クーデレお嬢様のお世話をすることになりました

すずと

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第25話 お嬢様の声援が届きました

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 騎馬戦といえば体育祭の中でも中々の注目競技といっても過言ではなかろう。
 1、2、3年の男子全員参加種目。
 4人1組になり、3人が騎馬、1人が騎手になり相手の頭に巻いてあるハチマキを取る事で討ち取りとなるシンプルなルールかつポピュラーな体育祭競技である。

 学校の男子全員がそれぞれ指定された場所に待機を命じられる。

「1番目指そうぜ」
「絶対勝って海島さんに良いところ見せてやる」
「この勝負負けられない」

 全員あっちぃー。やる気満々だ。

 クジで決まったとはいえ、俺のメンツは中々に濃いメンバーとなったな。
 いや……。俺のクラスなら誰と組んでも濃いメンツになるか……。

 騎馬になってくれる土台の先頭をイケメンの蓮が行く事になり、左翼に夏希ジャンキーの井本が入り、右翼には日本史大好き石田くんが入ってくれる。
 そして騎手に選ばれたのは俺である。選ばれたといっても、これも全部蓮のクジアプリの結果だけど。
 
「南方。絶対勝とうな」
「え? あ、ああ」

 あんまり絡んだ事のない日本史大好き石田くんが珍しく熱い。

「何か殺伐とした物を感じるけど?」
「加藤に言われたのさ『日本史好きなのに騎馬戦で負けるなんて事ないよね』ってね。負けたらバカにされる」

 あー……。あの噂では石田くんを好きすぎて、日本史を一生懸命勉強しすぎた結果、石田くんを超えちゃった加藤さんね。
 騎馬戦て日本史関係あんの?

 てか何それ。早く付き合えよお前ら。

「だから南方! 頼むぞ」
「え、お、おん」

 俺も負ける気はないけど、普段絡まない奴が熱く絡んでくるのは新鮮で反応に困る。でも、流石は体育祭。こういう普段絡まない人と絡めるのは良い傾向だと思うよ。俺は。

「絶対勝って海島さんと――」

 アイツは絡むとやっかいだから放っておこう。

「蓮。頑張ろうな」

 井山に絡まれる前に先に蓮に話かけておく。

「ああ! 涼太郎! 頑張ろうぜ!」

 爽やかに言ってくる。
 だっせぇ体操服着てても蓮が着ると高級ブランド物に見えるのは俺だけじゃないはずだ。

「やっぱビジュアル的に蓮が上に行くべきじゃない?」

 つい自然と溢れた本音に蓮が笑う。

「何言ってんだよ。騎馬戦にそんなの関係ないし、それに涼太郎の方が絵になるって」

 イケメンのお世辞。
 分かっていてもイケメンに言われるのは凄い嬉しいし鼻が高くなる。

「え? あ、そ、そう?」

 つい照れ笑いを浮かべてしまう。

「そうそう。だから移動は任せて波北さんに良い所見せてやれよ」

 その発言にドキっとしてしまう。

「何でアヤノ?」
「え? 付き合ってるんじゃないの?」
「いやいや。付き合ってないわ」
「だって名前呼びだし」

 コイツも水野と同じか……。

「名前呼びだからって付き合ってるとかないだろ」
「まぁ……。それもそうだけど……。でも、眼中にないって訳じゃないんだろ?」

 何だかやけに聞いてくるな。

「ま、まぁ。眼中にないとかはないけどさ……。蓮は? 蓮はいないのか? カッコいい所見せたい子は」

 こちらから質問してやると蓮は目を細めてカッコよく言い放つ。

「いるよ」
「お! そうなんか! ほんじゃ勝ってカッコいい所見せてやらないと!」
「そうだな。ああ! そうだ。俺達がNo.1になってカッコいい所見せてやりたい!」
「よっしゃ! やったろーぜ」
「おう!」

 俺達のチームは女の子に良い所を見せたい煩悩の塊の集まりのチームであった。
 しかし、それが、それこそが男のエネルギーになる事を思い知る。
 女の子というのは男に取って無くてはならない存在かつパワーの源になると、この騎馬戦で実感したのであった。



♦︎



 運動場に集まる数十体の騎馬達。睨み合う騎手、見えぬ闘志を内に秘める騎馬。

 嵐の前の静けさとはこの事である。
 風の音が響き、砂埃が舞う。
 男達は今か今かと決戦の時を静かに待つ。

 ――ゴオオオオン!

 ゥワアアア!

