終生飼育は原則ですから

被保護編 339年

339年5月8-4

「責任を取るべきものはいますよ」
　皆オーサーに注目した。
「紛争を起こさせ、解決できなかった領主です。放置した無能こそ、ここまで皆さんを苦しめた原因です」
　ジェスティン伯爵がとても肩身が狭そうだ。だがその通り。

「そして、その領主を任命した国が最も悪い。領主を放置した国が、この八十年のわだかまりの責任を取るべきです」
　違いますかと全員を見ても異論は出ない。
　場の主導権を完全に握ったオーサーが続けた。

「ではこの度の工事の計画をご説明します」
　大きな地図をファリオン王子とコウセンが広げた。
「キヒテ川の水を利用するため、ここに製紙工場を作ります。製紙工場で水力として利用した後の水は農業用水として水路に放出します。現在の水路は閉鎖式にし、上に道路を整備します。現在の道路を利用する箇所、水路を生かす箇所、それは地形に合わせて考慮します。閉鎖式水路であれば損失が少なく管理がしやすい」

　工場ができ水路が整備されるという発表を、集まった者は喜び始めている。
「これは国の責任において実行します。皆さんの言い分はあるでしょうが、状況を悪化させたのは国ですので、国が直轄事業として行います」
　オーサーはにっこり笑った。

「ですので、みなさんが利用したい場合は、利用料を支払ってご使用ください」
　数秒静まり返り、そしてまた騒がしくなった。そして先ほどよりずっと素早く静かになった。

　左側に座る男性が手を上げた。
「どうぞ。発言される場合は名乗ってからお願いします」
「コパロのアミルです。利用料とはいくらぐらいですか？」
「現在はまだ考慮中です。申し込まれる人数、利用量の多寡、これからの工事にかかる費用によって決定します」

　違う人間が手を上げる。今のよりも若い男だ。
「コパロのマグリアです。いくらか教えてもらえないと、オレたちも生活があるから困ります」
「今たずねられても私も困ります。水路を使用する人数等は変わらないでしょうが、工事が何らかの理由で遅れれば費用がかさみますし、逆に早く終われば利用料は下げられます」

　その含みに、彼等は気がついた。
「では、われわれは明日出発します。何か質問等があればそのときにお聞きしますが、殿下方はお忙しい身、質問はまとめ、質問者はお一人にしてください」
　オーサーは席を立ち、レイサス様に促されて最初に部屋を出る。
　会場ではすでに話し合う声が聞こえる。フェロとコパロが話し合う。どちらが悪いではなく、どうするかという共通の目的の為に。

　完勝だ。