終生飼育は原則ですから

被保護編 343年

343年8月5

　私は保護に失敗した。
　返せなかった。自分で飼うことになるのって、何かの思惑通りだなぁ。
　結局一生自分で飼う、っていうか一緒にいることになるのか。私はいい。最悪そのつもりで拾ったし。

　レイサスもいいのか。
　人の価値観って多様だ。レイサスのはどこかおかしいと思うけど、彼が幸せそうならいいか。その変さのおかげで私は救われた。

　うんざりするときもあるけど、一緒の空間にいられるとうれしいって、猫みたいじゃない？
　私は猫や犬や動物の面倒は嬉々として見るけど、人間とはいられないと思ってた。
　そんな風に思える人間もいたんだね。異世界に。

　これからレイサスが年をとっても大丈夫だと思う。
　いつの時点でも、きっと私は「何てきれいな人なんだろう」と思うだろう。そして自分と比較して落ち込むんだけど。

　まあいい。レイサスは私を必要としているし、必要としなくなっても、私はひとりで生きられる。
　結局は変わらない。私がしたことは無駄だった。あの嫌悪感とか、あの絶望とか、あの割けるような痛みとか、そういうのは無駄だった。

　まあいい。人生は無駄なことの積み重ねだ。ただ人に迷惑をかけたことが心苦しい。
　反省して、それを生かしていくしかないか。
　何かで貢献できればいいけど。

　まずは、一番迷惑をかけたレイサスには、たぶん同じ気持ちを返すと一番喜ぶ。
　彼は私が保護した人間だけど、私の飼い主だから、私を魅了する猫の真似をしようか。かわいらしくすり寄り、かと言って完全に依存するわけではない。
　いわゆるツンデレ？

　いやぁホラーだ。アラサー女のツンデレは病んでる。あの気ままさが許されるのは猫だけだ。人間は言葉で伝えないと。
<レイサスのことが好きだよ。一緒にいるとうれしい>