを持ってレジまでお越し下さい」

 バインダーを机の側面にかけた後に店員さんは「失礼します」と言って、机の真ん中にある小さなフライヤーの電源を入れた。

「今から油を温めていきますのでご注意して下さい。串カツを揚げる際はそちらのカバーをお使い下さい。それではごゆっくりどうぞ」

 淡々と説明して店員さんは去って行った。

「――これ、どうするの?」
「あそこにある串カツ取りに行くんだよ」

 俺は奥にあるショーケースの方を指差して立ち上がる。

「それじゃあ取りに行くか」
「セルフ?」
「そうそう。ほら行くぞ」

 コクリと頷いてアヤノも立ち上がりショーケースの方へ向かった。

 ショーケースには定番の肉類や魚介類、野菜類が皿の上に山盛りに積まれている。
 変わり種で串に刺さった小さな可愛いパンやドーナツ。たこ焼きやたい焼きもある。
 
「あれも食べて良い?」

 ショーケースの中身をあらかた選抜して皿に盛った後にアヤノが見ている所へ視線を合わせる。

 そこはデザートバイキングゾーンであった。

「ああ。あれも食べ放題だぞ」
「分かった」

 少しだけ嬉しそうな声を出すアヤノ。
 やはり女の子。甘い物は好きみたいだな。ポテチジャンキーだけど――。

 ――席に戻ってお互いの選抜メンバーを机に置く。

 お嬢様は串カツを食べた事がないって言ってたから、勿論作った事もないだろう。

「そこに白い液体とパン粉あるだろ?」

 お互いの手元にいつの間にか置かれたバッター液とパン粉。どうやら俺達がショーケースに行っている間に店員さんが持ってきてくれたみたいだ。

「食べたい串を選んで白い液体に漬けて、パン粉をまぶす」

 言われた通りにアヤノは行動する。

「そしたら、油へGO」
「こ、こう?」

 少しビビリながら串を油に突っ込む。

「そうそう。まぁ揚げ時間は大体ノリだけど、そこら辺に時間書いてると思うから、それ参考にしなよ」

 言いながら俺も何本か揚げて行く。

「カバーは?」

 先程店員が使えと言った油避けのカバーを指差す。

「別に使っても良いよ。ただの油避けだから無くても大丈夫だけど」
「なら必要ない」
「油飛んできて制服汚れるぞ?」
「洗うから大丈夫」
「中々男前な性格してるな」
「リョータローが洗うから大丈夫」
「――あ、俺がね。俺が洗うのね。そりゃそうだ。従者だもんね。じゃあ油避け使いまーす」



 ――数秒後。

 串カツを取り出して、フライヤーに付属されている網の所へ一旦串カツを置いて油切りをする。

「それはなにしてるの?」
「油切りだよ。こうやって余分な油を落としてるんだ」

 まぁ何分位油切りして良いのかは分からないが。
 見様見真似でアヤノの自分の育てた串カツを同じ様に油切りする。

 適当な時間放置して、串カツを手に取り、ソースの入った皿に串カツを付けて食べる。
 
 うん! 揚げたてだからめっちゃ美味しい。

 アヤノも俺に続いて食べる。

「どう?」
「美味しい。それに面白い」

 ほっ。外食が嫌いだから「こんな物は食べられない」とか言われたらどうしようかと思ったわ。

「良かった……」

 胸を撫で下ろしながら次の串カツを口にする。

「なにが?」

 アヤノは先程教えてやった方法で次々に串カツを油へダイブさせて行く。

「いや、外食とか出前が嫌いみたいだからさ。口に合って良かったーって」
「別に外食や出前のご飯が嫌いという訳じゃない」
「え? そうなの?」
「そんな事言った?」
「あー……」

