私の愛した彼はもう誰かのもの

ももな

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3話 秘密

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美咲はその日、朝から落ち着かない気持ちで仕事をしていた。数日前に涼介と食事をした時間が、頭の中で何度も繰り返されている。  
「また会いたいな……」  
無意識にそんなことを考えている自分に驚きながらも、どうしても抑えられない。彼と過ごしたあの穏やかで心地よい空気が忘れられなかった。

午後、編集部での会議が終わった後、美咲は同僚の麻里に話しかけられた。  
「最近、なんかいいことあった?顔がちょっと柔らかい感じするけど」  
麻里は観察力が鋭いタイプだ。適当に流すつもりでいた美咲は、つい笑いながら答えてしまった。  
「そんなことないよ。ただ、少し素敵な人に会ったのかも……」  
その言葉に麻里は目を輝かせた。  
「素敵な人!?それ、ちょっと詳しく教えてよ!」  
美咲は苦笑しながら、話を変えるように忙しそうに書類をまとめた。


その日の夜、美咲はまた涼介からの連絡を心待ちにしていた。そしてついに、彼からのメッセージが届く。  
**「また近いうちにお会いできませんか?」**  
その短い一文に、美咲の胸は高鳴った。躊躇しながらも、「はい」と返信し、待ち合わせの日時を決めた。

週末の昼下がり、二人は小さなカフェで再会した。美咲は、涼介の穏やかな笑顔を見るだけで、心が癒されるのを感じた。  
「お忙しい中、ありがとうございます。」  
「いいえ。中村さんと話していると、普段忘れてしまうような大切なことを思い出せる気がして……。」  
そんな風に話し始めた二人の会話は、自然と深いところまで進んでいった。

その中で、涼介はふと、家庭の話を口にした。  
「実は、うちの娘が最近絵を描き始めてね……。」  
「娘さん?」  
美咲はその言葉を聞いて、一瞬、時が止まったような感覚に陥った。娘、という言葉が、これまで涼介からは一切出てこなかった。いや、そもそも家庭の話は避けていたようにも思える。  

「……中村さん、既婚者なんですか?」  
美咲は、自分の口からその言葉が出るとは思っていなかった。だが、気づけば言葉が漏れていた。涼介は少し驚いたように、美咲を見つめた後、小さく頷いた。  
「はい。そうです。」  

その瞬間、美咲の胸に冷たいものが広がった。まるで今までの会話や触れ合いが全て嘘だったように感じられる。だが、涼介の瞳に偽りがあるようには見えなかった。


帰宅後、美咲は一人で部屋の中を歩き回っていた。  
「既婚者だった……どうして私は気づかなかったんだろう……。」  
彼が家庭を持つ人間だと知りながら、それでも惹かれてしまった自分を責める。罪悪感と戸惑いで頭がいっぱいになった。

それでも、涼介の優しい声や穏やかな微笑みが何度も浮かんでくる。そのたびに、「こんな自分は間違っている」と思いながらも、どこかで彼の言葉に救われたいという想いが消えない。

翌日、美咲は一日中、涼介の連絡を無視しようと決めた。だが、夜になり、ついに彼から電話がかかってきた。  
「少しだけ、話せませんか?」  
その一言に、またも心が揺れる。美咲はしばらく沈黙した後、静かに答えた。  
「わかりました……。」  

二人が選んだ場所は、夜の公園だった。人影の少ないベンチに座り、涼介は静かに語り始めた。  
「隠していてごめんなさい。でも、最初から言うべきだったのかもしれない……。だけど、どうしても美咲さんと話をしたくて……。」  
彼の声には、本心からの謝罪と迷いが滲んでいた。

「どうしてですか?」  
美咲は涙を堪えながら問いかけた。  
「どうして、私に近づいたんですか?私を傷つけることになるって、わかっていたはずですよね……。」  

涼介はしばらく言葉を探していたが、静かに答えた。  
「僕が間違っているのはわかってる。でも、美咲さんと話していると、救われたんです。僕にとって、美咲さんは特別なんです。」  

その言葉を聞いて、美咲はますます混乱した。特別と言われて嬉しい気持ちがどこかにある一方で、彼の妻や家庭の存在を考えると、心が苦しくなるばかりだった。


この夜、美咲は涼介との関係を断つべきだと考えた。だが、心のどこかで、それができない自分がいることを感じ取っていた。物語は、次第に禁断の愛へと深く進んでいく。
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