終生飼育は原則ですから

乃浦

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被保護編 339年

339年1月4

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 オーサーは真剣に考えているし、かなり気持ちが傾いている。
「結婚する気になりましたか?」
「・・・少し時間を」
「返事は今、してください」
 余計な時間は与えない方がいい。彼女は言い訳を考える名人だから。
 そして何より、レイに知られればこの話は大反対される。だが反対された方が、彼女はその気になりやすいか。

 少し下を向いてオーサーは考えて、視線を上げて私を見た。
 駄目か。答えがわかった。
 彼女の口が開いたところで、キスをして口を塞いだ。

 彼女の体が後ずさる。レイの気持ちがわかった。
 首を押さえて強く当てる。
 唇を割ろうとしたときに、レイが入ってきた。

 氷のような硬い無表情。激怒している。オーサーは私と同じように怒るほど笑う。レイは表情がなくなる。
 唇と手を離すと、オーサーは勢いよく距離を取り、レイに気付いた。

 うろたえている。好きな男に見られたからか。違うだろう。
 レイがオーサーの二の腕をつかんだ。
「大丈夫か?」
 感心した。まずは私を殴ると思っていた。先に彼女を気遣えるとは。やはりレイにこそ彼女が必要か。
「大丈夫。全然なんともない」
 オーサーは聞かれたくないか。無かった事にしたいだろう。

 オーサーを自分の後ろに隠しながらレイが私を見た。私には見せたくもないらしい。
「なぜこんな事をした」
 自分にはできない事をか。やりたいけれどできない事をでしょうか。
 なぜか。理由は特にない。したくなった。だがそれではすまない。

「自覚してもらいたかったので」
 まだ表情がない。
「私では駄目だということを」
 少し眉が寄った。
「どういうことだ?」
「オーサーは考えすぎる方なので。頭で考えている分には誰が相手でも結婚できますが、実際は違う。それで、どうですか、六十代の紳士と結婚できますか?」
 レイが振り返って彼女を見た。彼女はさっきよりうろたえている。
「いやそれは話の綾で。それに結婚したところで向こうがその気になるかっていう」
 レイが彼女を抱き上げて部屋を出て行った。
 ようやくか。

 エランが私を見ていた。同情か共感か。
 レンツォーリも見ていた。彼は知っている。
 その視線を振り払い、自室へ行った。

 手にしていた。だが手に入ってはいなかった。
 時間があれば。
 もし彼女が承諾していたら、どうなっただろう。

 触れはした。だがそれだけだ。それ以上は、もうない。
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