目覚めたら大好きなアニメの悪役令嬢でしたが、嫌われないようにしただけなのに全員から溺愛されています

月影みるく

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第23話 残された十二歳

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王立魔法学院への入学式が終わったその日。

 ノクティス公爵邸は、驚くほど静かだった。

(……こんなに、広かったっけ)

 いつもなら、
誰かの足音や声が聞こえていた廊下も、
今日はやけに遠く感じる。

 兄――ユリウスの部屋の前を通り過ぎる。

 扉は閉じられたまま。
 中から、気配はしない。

(……行っちゃったんだ)

 分かっていたことなのに、
胸の奥が、きゅっと縮んだ。

 レオンハルト王子も。
 エリオスも、セレスも、カイも、ノアも。

 私の世界を囲んでいた人たちは、
それぞれの場所へ進んでいった。

「ルクシア様」

 控えめな声に振り向くと、
侍女が静かに頭を下げている。

「お部屋へお戻りになりますか?」

「……ううん。少し、庭に出たい」

 一瞬、迷うような間があった。

「……かしこまりました。護衛を――」

「近くでいいよ」

 それでも、数歩後ろには気配がある。

(……やっぱり)

 中庭のベンチに腰掛け、
空を見上げる。

 雲ひとつない、青空。

 なのに、心は少し曇っていた。

(みんな、今ごろ何してるのかな)

 初めての教室。
 知らない生徒たち。
 魔法学院という、新しい世界。

 想像するたび、
胸の奥で、光が小さく揺れる。

 ――羨ましい。

 そんな感情を抱いてはいけないと、
自分に言い聞かせる。

(私は、特別だから)

 守られるべき存在。
 危険をはらんだ存在。

 だから、ここにいる。

 それでも。

「……ひとり、だな」

 小さく呟いたその瞬間。

 胸の奥が、ちくりと痛んだ。

 ――どくん。

 脈打つように、
魔力が反応する。

(……やめて)

 深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。

 最近、増えている。

 こういう、小さな違和感。

 感情が揺れるたび、
光とは違う“何か”が、
静かに目を覚ます。

 夜。

 自室で、一人食事をとる。

 豪華な料理も、
今日は味がよく分からなかった。

「……ちゃんと、食べないと」

 誰に言うでもなく、呟く。

 ベッドに横になり、
天井を見つめる。

(学院に行くまで……あと、四年)

 長い。
 けれど、短い。

 その間に、
私はもっと力を制御できるようにならなければならない。

 誰にも、迷惑をかけないように。
 誰も、傷つけないように。

 ――そう、思っていた。

 でも。

 暗闇の中で、
胸の奥が、再び小さく揺れた。

 光と、闇。

 ふたつの力が、
確かにそこにあることを主張している。

(……大丈夫)

 そう、自分に言い聞かせながら、
私は目を閉じた。

 まだ知らなかった。

 この静けさが、
嵐の前触れであることを。

 そして――
 “残された十二歳”という時間が、
決して穏やかなものではないことを。
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