終生飼育は原則ですから

被保護編 337年

337年10月9-1

　彼らは馬車ではなく馬でやってきた。護衛は一人だけだ。
　丁重に店の奥の部屋に通す。
「ベルナルド・グレス。歓迎に感謝する」
「ファリオン殿下に拙店にいらしていただけるとは光栄です」
「グレス、オーサーを紹介する」
　王太子側の人間とファリオン皇子が並んで立つとは。
　二人の間に緊張感はない。こんなことになっているとは思わなかった。

　噂の人物は噂通り、女か男か迷うところだ。だが女だろう。
　なかなか美しい。着飾れば身長も高いから映えそうだ。あの青い絹がいいだろう。

「グレス殿、お会いできてうれしいです」
　掌を上に向けて差し出している。手へのキスではなく握手を求めている。
　手は細く柔らかい。やはり女だ。

「もっと早くご挨拶に伺わなければいけないところを、こんなに遅くなってしまって申し訳ありません」
「とんでもない。私が伺うべきでした」
　腰かけてもらう。
「ですがファリオン殿下にお会いいただけるような身でもなく」
「私はオーサーの補佐だ。オーサーに会えばいい」
「いえ・・・補佐と言うより、恐れ多くも同僚のようと申し上げてもいいかどうか」
　第二王子は王太子に取り込まれたと見てもいいのか。