終生飼育は原則ですから

被保護編 339年

339年3月5-2

　しかし私はレイサスを甘く見ていたというか、信頼しすぎていたというか、予想以上だった。

　レイサスは私の予定を細かく聞く。あの誘拐事件がトラウマのようだ。帰りが予定より遅くなると迎えを寄こすか迎えに来る。最近はさらにうるさい。
　今日も気づけば予定より遅くなっていた。

　夏祭りは学生に屋台を出させようと思う。やっぱり祭りは屋台。チョコバナナとかたこ焼き、は無理としても、何か自分たちで作って売る体験をしてほしい。
　そういう話をしていたせいで遅くなった。

　レイサスは自分で迎えに来たらしく、そして私を見つける前に休憩時間になってしまったらしく、隣の従者控え室にいたらしい。

　いきなり廊下の雰囲気が変わったなと思ったら、レイサスの声が聞こえて驚いた。
「自らを省みてから言いなさい。オーサーはそなたらより美しいし、私にこそ相応しい人だ」
　いやいや・・・頭を抱えたくなるね。
　私が気に入らないってことは、高い確率でレイサスが好きってことで、そりゃあ文句もつけたくなるでしょう。若い子たちの内輪の会話を粉砕するほど大人げがないってどうなんだ。そもそも間違ってないし。事実だと思うよ。

　どうしようかな。出て行った方がいいか、いなかったことにした方がいいか。
　いなかったことにしたかったけど、彼女たちが動けないみたいだから出ていくか。逃がしてやれよ。

　私がドアを開けると、みんなびっくりしていた。そうだよね。ごめん。
　レイサスはかなり怒っていたようだ。冷たい表情がとても美しい人だけど、かなり私の好きな顔だった。
「レイサス様、彼女たちは事実を言っていただけです。そんなにお怒りになることではありません」
　うわ眉間の皺が深いな。
「悪意に歪められた事実は事実ではない」
　まあいい。私に標的が移ったから、いなくなった方がいいよ。
「人は見たいものを見、聞きたいことを聞きます。それは本人にとっての事実です」
　彼女たちが言ったのは客観的事実だけどね。
　校舎の端の階段に移動しつつ話したいんだけど、レイサスが動かないから移動できない。