終生飼育は原則ですから

乃浦

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被保護編 339年

339年8月1

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 思えば、始まりは一人の男だった。

 ランリスの男がオーサーに助けを求めに来た。

 ジェスキヒテの仲裁、というより勢力の塗り替え、圧倒はコウジュ公主に強い印象を残したらしい。
 夏祭りの一件でも更に興味を持たせた。あの料理や人の動かし方、裏からの支え方は流石だった。オーサーがいたから、不慣れな生徒や教師達でも屋台を成功させられた。

 公主は兄上と対抗するほどにオーサーに近付こうとする。
 オーサーは公主とは楽しそうに話している。公主はソウシュウ皇叔のことをよく話し、オーサーも興味があるようだ。

 ジェスキヒテや夏祭りの晩で、兄上とオーサーの仲はわかっただろう。絶対に兄上はオーサーを離さない。
 だがオーサーがソウシュウ皇叔に興味を持ったらどうなるだろうか。
 兄上は離さないが、オーサーが自分以外の男を考えているだけで不快だろう。

 オーサーに面会を求める人間は多いが、ランリスからわざわざやってきたと聞いたオーサーが会う気になった。身元の知れない人間とは会わないでほしい。危険だ。

 男はまだ若いだろうにすでに老いている。痩せて汚れて疲れていた。
「オーサーです。ご用件はなんでしょうか」
「みんなを助けてください」

 ランリスの東南部の小さなヘラート村からやっと逃げてきたらしい。
 重税に喘ぐ中男は徴兵され、女子供は自分を売るしかない。雨によって浸水し被害も受けた。軍が駐留しているが何もせず、反対に徴発によってさらに苦しい。
 ランリスはヘラート村を潰そうとしているようだ。

 それはオーサーにもどうにもできない。
 国外に軍を出すわけには行かず、他国の軍に命令もできない。
 オーサーは救世主ではないんだ。

「残念ながら、私にはどうすることもできません」
「そんな、どうにかしてください。オレが逃げたことでみんなもっと大変な目にあっている。どうにかしないと」
 どうにもできない。駆け込むならランリス王宮にだ。オーサーはイユリスの人間だ。

「・・・私ができることが一つだけあります」
「なんですか!」
 何だ。何もできないだろうしやる必要はない。オーサーはすでに充分仕事を抱えている。

「新聞、雑誌の記者を紹介します。彼らがあなたの話に興味を持てば、取材し記事にするでしょう。その記事を読んだ読者が話題にするかもしれない。あなたたちの境遇に同情し、どうにかするべきだという世論がこの国や各国に広がれば、ランリスも放置できず、状況を改善する可能性がある」
 新聞社はオーサーが育てたようなものだ。それをこう使うのか。
 コウセン皇子に任せて部屋を出た。彼らを呼び出さなくては。
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