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ももな

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幽霊の住む部屋

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大学からの帰り道、家賃の安さだけで決めたアパート。築年数は40年を超えており、外壁は雨に打たれて黒ずみ、内装はどこかカビ臭い。それでも、学生の貧しい生活には十分だった。

しかし、その部屋に住み始めて一週間が経った頃、奇妙なことが起き始めた。

深夜、窓をコンコンと叩く音が聞こえるのだ。最初は風のせいかと思っていた。だが、どんなに風が強くても、音は決まって夜中の1時に始まり、10分ほどで消える。窓の外を確認しても誰もいない。三階に住む私の部屋に、人がよじ登れるはずがない。

その音に気付いてからというもの、夜になるのが怖くなった。友人に相談しても、「疲れてるんだろう」「勉強のしすぎだ」と笑われるばかり。仕方なく、音がしても耳を塞いでやり過ごすことにした。

しかし、ある日、音が変わった。

コンコン、と控えめだった音が、ガリガリ、と爪で引っ掻くような音に変わったのだ。窓を閉め切っているはずなのに、その音は部屋の中にいるかのようにはっきり聞こえる。私は布団を頭まで被り、震えながら音が止むのを待った。

次の日、大家に連絡を入れた。何かの動物か、いたずらではないかと思ったからだ。だが、大家は困惑した様子で首を振った。「そんなこと聞いたのはあんたが初めてだよ。何かあったらまた教えてくれ」と言われ、話は終わった。

その夜、私は意を決して窓に目を向けた。

窓の外は真っ暗だった。街灯も届かないほどの闇。だが、その闇の中に、何かがいた。窓にぴったりと張り付いたような白い顔。その目が私をじっと見つめている。人間のようだが、どこか違う。異様に細い首、歪んだ口元、そして――その目はどこか絶望に満ちていた。

私は悲鳴を上げ、電気をつけた。だが、電気が部屋を明るく照らした瞬間、その顔は消えていた。何だったのか。幻覚か。それとも本当に何かがいるのか。

次の日から、私はカーテンを閉めたままにした。それでも、音は消えなかった。カーテン越しに感じる視線が、私の神経を苛んでいく。

ある夜、私は決意した。このままでは頭がおかしくなる。だから、音が鳴り始めたらすぐにカーテンを開けてやろう、と。窓の外に何がいるのか確かめるために。

その夜も、例の音が響き始めた。ガリガリ、ガリガリ、と規則的に。私は息を詰め、カーテンに手をかけた。音が止まる気配はない。勇気を振り絞り、一気にカーテンを引いた。

だが、そこには何もなかった。ただの暗闇。そして、私の部屋の窓ガラスだけが、なぜか曇っていた。息を吹きかけたように。私はガラスをじっと見つめた。その時、曇ったガラスに何かが浮かび上がるのが見えた。

それは、手の跡だった。小さな手が、何度も窓を押したような跡。私の心臓が凍りついた。そんな痕跡がどうやってつくのか考えるのが恐ろしくなった。

だが、もっと恐ろしいことが起きた。

曇ったガラスに、何かが文字を書き始めたのだ。まるで透明な指でなぞるように、ゆっくりと。私は震える声で叫んだ。「誰だ! 何なんだ!」しかし答えはない。ただ、ガラスに現れた文字が目に焼き付いた。

「ここにいるよ」

私はその場から動けなかった。足が床に縫い付けられたように固まり、喉はカラカラに乾いていた。次に何が起きるのか考えるのが怖かった。

だが、その後、音も気配も消え、静寂が訪れた。私は震える体を引きずるようにして布団に潜り込み、一睡もできずに朝を迎えた。

それから数日後、私は部屋を引き払う決意をした。荷物をまとめ、不動産屋に連絡を入れる。もうこの部屋には耐えられない。

だが、引っ越しの前夜。最後の夜、あの音が戻ってきた。私は震えながら、音が止むのを待った。しかし、今回は違った。音は窓だけでなく、部屋の中からも聞こえ始めたのだ。

ガリガリ……。壁、床、天井から、無数の手が爪を立てるような音。それが次第に近づいてくる。そして、布団の端がゆっくりと引き剥がされる感触がした。

私は目を閉じ、声を殺して耐えた。何かが布団の中に滑り込んでくる。冷たく、湿った感触。それが私の耳元で囁いた。

「……まだ、いるよ……」

次の日、大家が私の部屋を訪ねたが、部屋には誰もいなかった。ただ、窓には無数の手の跡が残されていたという。
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