私の愛した彼はもう誰かのもの

7話 妻の存在

ある休日、美咲は涼介から誘われて、郊外のカフェで待ち合わせをしていた。いつもと変わらない穏やかな雰囲気で話をしていると、突然涼介のスマートフォンが鳴り出した。画面に「妻」という表示が見えた瞬間、美咲は息を呑んだ。

「ごめん、ちょっと……。」  
涼介は席を外し、電話に出た。その様子を見ながら、美咲は胸が締め付けられるような感覚を覚えた。彼が既婚者である事実が、今目の前で突きつけられている。  

涼介が戻ってきたとき、美咲は思わず問いかけた。  
「さっき……奥さんから？」  
涼介は一瞬だけためらったが、頷いた。  
「そうだよ。でも、大丈夫だから。」  

「本当に大丈夫なの？涼介さんが言うほど簡単なことじゃないでしょ……。」  
美咲の声は震えていた。彼の言葉を信じたいと思う反面、この関係がどこへ向かうのかが全く見えなくなっていた。

その数日後、美咲は街中で信じられない光景を目にする。偶然にも、涼介が妻と娘と一緒に買い物をしている姿だった。彼らは親子三人で楽しそうに話しながら歩いている。美咲はとっさに隠れ、その場を去ろうとしたが、足がすくんで動けなかった。

「あの人が……本当に私の知っている涼介さんなの？」  
その場で涙をこらえる美咲は、どうすることもできなかった。

その夜、美咲は涼介にメッセージを送った。  
**「今日はもう無理。少し時間がほしい。」**  
涼介からの返信はなかった。

美咲は一人部屋にこもり、彼との関係を振り返っていた。この関係が自分の心を支えていることは間違いない。しかし、それ以上に罪悪感と孤独が押し寄せてくる。

美咲は初めて、本気で「別れる」という選択肢を考え始めていた。しかし、涼介の言葉や表情が脳裏に浮かび、その決断を下すことができない。彼への想いと、道徳的な罪の意識。その間で揺れ続ける自分がいる。