終生飼育は原則ですから

乃浦

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被保護編 338年

338年1月18-2

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「私はオーサーです。名前は?」
「レンツォーリ」
「姓? 名?」
「どちらでも。これしかない」
「・・・私も同じか。なぜ手加減した?」
「大賭けしないのが生き残るコツで」
 にやっと笑った。
「アンタは受身が上手過ぎてバレそうだった」

 サドではないと思う。殴っても蹴っても無表情だった。特殊な嗜好の人ならもっと気持ちよさそうに殴るのでは?
「生まれと育ちは?」
「ソファリスの北で生まれた。食えなくていろいろ移った」
「文字の読み書きは習った?」
「いや。読めるがろくに書けん」
「武術はどこで?」
「殴られてたから覚えた」
 実体験からか。それが一番確実だけど、よく無事だな。

「私のことは知っていますか?」
「ああ。噂と、痛みに強いことと、あきらめが悪いことはな」
 はははは。その通りだ。

「私に仕えませんか?」
「は?」
「と言ってもレンツォーリに選択権はないけどね。私の部下になるか死ぬか」
「・・・あんたどうかしてる。そんなに色変わるほど蹴った男を誘うな」
「だけど失敗したときも勧誘を期待して手加減したんでしょ」
「蹴った本人がするとは思わねえ」
「手加減に気づけるのは本人くらいだ。それくらい上手かった」
 話しているとそれなりに表情はある。口は悪いけど意思疎通はできるな。

「それでどうする?」
「あんたに仕える」
「わかった。あと断っておく。悪いけど、私はレンツォーリの命乞いで精一杯だった。給与条件は最悪だと思って。そしてものすごく居心地は悪いと思う。悪いね」
「充分だ。ありがとう、姫さん」
 は? 姫とはなんだ。

 しかし立っているのも限界だったので突っ込めず、先に部屋から出た。
 レイサスがすぐ後から来て抱き上げてくれる。いやぁ、ありがたいけど、今はとてもありがたいけど。
 レイサスの負担を減らすため、神妙に体を硬くして黙っている。
「満足か?」
「とても。ありがとう、連れてきてくれて」

 会うと言い張っても連れてきてもらわないと移動できない。馬車に運んでもらい、運転してもらい、さらに運んでまた戻してもらわないと。早く治さないと。
「早く戻って眠ろう」
 うん、疲れたからもう眠い。だけど眠ろうって、まだ一緒なんだろうか。
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