終生飼育は原則ですから

被保護編 339年

339年10月10-3

「何のために、誰を脅しているのか、わかっていらっしゃいますか？」
　腹が立ってきたんで笑える。
「そなたを手に入れる為に、そなたを脅している」
　わけがわからない。
「私の正室となり私を支えよ。そうすればソファリスは各国と協調し、共に発展するであろう」

　脅しですね。逆を言えば、戦争だ、か。
　言いたいことはわかるけどわからない。何で私？　ダンスの腹癒せ？　それともあれが楽しかった？
「私はイユリスのレイサス王太子の婚約者です。他国の皇族の妻にはなれません」
「ただの婚約者だ。破棄すれば良いだけだ」
　なるほどね。破棄ね。私も言ったな。

　ちょっと待て。落ち着いて考えてみよう。
　私がレイサスの妃になる必要はない。もともともっといい人を選んでほしいと思っていたし。
　私がイユリスにいる必要は、異世界云々がばれないためだ。それを言わないならいる必要はない。

　イユリスは、方向性が出来た。レイサスがいれば順調に発展するだろう。
　そして私がいなければ、順調に結婚し子供ができるだろう。

　ソファリスはソウシュウ次第だ。ソウシュウの考えで決まる。
　ソウシュウが戦争を起こすつもりなら起こせる。
　皇太子は第一皇子だけど、六十歳代の皇帝が死んだときどうなるか予想できない。
　そのときのための準備や根回しは、この国にいた方がしやすいし、情報も入る。

　ソウシュウに子供がいるか聞いたことがない。いない方がいい立場だ。後継者は、必要であれば養子を取ればいい。
　そういう情報、とにかく重要なのは情報。手に入れやすい位置だ。

「そなたの意見は聞く。正室以外の地位も与える。契約書だ」
　用意がいいな。
　テーブルの上に置かれた紙を読む。
　丞相監査か。地位としては丞相と同格。その名目だけの地位で人が動くかはともかく、高いことは高い。