終生飼育は原則ですから

被保護編 338年

338年9月2-2

　将来的に、普通科は経営科、あるいは経済科にしたいと言う。

　十月の新学期が始まる前に、全ての教師を集めた会議があった。私も参加した学校の会議で、ともやは学校の将来像について発言した。
「初等教育は自分を生かすために学ぶ。高等教育は、自分以外の人間も生かすことを学ぶのが目的だと思います。自分以外を生かすとは、私はどうしても即物的に考えてしまいますが、まず金です。金がなくては自分も人も養えない」
「お金のための教育をするということですか」
　年配の女性教師が言った。

「ある意味ではそうです。例えば兵術科は教練よりも、実は戦術や教科学習を重要視しています。ある状況に陥った集団がまず考えるのは、状況の把握、そして兵站。緊張状態にあるときに考えるべきことは、双方の経済状態です。経済状態が国力であり、国力次第で取れる作戦も変わる。それを判断できる人間を、兵術科は育成しなければいけない。戦争前に、戦争の非経済性を認識できる人間を育ててほしい。金を直接的に稼ぐ方法を教えることはできません。その金を有効に利用する方法を学校内外で学んでほしい」

　私も口添えする。
「あるべき状況を把握しそれを利用、改善するのは人間誰しもやっている事だ。その時に最も重要な要因は経済だ」
「殿下のおっしゃる通りだと思います。ただ教育を経済性で判断するわけではなく、教育内容から経済性を除外するべきではないということです。軍も近衛も、戦闘目的の集団からは変化するでしょう。剣を振るだけの人間は、就職先がないのです。ただ剣を学ぶだけなら王都学校に通う必要はない。それより高い、深い、広い視点を与えるのが高等教育です」
　ともやが全体を見ながら言った。

　兵術科や師範科の教師には届いたようだが、普通科の教師達は他人事だと思っているようだ。
「貴族への教育もそうあるべきです。より、そうあるべきでした。なぜならすでに人の上に立つことが定められているから。単にダンス、社交、領地経営のための数字を学ぶだけでなく、自分の決断、行動、天候、社会情勢、そういったものがどう結びつきどう動くのか、大局を見られる人間を育てる責任がある。高等教育を与える学校ですから」
　普通科は教師を入れ替える必要がある。教師を変えなければ変わらない。

「オーサー殿の言われたことが、この学校の目指す方向である。広い視野を持つ生徒に育てるには、自らがより広く知っていなければならない。皆気概を持って仕事に当たってほしい」
　ハンクラスとの関係はいいようだ。任せられる。オーサーが少し楽になる。