 銅鑼の音と共に戦場へと駆け出す騎士達は魂の叫びと共に縦横無尽に駆け出した。
 それは俺達煩悩チームも例外ではなく、ともかく走る。止まっていた方が標的にされるから。
 だが、他のチームとは速さが足りなくて少し出遅れた感がある。
 幾ら先頭の蓮が運動神経抜群でも左翼と右翼は運動特化型ではない。

 それを見ての判断なのか、1組の騎馬に真っ正面から狙われてしまう。
 見たところ1年の様だ。
 彼等は真っ直ぐにこちらに走ってくる。

「いただきっ!」

 去り際に俺のハチマキを奪う作戦の様だ。

 まずい……。

 そう思ったが、まさか、まさかのサイドステップでかわした。
 いや、俺も驚いたよ。3人の呼吸がピッタリにサイドステップでかわすとか。てか、騎馬戦でサイドステップとか見た事ないわ。

 そんな味方の俺でも驚いたの束の間。あっという間に後ろに回り込んで楽々ハチマキを奪う。

 ワアアアア!

 歓声が湧いた。この歓声は間違いなく俺達に向けられた物だ。

 各々が目星い女子に良い所を――。

 男子の結託とは凄いものなのである。



 

 ――それから俺達の騎馬は幾つもの困難を乗り越えて、数多のハチマキを奪い取る。もはや敵なしの一騎当千。

 騎馬戦も終盤戦。
 観客達の歓声をも味方につけた俺達はノリに乗っていた。

 このままの勢いで優勝を狙える。

 それは俺達4人は当然、観客達もそう思った事だろう。

 しかし、勝負とは油断してはならない。

「リョータロー。頑張ってー」

 小さく聞こえた声に反応すると、すぐ近くはウチのクラスのテントがあり、そこにはクラスメイトの女子達がエールを送ってくれている姿があった。
 その中でもかき消されているであろうアヤノの声が俺の耳へ他の声をすり抜ける様に聞こえてきた。

 アヤノの方をつい見てしまう。
 しかし、それは俺だけではなかった。

 蓮も井本も石田くんも、全員が自分のクラスに目をやってしまった。

 その一瞬の隙をつかれた。

「あ……」

 無情にも俺のハチマキは同じ2年の奴等に取られてしまった。

 ああああ!

 落胆の声がコチラまで聞こえてきた。
 
 そして俺達は何が起こったのか分からなかった。
 ちょっとだけ、ちょっとだけ女子の方を見ただけなのに。

 ――女子の応援は力になるけど、煩悩が過ぎると生死をわかつよね。



♦︎



「最後間抜けだったね」

 騎馬戦が終わりテントに戻る前辺りにアヤノに言われてしまう。

「未だに何が起こったか分からないからな」
「こっちの方をポカッと見てた」
「あ、ああ。まぁな……」
「何で?」
「何でって……」

 お前の声援が聞こえたから。

 何て恥ずかしくって言えないよな。

 何も言えずに頬を掻いて黙秘をしているとアヤノが言ってくる。

「あれはいやらしい事を考えている顔だった」
「はぁ!? んな訳あるか!」
「うそ。リョータローの顔は分かりやすいから、すぐに分かる」
「いやいやいや! そんな事考えてないっての」
「じゃあ誰を見て、何を考えていたの?」
「いや……。それは……。ちょっと言えないけど」
「やっぱり……。もしかして水野さんを見てたとか?」
「何でそこで水野が出てくるんだよ?」
「水野さんは巨乳。リョータローは貧乳よりも巨乳が好きだYO」

 それはアヤノを初めて起こした時に言ったラップの台詞。いや、ラップとは呼べないけど。

「忘れないって言ったでしょ」

 ゴミを見る様な目をしてくる。

「いや、それと今のとは関係ないだろ」
「関係ある」
「どんな因果関係があるんだよ!」
「水野さん×巨乳=リョータローいやらしい顔」
「無理くりだな! おい!」
「今までの行動のツケ」

 はぁ……。何かアヤノに勘違いされたままゴミの様な目で見られるより素直に言った方がマシだなこれは……。

「アヤノの声援が聞こえた」
「え?」

 珍しくアヤノは目を丸めた。

「だからアヤノの声援が聞こえてそっちに反応しちまったの」
「そ、そう……」

 アヤノは目を逸らして呟く。

「だから水野を見てたとかじゃなくて……。アヤノを見てたんだよ……」

 これ、口にするとめちゃくちゃ恥ずかしいな……。
 照れ隠しの様に頭を掻く。

 なんだか照れ臭い空気が流れたので、恥ずかしさを隠す様に俺がその空気を壊す。

「つ、次はクラス対抗リレーだし、練習の成果を発揮出来るな!」

 少し大きな声で言ってのけるとアヤノも空気を読んでくれたのか拳を作る。

「あの地獄の様な日々の成果が今解き放たれる」
「いや、地獄の様な日々は俺の台詞だわ。ま、存分に見せつけてやろうぜ」
「うん。見せつける」
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