終生飼育は原則ですから

被保護編 339年

339年4月3

　ずいぶんと小柄で可愛らしい兄弟だった。
　クリスティアナは美しいといわれるタイプだが、皇女は間違いなく可愛いの方だ。
　十六歳だから皇子はもっと身長が伸びるかもしれないが、皇女はこのままだろう。

　兄上に手を取られて少し動揺していたが、挨拶は流麗だった。賢い皇女か。

　兄上は興味が無い。むしろ皇子の方を気にしていた。
　皇女は自分が相手をしなければいいが、皇子はオーサーに近付くかもしれない。少しでも接触を減らす為にここには呼ばなかった。

　皇女の事を、オーサーは気に入るだろう。
　オーサーは話が出来る人間、出来なくても自分の基準をしっかり持っている人間が好きだが、若さ、美しさにも価値を置く。
　若さと美しさは一過性で貴重だからだそうだ。
　若く、可愛らしく、賢い皇女を、オーサーは気に入るだろう。身分も吊り合う。兄上の相手として。

　オーサーが自分を除外して兄上の結婚にこだわる以外は穏やかな日々だったが、荒れそうだ。兄上とオーサーの間が。
　俺もそれに巻き込まれる。俺が一番オーサーといる時間が長い。

　皇女はオーサーを探していたようだ。イユリスに来たら、俺もまずオーサーに会いたい。

　街ではオーサーが来たら見せたいと、特別の商品を取っておく店主達がいる。オーサーに興味を持ってもらえれば商売の助力になるが、それよりもオーサーと話したいらしい。
　興味を持っていろいろ尋ねるオーサーに教えたいし、感心してほしいし、関連する事も話したい。

　またオーサーは神出鬼没だ。
　ふらっと行って、道に茣蓙を広げているような者とも話している。そういう者を誰かに紹介したり、別れた後レンツォーリに探らせたりもしている。
　オーサーを見ていると、人と直接会い、会話する事は、何よりも大切で難しい仕事なのだと思う。上に立つ者はそれが出来ないといけない。

　兄上は、さっさと結婚するべきだった。どうして承諾させられないのか。
　せめて婚約者にしておくべきだった。
　今オーサーには何の地位もない。ここを離れようとする時に、引き止める理由がない。

　時間がない。
　オーサーは兄上に皇女をあてがい、自分は消えるだろう。
　兄上はオーサーを独占し束縛しているが、結局何の鎖も掛けられていない。
　オーサーは猫のようだ。鎖を掛けても抜け出してしまう。