 確かに『嫌』とは言われたけど『嫌い』とは言われてない気もするな。
 それに考えてみたら昼間はコンビニ飯だし、普通に手料理以外も食ってるもんな。

「言ってないかも……」
「私は別に外食も出前のご飯も嫌いじゃない。ただ――」

 歯切りが悪くなったアヤノは串カツを取り上げて油切りする。

「ただ?」

 言葉の続きが気になったのて問う。

「――家で1人で食べるご飯が嫌い……」
「そうか。今は1人様の店も数多く出来てるけど、やっぱ1人ってのは寂しいもんだよな」

 そう言うとアヤノは首を横に振る。

「『家』で1人で食べるのが――。学校とか外食で1人で食べるのは別に良い」
「その違いは?」
「学校にも外食先にも絶対に人がいる」
「あー……。なるほどね」

 学校でも店でもボッチ飯してても、結局周りには絶対誰かいてるって訳だ。

「パパ――父も――」

 あ、この子本当はパパ呼びなんだ。めっちゃ意外だわ。

「――昨日はたまたま帰りが早かったけど、いつもはもっと遅いから一緒に晩御飯食べるなんてほぼない」
「そうだったんだな」

 パパ呼びを軽くいじろうかと思ったが、少し真面目な話になってるのでやめておこう。

「でも、手料理って言っても結局は1人で食べてるんだよな?」
「恵さんの料理は似てるから」
「似てる?」
「うん。ママの料理に……」

 アヤノの家族構成は父親とアヤノの2人。そんな中で母親の事を口にするという事は蒸発した訳じゃなくて、何らかの理由で――。
 俺とアヤノはそこまで深い関係ではない。だからあまり根掘り葉掘り聞くのも悪い気がしたので黙り込んでしまう。

「そう。だから恵さんの手料理が好き。ママを感じられるから」
「そっ……か……」
「――だから恵さんの料理が好きなだけで、別に外食が嫌いな訳じゃない。1人で家で出前を食べるのは嫌いだけど……」

 だから昨日出前取ろうとしたら即答だったのね。

「リョータローが作ってくれたパスタもママの料理と似ている気がした」
「俺のも?」

 コクリと頷く。
 俺の料理は母さん直伝だから、アヤノのお母さんと俺の母さんの料理が似ているということはおのず似てしまうのかな?

「だからまた作って欲しい」

 こんな話をされて逆に作らないと言える奴がいるなら出てきてその空気の読めない心の中を覗いてみたい。

「ああ。勿論。次は食べたい物リクエストしてくれよ?」
「なんでも良い」
「そこは素直に頷くところだろうがよ」



♦︎



「――ほい。到着」

 アヤノのマンション前に着き、バイクを停車させる。止まったの確認してからアヤノが降りる。

 バイクでの移動中に俺の背中とアヤノの胸でプレスされていたヌタローはライ○ップでもしたかの様にヒョロヒョロになっていた

 串カツ屋にはギリギリまで居座った。
 アヤノは串カツを大量に平らげた後にデザートも山の様に平らげていた。特にチョコレートタワーが気に入ったみたいで何度も何度もチョコレートを付けては席に戻り、チョコレートを付けては席に戻りを繰り返していた。

 それにしたってこんな細い身体で凄い量を食べるもんだ。

 本当に女の敵である。まぁおっぱいちっちゃいけど。

「リョータロー。明日は来れるの?」
「明日も起こしに来いってか?」
「うん」

 今朝の光景がフラッシュバックするが、今日は初めてで予備知識が無かったからしんどかったけど、明日は大丈夫のはず。

「――それは良いけど、明日はちゃんと電車だぞ?」
「どうして?」
「校則は守ろうな」
「つまらない」
「面白い校則なんてないだろうが」

 訳わかんなくて笑える校則ならあるがね。

「――分かった」

 つまらなそうに言ってのける。

「あ、ただ、明後日はコンビニのバイトがあるから」
「明後日は土曜日だから別に大丈夫」
「あ……。そっか。今日木曜日か」
「それじゃあ。おやすみなさい」
「あ、ああ。おやすみ」

 そう言って歩き出したアヤノだが、数歩進んで立ち止まって振り返る。

「今日は楽しかった。また外食連れて行って欲しい」

 そう言った後に少しだけ間を置いて言ってくる。

「勿論仕事で」
「あ、ああ。また連れて行ってやるよ。その時はリクエストしてくれ」
「なんでも良い」
「ホント、ブレないねキミ」
「――おやすみなさい」

 そう言って次こそはマンション内に消えて行った。

 ――今日はアヤノの事を少し聞けたな。

 あれかな? 串カツを揚げる作業をしながらの会話だったから話しやすかったのかな?
 焼肉とか鍋とか食べに行った時、何か作業しながらだと話しやすいもんな。

「母さんの味か……」

 俺にはまだそういうのは分からない。
 父さんも母さんもサユキもいる。父さんは今単身赴任だけど――。
 当たり前に母さんの飯を家族で囲んで食っているから彼女の事は正直共感は出来ない。
 共感は出来ないけど彼女にやってあげれる事がある。出来るだけ手料理を振る舞う事が出来る。
 
 ――もう少し料理のレパートリーを増やすか。
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