30 / 39
第30話 譲れない距離
しおりを挟む
訓練場の空気が、明確に変わった。
ユリウス、レオンハルト、エリオス、セレス、カイ、ノア。
学院側の全員が、無言で一歩前に出る。
その視線は、ただ一人――リヒト・ヴァルツへと向けられていた。
「……専属指導?」
最初に口を開いたのは、ユリウスだった。
「突然現れて、王命だからって理由で、
俺の妹のそばに立ってるって言うのか」
声音は低く、はっきりと敵意を含んでいる。
レオンハルトも続く。
「ルクシアは、守られるべき存在だ。
あなたがどれだけ強くても、それは変わらない」
リヒトは、二人を静かに見返した。
「守るためには、理解が必要だ」
「理解?」
エリオスが一歩前へ。
「あなたは、どれほど彼女の力を把握している?」
その問いに、リヒトは即答した。
「光と闇、双方の魔力総量。
感情による変動率。
暴走の引き金となる条件も、把握している」
その瞬間、空気が凍る。
「……なに?」
カイが、息を呑んだ。
「それを知らずに“守る”と言うなら、
それはただの同情だ」
次の瞬間――
「……言わせておけば!」
ユリウスが地を蹴った。
「なら、証明しろ!」
同時に、レオンハルトが魔力を解放する。
光が走り、風が唸る。
(え、まって!?)
止める間もなかった。
「……仕方ない」
リヒトは、深く息を吸った。
――そして。
何も詠唱しないまま、魔力を展開した。
見えない壁。
それだけで、ユリウスとレオンハルトの動きが止まる。
「なっ……!?」
「身体が……!」
エリオスが即座に判断する。
「下がれ! これは制圧系――」
だが、その声すら途中で封じられた。
圧倒的な“差”。
攻撃ではない。
威圧でもない。
ただ、存在するだけで押さえつけられる力。
「……これが」
リヒトの声が、静かに響く。
「彼女の力を扱うということだ」
指を鳴らす。
次の瞬間、すべてが解けた。
誰も倒れていない。
傷もない。
だが――全員、理解してしまった。
(……勝てない)
沈黙の中、レオンハルトが一歩前へ出る。
「……あなたは、敵じゃない」
悔しそうに、けれどはっきりと。
「ルクシアを、導く覚悟があるんですね」
リヒトは、わずかに目を細めた。
「当然だ」
ユリウスは拳を握りしめ、歯を食いしばる。
「……気に入らない」
そう言ってから、顔を上げた。
「でも、認める。
あんたは……本物だ」
そして。
「だからこそ」
ユリウスは、はっきり言った。
「俺たちも、特訓に参加する」
「え?」
思わず声が出る。
レオンハルトが頷いた。
「ルクシアを一人にしない。
同じ場所で、同じ時間を過ごす」
セレスが笑う。
「守るなら、理解しないとね」
エリオスも静かに言った。
「彼女の未来に、置いていかれる気はない」
リヒトは、少し考えるように黙り――
「……いいだろう」
短く答えた。
「ただし、甘さは許さない」
その言葉に、全員が頷く。
私は、その光景を見つめながら胸がいっぱいになった。
(……一人じゃない)
守られて。
認められて。
それでも、前に進む。
こうして――
魔術大会へ向けた特訓は、
想像以上に賑やかで、
そして、確かなものになっていった。
ユリウス、レオンハルト、エリオス、セレス、カイ、ノア。
学院側の全員が、無言で一歩前に出る。
その視線は、ただ一人――リヒト・ヴァルツへと向けられていた。
「……専属指導?」
最初に口を開いたのは、ユリウスだった。
「突然現れて、王命だからって理由で、
俺の妹のそばに立ってるって言うのか」
声音は低く、はっきりと敵意を含んでいる。
レオンハルトも続く。
「ルクシアは、守られるべき存在だ。
あなたがどれだけ強くても、それは変わらない」
リヒトは、二人を静かに見返した。
「守るためには、理解が必要だ」
「理解?」
エリオスが一歩前へ。
「あなたは、どれほど彼女の力を把握している?」
その問いに、リヒトは即答した。
「光と闇、双方の魔力総量。
感情による変動率。
暴走の引き金となる条件も、把握している」
その瞬間、空気が凍る。
「……なに?」
カイが、息を呑んだ。
「それを知らずに“守る”と言うなら、
それはただの同情だ」
次の瞬間――
「……言わせておけば!」
ユリウスが地を蹴った。
「なら、証明しろ!」
同時に、レオンハルトが魔力を解放する。
光が走り、風が唸る。
(え、まって!?)
