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第14話 それぞれが進む道
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それからまた月日が経った。
私はあの日以降、結局迷宮に潜ったりはしなかった。
勿論今でも、元の世界に戻りたいと思っている。
だけど……そうは言っても、彼女との生活を手放せずにいた。
「ルリンさんはもし、迷宮の外に出る事が出来たら、何がしたいですか?」
私は今、魔法の勉強に取り組んでいた。
隣では、つまらなそうにルリンさんが見守ってくれている。
「いきなり何馬鹿なこと聞いてるの?……ふざけた事言ってる暇があるなら、料理でも教えてくれない」
「それは後でお願いします」
こんな事をするのにも理由がある。
あの後ルリンさんは、自分の体の状況について説明してくれた。
まず、彼女の本体に会わないという選択は正解だったようだ。
出会うが最後、直に人間の匂い浴びたせいで欲求を制御出来なくなり、喰い殺されてしまう……なんて事を示唆された。
そしてどうやら彼女の肉体は現在、魔族としての力と人間としての力が反発し合っており、まともに魔法を行使出来ない状況だという。
魔族としての欲求を封印していた頃は、幾分かマシに魔法を使えていたそうなのだが、まぁ私の存在のせいでダメになった。
ルリンさんは自身がこの状態になってから、魔族としての力を消す研究を行っていたらしい。
でも研究は上手くいかず、最終的にゼロさんを使い、封印という形で終わらせたという。
今は軽い魔道具程度なら作ることも可能らしいが、また一から魔法の研究をするというのは不可能だと言っていた。
なら! 現状特にやることもない私が引き継いだって良いだろう……ということである。
…………あれ?
そうなると、この結界の維持は誰が行っているんだ?
それとも結界は別腹で、普通に行使出来るとか……?
「………………私の表に出てられる時間くらい、一緒に行動してくれても良いでしょ……」
そんなとても小さな呟きが、横から聞こえてくる。
私はその言葉が耳に届いた瞬間、自身のノートを壁に向かって、思いっきり放り投げた。
「いや、ほんっっとうにその通りですね。私が間違ってました」
少し考えれば分かることだけど、短い自由時間の中、私に会いに来てくれる彼女を蔑ろにしてはいけなかった。
これは反省……
「…………もう私なんか放っておいて、好きにすればいいよ。貴女が私の事を無視し続けてる間に、きっと衰弱死してるだろうし……」
ルリンは口を尖らせながら、指輪を指の上でくるくると転がしている。
ふてくされたように目をそらしているけれど、たまにこちらをちらっと見てくるのが、なんとも子供っぽい。
「そんな怒らないでくださいよぉ~。私が悪かったので、今すぐ一緒に料理しに行きましょう?」
「ふん!」
ルリンは勢いよくそっぽを向き、つんと顎を上げる。
今日は、やけに機嫌が悪い気がする。
魔法の勉強でルリンさんとの対話をすっぽかそうとしたのは、これが初めてのはずだけど……これってそんなに、琴線に触れるような事だったのだろうか?
「…………」
ルリンはしばらく沈黙したままこちらを見ていたが、やがてゆっくりと息を吐き、苛立ちを押し殺すようにして口を開いた。
「……貴女はまだ気づいてないみたいだけど、色々と矛盾してるの。見ててイライラするくらいにね」
「矛盾……ですか?」
「そう!……じゃあ聞くんだけど、フウカはここでずっと私と暮らしてくれるの?!」
ルリンさんは声を張り上げて問いかけてきた。
うん……
彼女とここで暮らす、か。
その答えは…………いや、なんでこの質問に迷う必要があるんだ。
「それは……無理です」
「そうだよね!?なら、また少し質問を変えるんだけど、フウカは家族の元に帰るつもりなんだよね??」
「はい、そうです……」
「……ねぇ、貴女は分かってないみたいだけど、魔道の探究ってそんな簡単じゃないの。フウカが私のために頑張ってくれてるのは、正直…………うれ……しい、けど!! 私から見れば99%無駄になるような事に貴女は取り組んでる!」
「…………はい」
「私からすれば、そんな無駄な事に時間を割くくらいなら、一緒にいて欲しいわけ!!!理解した?!」
ルリンさんはおそらくもう、それほど寿命は長くない。
寝る時間を増やし続けているのが、良い証拠だろう。
彼女が自分で言ったように、放っておけば衰弱死してしまう。
だからきっと、死ぬ前くらい私と一緒にいて欲しい、と言いたいのかもしれない。
今の私のポジションは、唯一話し相手になる事ができる、友達……だろうし……
「というかこれは命令!!これから私が死ぬまで、過度な魔法の勉強は禁止ね!それで今回の件は許してあげる」
「そ、それはやりすぎですよ!ルリンさん!!」
「……フウカはいったい誰のおかげで、いま生きてられてるの?」
「うっ……ルリンさんのおかげです……」
「だよね? なら私の言うことを聞くのが、どおりだと思うけど?」
「はい……その通りです」
…………この力関係、本当に友達だよね……?
まぁいいか、ルリンさんのこういう所には慣れてきた。
それに……きっと、死期を悟って焦ってるんだと思う。
「なら今すぐ行くよ。私だって料理を上手く出来るようになりたいんだから」
「はい。今日は何を作るか、悩みどころですね……」
私だってもちろん焦っている。
このままルリンさんが死んでしまえば、おそらくこの義肢が動かなくなって、連鎖的に共倒れとなってしまうだろう。
それにやっぱり、友達……には生きていて欲しい。
………………非人道的な方法、例え話ではあるけど、一つ方法がある。
食性を完全に理解しているわけではないが、魔族というのは人の血液に含まれる魔力と、その他色々を摂取して生きているらしい。
なら、私が迷宮に再び潜って、生きている人間を狩り、ルリンさんにそれを差し出し食べてもらう、というのは………………流石に無しか。
話が飛躍しすぎている上に、ルリンさんは人を食べたくなくて、こんな場所に引き篭もっていると言っていたし……
それに、こんな事を考えるなんて……私はどうかしている。
これではあの外道な研究者達と同じではないか。
「フウカ、急に立ち止まったりしないで。何やってるの?」
何も出来ない、どうしようもない。
救いの手は現れてくれず、ルリンさんにもこれ以上は止めるように言われる。
このどうしようもない袋小路……
「…………」
考える。
私はどうすれば良いか。
残り時間は少ない。
…………やっぱり合理性を突き詰めるなら、ルリンさんに人を……
「なに下を向いてるの?そんなんじゃ料理が出来ても、美味しくご飯を食べれないじゃない」
ルリンさんが私の顔を両手でそっと、けれど逃がさぬように強く挟み込む。
視線を落とそうとする私を、無理やり前へと向かせて。
「……すみません」
本当に気分屋で我儘な人だ。
私がどんな気持ちで現状と向き合ってるのか、1ミリも分かってくれていないし、理解する気もないのだろう。
「今は私だけ見て、私の事だけを考えて」
「……考えてますよ。これ以上ないくらい」
どれだけ思考を重ねても解決しないこと。
こんな事をやっていても仕方ない。
胸中が晴れないまま厨房へと向かった。
---
(Side:セイヤ)
「立ち止まるな!さっさと被検体1番の元に案内せんか!!」
「はい……すみません」
この最低な迷宮に戻ってきたのも、大体一年ぶりくらいか。
何ヶ月か前にアイツの生存反応が出たと報告があって、またここに戻ってくる事になったが、今回は糞研究員共が数人ついてくる事になってしまった。
「……モトオリは休憩しなくて平気か?」
「うん。大丈――」
「ふざけた事を抜かすんじゃない!」
「ひっ……」
「今の迷宮の状態はこちらも把握している。本来はお前達抜きでも行けるが、所長がどうしてもと言うから護衛させてやっているのだぞ!!」
「すみません。ではこのまま進みます」
なんで俺が謝っているのか。
何に対して謝らされているのか。
この世界に来てから不条理ばかりで、頭がおかしくなりそうだ。
『…………夜桜さん』
突然、頭の中に誰かの声が響いた。
これは本居の声か……?
『久しぶりの再会だから忘れてるかもだけど、私は念話が出来るからね。何か言うことがあればこっちで話して』
『あぁ、そんな能力もお前にあったな。いまだにその力が研究者達にバレてないのは助かるよ』
そういえば本居はこんな芸当が出来たな。
なんで忘れてたんだ。
少しばかり脳を弄られすぎて、忘れっぽくなってるかもしれない。
フウカは俺以上に最低な扱いを受けてたはずなのに、ケロッとしてるもんだからドン引きだ……全く。
「おい、20番!」
「は、はい!何でございましょうか。監視官様……」
「目的地はまだなのか!?」
一々そんな事を聞くために話し出すなと言いたい。
今はこいつらの使用する隷属刻印によって、強制的に動かされているのだから、大人しく黙ってついてこればいいのに……
「そ、そろそろだとおm――い、いやぁあああああ」
「――――――ッ?!?!」
突然、本居の奴が悲鳴をあげて蹲った。
『……どうした本居。いったい何があった?』
「い、いったい何だというのだ。状況を説明しろ!!」
俺は念話で、
監視官は突然叫び出した本居にたじろぎながら、状況を聞く。
「ま、まままままっ、魔族がみ、みみ見えましたっ……。い、今はフタガミさんと行動している模様です……」
「…………」
「何だそんなことか。私達を驚かせるな20番。1番と魔族が行動しているというのが不可解だが、まぁそれは良いだろう。こういう時のために被検体2番を連れてきたのだから、何も問題はない」
…………馬鹿が。
いくら本居といえど、現場で3年も戦ってきた俺達が、ただの魔族程度で声を上げるわけがないというのが分からないのか。
『どうした、本居。何が見えた?』
俺は冷静に本居に答えるよう促した。
『そ、その……私達が行く先に、双神さんもいるんだけど……すぐ近くに女の魔族がい、いて……』
『まずは落ちついて話せ。……それでどうした?』
『……そ、その魔族がとんでもなく強い魔力を持ってるの。多分……1人でこの世界の人達全員を、食い殺せるくらいに……』
この先にとんでもない魔族がいるという事か。
だとすると魔王か。
魔王だというのなら、一旦地上で態勢を立て直すべきだろうが……俺が学んだ内容が間違って無ければ、魔王は男だったはず。
……この事をこの馬鹿研究員に説明しても、適当にあしらわれるのがオチか……
『良いか、よく聞け。その魔族はフウカと一緒に行動しているんだな?』
『う、うん』
『なら、心配する事はない。人間に敵対しない善良な魔族なんだろう』
『……確かに……そうなのかな……』
善良な魔族なんて今まで出会った事もないが、こういうふざけた場所なら、そんな奇跡もあるのかもしれない。
「……全く、早く家に帰らせて欲しい」
「聞こえているぞ2番、無駄口を叩くな」
……フウカが1人で今の迷宮を抜け出せていない。
おそらく何か問題が起きているのだろう。
例えば魔族に操られてしまっている、とか。
最低最悪な状況だが、その場合は魔族&フウカvs俺達のガチバトルが始まる。
良い方向に話が進んだ場合を予想するなら、フウカは何かしらの大怪我でその場を動けず、人間に味方するその女魔族は、たまたま見つけたフウカを治す手段が無く、現状維持を続けている状態。
そんな奇跡みたいな状況なら、俺の能力で治せるが……望み薄だろう。
鬼が出るか蛇が出るか。
俺達は一歩ずつ、アイツのいるところまで向かった。
□
あとがきです
最後まで読んでもらえたようで嬉しいです。
続きもお楽しみください。
私はあの日以降、結局迷宮に潜ったりはしなかった。
勿論今でも、元の世界に戻りたいと思っている。
だけど……そうは言っても、彼女との生活を手放せずにいた。
「ルリンさんはもし、迷宮の外に出る事が出来たら、何がしたいですか?」
私は今、魔法の勉強に取り組んでいた。
隣では、つまらなそうにルリンさんが見守ってくれている。
「いきなり何馬鹿なこと聞いてるの?……ふざけた事言ってる暇があるなら、料理でも教えてくれない」
「それは後でお願いします」
こんな事をするのにも理由がある。
あの後ルリンさんは、自分の体の状況について説明してくれた。
まず、彼女の本体に会わないという選択は正解だったようだ。
出会うが最後、直に人間の匂い浴びたせいで欲求を制御出来なくなり、喰い殺されてしまう……なんて事を示唆された。
そしてどうやら彼女の肉体は現在、魔族としての力と人間としての力が反発し合っており、まともに魔法を行使出来ない状況だという。
魔族としての欲求を封印していた頃は、幾分かマシに魔法を使えていたそうなのだが、まぁ私の存在のせいでダメになった。
ルリンさんは自身がこの状態になってから、魔族としての力を消す研究を行っていたらしい。
でも研究は上手くいかず、最終的にゼロさんを使い、封印という形で終わらせたという。
今は軽い魔道具程度なら作ることも可能らしいが、また一から魔法の研究をするというのは不可能だと言っていた。
なら! 現状特にやることもない私が引き継いだって良いだろう……ということである。
…………あれ?
そうなると、この結界の維持は誰が行っているんだ?
それとも結界は別腹で、普通に行使出来るとか……?
「………………私の表に出てられる時間くらい、一緒に行動してくれても良いでしょ……」
そんなとても小さな呟きが、横から聞こえてくる。
私はその言葉が耳に届いた瞬間、自身のノートを壁に向かって、思いっきり放り投げた。
「いや、ほんっっとうにその通りですね。私が間違ってました」
少し考えれば分かることだけど、短い自由時間の中、私に会いに来てくれる彼女を蔑ろにしてはいけなかった。
これは反省……
「…………もう私なんか放っておいて、好きにすればいいよ。貴女が私の事を無視し続けてる間に、きっと衰弱死してるだろうし……」
ルリンは口を尖らせながら、指輪を指の上でくるくると転がしている。
ふてくされたように目をそらしているけれど、たまにこちらをちらっと見てくるのが、なんとも子供っぽい。
「そんな怒らないでくださいよぉ~。私が悪かったので、今すぐ一緒に料理しに行きましょう?」
「ふん!」
ルリンは勢いよくそっぽを向き、つんと顎を上げる。
今日は、やけに機嫌が悪い気がする。
魔法の勉強でルリンさんとの対話をすっぽかそうとしたのは、これが初めてのはずだけど……これってそんなに、琴線に触れるような事だったのだろうか?
「…………」
ルリンはしばらく沈黙したままこちらを見ていたが、やがてゆっくりと息を吐き、苛立ちを押し殺すようにして口を開いた。
「……貴女はまだ気づいてないみたいだけど、色々と矛盾してるの。見ててイライラするくらいにね」
「矛盾……ですか?」
「そう!……じゃあ聞くんだけど、フウカはここでずっと私と暮らしてくれるの?!」
ルリンさんは声を張り上げて問いかけてきた。
うん……
彼女とここで暮らす、か。
その答えは…………いや、なんでこの質問に迷う必要があるんだ。
「それは……無理です」
「そうだよね!?なら、また少し質問を変えるんだけど、フウカは家族の元に帰るつもりなんだよね??」
「はい、そうです……」
「……ねぇ、貴女は分かってないみたいだけど、魔道の探究ってそんな簡単じゃないの。フウカが私のために頑張ってくれてるのは、正直…………うれ……しい、けど!! 私から見れば99%無駄になるような事に貴女は取り組んでる!」
「…………はい」
「私からすれば、そんな無駄な事に時間を割くくらいなら、一緒にいて欲しいわけ!!!理解した?!」
ルリンさんはおそらくもう、それほど寿命は長くない。
寝る時間を増やし続けているのが、良い証拠だろう。
彼女が自分で言ったように、放っておけば衰弱死してしまう。
だからきっと、死ぬ前くらい私と一緒にいて欲しい、と言いたいのかもしれない。
今の私のポジションは、唯一話し相手になる事ができる、友達……だろうし……
「というかこれは命令!!これから私が死ぬまで、過度な魔法の勉強は禁止ね!それで今回の件は許してあげる」
「そ、それはやりすぎですよ!ルリンさん!!」
「……フウカはいったい誰のおかげで、いま生きてられてるの?」
「うっ……ルリンさんのおかげです……」
「だよね? なら私の言うことを聞くのが、どおりだと思うけど?」
「はい……その通りです」
…………この力関係、本当に友達だよね……?
まぁいいか、ルリンさんのこういう所には慣れてきた。
それに……きっと、死期を悟って焦ってるんだと思う。
「なら今すぐ行くよ。私だって料理を上手く出来るようになりたいんだから」
「はい。今日は何を作るか、悩みどころですね……」
私だってもちろん焦っている。
このままルリンさんが死んでしまえば、おそらくこの義肢が動かなくなって、連鎖的に共倒れとなってしまうだろう。
それにやっぱり、友達……には生きていて欲しい。
………………非人道的な方法、例え話ではあるけど、一つ方法がある。
食性を完全に理解しているわけではないが、魔族というのは人の血液に含まれる魔力と、その他色々を摂取して生きているらしい。
なら、私が迷宮に再び潜って、生きている人間を狩り、ルリンさんにそれを差し出し食べてもらう、というのは………………流石に無しか。
話が飛躍しすぎている上に、ルリンさんは人を食べたくなくて、こんな場所に引き篭もっていると言っていたし……
それに、こんな事を考えるなんて……私はどうかしている。
これではあの外道な研究者達と同じではないか。
「フウカ、急に立ち止まったりしないで。何やってるの?」
何も出来ない、どうしようもない。
救いの手は現れてくれず、ルリンさんにもこれ以上は止めるように言われる。
このどうしようもない袋小路……
「…………」
考える。
私はどうすれば良いか。
残り時間は少ない。
…………やっぱり合理性を突き詰めるなら、ルリンさんに人を……
「なに下を向いてるの?そんなんじゃ料理が出来ても、美味しくご飯を食べれないじゃない」
ルリンさんが私の顔を両手でそっと、けれど逃がさぬように強く挟み込む。
視線を落とそうとする私を、無理やり前へと向かせて。
「……すみません」
本当に気分屋で我儘な人だ。
私がどんな気持ちで現状と向き合ってるのか、1ミリも分かってくれていないし、理解する気もないのだろう。
「今は私だけ見て、私の事だけを考えて」
「……考えてますよ。これ以上ないくらい」
どれだけ思考を重ねても解決しないこと。
こんな事をやっていても仕方ない。
胸中が晴れないまま厨房へと向かった。
---
(Side:セイヤ)
「立ち止まるな!さっさと被検体1番の元に案内せんか!!」
「はい……すみません」
この最低な迷宮に戻ってきたのも、大体一年ぶりくらいか。
何ヶ月か前にアイツの生存反応が出たと報告があって、またここに戻ってくる事になったが、今回は糞研究員共が数人ついてくる事になってしまった。
「……モトオリは休憩しなくて平気か?」
「うん。大丈――」
「ふざけた事を抜かすんじゃない!」
「ひっ……」
「今の迷宮の状態はこちらも把握している。本来はお前達抜きでも行けるが、所長がどうしてもと言うから護衛させてやっているのだぞ!!」
「すみません。ではこのまま進みます」
なんで俺が謝っているのか。
何に対して謝らされているのか。
この世界に来てから不条理ばかりで、頭がおかしくなりそうだ。
『…………夜桜さん』
突然、頭の中に誰かの声が響いた。
これは本居の声か……?
『久しぶりの再会だから忘れてるかもだけど、私は念話が出来るからね。何か言うことがあればこっちで話して』
『あぁ、そんな能力もお前にあったな。いまだにその力が研究者達にバレてないのは助かるよ』
そういえば本居はこんな芸当が出来たな。
なんで忘れてたんだ。
少しばかり脳を弄られすぎて、忘れっぽくなってるかもしれない。
フウカは俺以上に最低な扱いを受けてたはずなのに、ケロッとしてるもんだからドン引きだ……全く。
「おい、20番!」
「は、はい!何でございましょうか。監視官様……」
「目的地はまだなのか!?」
一々そんな事を聞くために話し出すなと言いたい。
今はこいつらの使用する隷属刻印によって、強制的に動かされているのだから、大人しく黙ってついてこればいいのに……
「そ、そろそろだとおm――い、いやぁあああああ」
「――――――ッ?!?!」
突然、本居の奴が悲鳴をあげて蹲った。
『……どうした本居。いったい何があった?』
「い、いったい何だというのだ。状況を説明しろ!!」
俺は念話で、
監視官は突然叫び出した本居にたじろぎながら、状況を聞く。
「ま、まままままっ、魔族がみ、みみ見えましたっ……。い、今はフタガミさんと行動している模様です……」
「…………」
「何だそんなことか。私達を驚かせるな20番。1番と魔族が行動しているというのが不可解だが、まぁそれは良いだろう。こういう時のために被検体2番を連れてきたのだから、何も問題はない」
…………馬鹿が。
いくら本居といえど、現場で3年も戦ってきた俺達が、ただの魔族程度で声を上げるわけがないというのが分からないのか。
『どうした、本居。何が見えた?』
俺は冷静に本居に答えるよう促した。
『そ、その……私達が行く先に、双神さんもいるんだけど……すぐ近くに女の魔族がい、いて……』
『まずは落ちついて話せ。……それでどうした?』
『……そ、その魔族がとんでもなく強い魔力を持ってるの。多分……1人でこの世界の人達全員を、食い殺せるくらいに……』
この先にとんでもない魔族がいるという事か。
だとすると魔王か。
魔王だというのなら、一旦地上で態勢を立て直すべきだろうが……俺が学んだ内容が間違って無ければ、魔王は男だったはず。
……この事をこの馬鹿研究員に説明しても、適当にあしらわれるのがオチか……
『良いか、よく聞け。その魔族はフウカと一緒に行動しているんだな?』
『う、うん』
『なら、心配する事はない。人間に敵対しない善良な魔族なんだろう』
『……確かに……そうなのかな……』
善良な魔族なんて今まで出会った事もないが、こういうふざけた場所なら、そんな奇跡もあるのかもしれない。
「……全く、早く家に帰らせて欲しい」
「聞こえているぞ2番、無駄口を叩くな」
……フウカが1人で今の迷宮を抜け出せていない。
おそらく何か問題が起きているのだろう。
例えば魔族に操られてしまっている、とか。
最低最悪な状況だが、その場合は魔族&フウカvs俺達のガチバトルが始まる。
良い方向に話が進んだ場合を予想するなら、フウカは何かしらの大怪我でその場を動けず、人間に味方するその女魔族は、たまたま見つけたフウカを治す手段が無く、現状維持を続けている状態。
そんな奇跡みたいな状況なら、俺の能力で治せるが……望み薄だろう。
鬼が出るか蛇が出るか。
俺達は一歩ずつ、アイツのいるところまで向かった。
□
あとがきです
最後まで読んでもらえたようで嬉しいです。
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