私の愛した彼はもう誰かのもの

8話 選択の時

美咲は何日も悩んだ末に、涼介に会うことを決意した。自分の中で答えを出さなければ、何も前に進まない。そう思ったからだ。待ち合わせ場所に現れた涼介は、いつもと変わらない穏やかな笑顔だったが、その瞳の奥には不安が隠れているように見えた。

「久しぶりだね、美咲さん。」
涼介の声に、美咲は心が揺れた。だが、今日は迷うわけにはいかなかった。深呼吸をしてから切り出した。
「話したいことがあるの。」

二人は静かな公園のベンチに座り、美咲はゆっくりと言葉を選びながら話し始めた。
「私、このままじゃだめだと思うの。涼介さんの奥さんや娘さんのことを考えると……どうしても、この関係を続けることができない。」

涼介はしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「わかってる。でも……僕は本気で美咲さんを愛してる。君と出会ってから、やっと自分が生きている実感が湧いたんだ。」

その言葉に、美咲の胸は締め付けられた。彼の気持ちは嘘ではない。だが、自分が進むべき道がどこにあるのかを考えたとき、それが正しいとは思えなかった。
「それでも、私は涼介さんを幸せにできないと思う。奥さんや娘さんを裏切る形で築く幸せなんて、私には耐えられない……。」

涼介は深く息をつき、静かに呟いた。
「離婚するよ。」

その言葉に、美咲は息を呑んだ。突然すぎる提案に、何を言えばいいのかわからなかった。

その夜、美咲は家で一人、涼介の言葉を反芻していた。「離婚する」という彼の決意は本物だったのだろうか。それとも、一時的な感情に過ぎないのか。答えが出ないまま、夜が更けていった。