止める間もなかった。
「……仕方ない」
リヒトは、深く息を吸った。
――そして。
何も詠唱しないまま、魔力を展開した。
見えない壁。
それだけで、ユリウスとレオンハルトの動きが止まる。
「なっ……!?」
「身体が……!」
エリオスが即座に判断する。
「下がれ! これは制圧系――」
だが、その声すら途中で封じられた。
圧倒的な“差”。
攻撃ではない。
威圧でもない。
ただ、存在するだけで押さえつけられる力。
「……これが」
リヒトの声が、静かに響く。
「彼女の力を扱うということだ」
指を鳴らす。
次の瞬間、すべてが解けた。
誰も倒れていない。
傷もない。
だが――全員、理解してしまった。
(……勝てない)
沈黙の中、レオンハルトが一歩前へ出る。
「……あなたは、敵じゃない」
悔しそうに、けれどはっきりと。
「ルクシアを、導く覚悟があるんですね」
リヒトは、わずかに目を細めた。
「当然だ」
ユリウスは拳を握りしめ、歯を食いしばる。
「……気に入らない」
そう言ってから、顔を上げた。
「でも、認める。
あんたは……本物だ」
そして。
「だからこそ」
ユリウスは、はっきり言った。
「俺たちも、特訓に参加する」
「え?」
思わず声が出る。
レオンハルトが頷いた。
「ルクシアを一人にしない。
同じ場所で、同じ時間を過ごす」
セレスが笑う。
「守るなら、理解しないとね」
エリオスも静かに言った。
「彼女の未来に、置いていかれる気はない」
リヒトは、少し考えるように黙り――
「……いいだろう」
短く答えた。
「ただし、甘さは許さない」
その言葉に、全員が頷く。
私は、その光景を見つめながら胸がいっぱいになった。
(……一人じゃない)
守られて。
認められて。
それでも、前に進む。
こうして――
魔術大会へ向けた特訓は、
想像以上に賑やかで、
そして、確かなものになっていった。
40
あなたにおすすめの小説
ヒロイン不在だから悪役令嬢からお飾りの王妃になるのを決めたのに、誓いの場で登場とか聞いてないのですが!?
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
ヒロインがいない。
もう一度言おう。ヒロインがいない!!
乙女ゲーム《夢見と夜明け前の乙女》のヒロインのキャロル・ガードナーがいないのだ。その結果、王太子ブルーノ・フロレンス・フォード・ゴルウィンとの婚約は継続され、今日私は彼の婚約者から妻になるはずが……。まさかの式の最中に突撃。
※ざまぁ展開あり
『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』
放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。
「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」
身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。
冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。
「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」
得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。
これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。
【完結】人生2回目の少女は、年上騎士団長から逃げられない
櫻野くるみ
恋愛
伯爵家の長女、エミリアは前世の記憶を持つ転生者だった。
手のかからない赤ちゃんとして可愛がられたが、前世の記憶を活かし類稀なる才能を見せ、まわりを驚かせていた。
大人びた子供だと思われていた5歳の時、18歳の騎士ダニエルと出会う。
成り行きで、父の死を悔やんでいる彼を慰めてみたら、うっかり気に入られてしまったようで?
歳の差13歳、未来の騎士団長候補は執着と溺愛が凄かった!
出世するたびにアプローチを繰り返す一途なダニエルと、年齢差を理由に断り続けながらも離れられないエミリア。
騎士団副団長になり、団長までもう少しのところで訪れる愛の試練。乗り越えたダニエルは、いよいよエミリアと結ばれる?
5歳で出会ってからエミリアが年頃になり、逃げられないまま騎士団長のお嫁さんになるお話。
ハッピーエンドです。
完結しています。
小説家になろう様にも投稿していて、そちらでは少し修正しています。
記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない
おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。
どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに!
あれ、でも意外と悪くないかも!
断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。
※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
※他サイト様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる