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第27話 まだ名前のない感情
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夜の魔界城は、静かだった。
昼間の騒がしさが嘘みたいに、
廊下には足音ひとつ響かない。
セラフィナは、自室の窓辺に座り、
月明かりに照らされた庭を眺めていた。
「……結婚、とか」
ぽつりと、独り言が落ちる。
昼間、クロウから聞いた話。
各国の王子たちが、
自分との婚姻を考えているという話。
(そんな年じゃないのに)
ドレスも、舞踏会も、楽しかった。
みんな優しくて、綺麗で、すごい人たちだった。
でも――
(それと、結婚は別だよね)
机の上には、
今日つけていたネックレスと腕輪。
ノエルとアルトから贈られたもの。
きらきらしていて、綺麗で、
大切なものなのは、間違いない。
それでも。
胸の奥が、
しん…と静かだった。
* * *
「……起きておられましたか」
控えめな声。
振り返ると、
扉のそばにクロウ・フェルゼンが立っていた。
黒い騎士服。
いつもと同じ、変わらない姿。
「うん。眠れなくて」
セラフィナは、素直に答える。
「護衛が必要でしたら、お呼びください」
「大丈夫。クロウいるし」
その一言に、
クロウの肩が、わずかに揺れた。
「……光栄です」
セラフィナは、窓を指差す。
「ねえ、月きれい」
「はい。姫君に似ております」
「……それ、今口説いた?」
「いえ」
即答。
「事実を述べただけです」
「そっか」
くすっと笑う。
しばらく、二人で月を見る。
沈黙が、心地いい。
「……ねえ、クロウ」
「はい」
「クロウはさ」
少しだけ、言いにくそうに。
「結婚とか、考えたことある?」
一瞬。
本当に、一瞬だけ。
クロウの呼吸が止まった。
「……ございません」
「ほんと?」
「はい」
嘘ではない。
だが、全てでもない。
(考えたことがないのではない)
(考える必要が、なかっただけだ)
その言葉を、飲み込む。
セラフィナは、首をかしげる。
「ふーん」
「私は、全然わかんないや」
「好きって、どんな感じなんだろ」
その言葉に、
クロウの胸が、きしんだ。
「……姫君」
「なに?」
「無理に、知る必要はありません」
「そう?」
「はい」
低く、静かに。
「知りたいと思った時に、
自然と、分かるものです」
セラフィナは、少し考えてから頷く。
「……そっか」
そして、ふと笑う。
「クロウといると、落ち着く」
「……ありがとうございます」
「変なの」
「はい」
それでも、否定しない。
* * *
同じ夜。
人間界・王城。
ノエル・クラークとアルト・ヴォイドは、
静かな会議室にいた。
「……本気だな」
ノエルが、書簡を机に置く。
「どの国も」
アルトは、腕を組む。
「当たり前だ」
「誰だって、欲しくなる」
「……奪うつもりはない」
ノエルは、はっきり言う。
「でも」
アルトが、静かに続けた。
「譲る気もない」
二人は、同時に窓の外を見る。
遠くに見える月。
同じ月を、
今、彼女も見ているのだろうか。
* * *
魔界城。
セラフィナは、ベッドに横になった。
天蓋越しに、月明かりが差し込む。
(……なんか)
(みんな、前に進いてる気がする)
王子たち。
国。
父。
でも。
(私は、まだ)
視界の端に、
部屋の隅に立つクロウの影が映る。
そこにいるのが、当たり前で。
いなくなる想像が、できなくて。
胸が、少しだけ――
きゅっとした。
(……あれ)
この気持ちに、
まだ名前はない。
けれど。
確かに、そこに芽生え始めていた。
――静かな夜に。
誰にも気づかれないまま。
昼間の騒がしさが嘘みたいに、
廊下には足音ひとつ響かない。
セラフィナは、自室の窓辺に座り、
月明かりに照らされた庭を眺めていた。
「……結婚、とか」
ぽつりと、独り言が落ちる。
昼間、クロウから聞いた話。
各国の王子たちが、
自分との婚姻を考えているという話。
(そんな年じゃないのに)
ドレスも、舞踏会も、楽しかった。
みんな優しくて、綺麗で、すごい人たちだった。
でも――
(それと、結婚は別だよね)
机の上には、
今日つけていたネックレスと腕輪。
ノエルとアルトから贈られたもの。
きらきらしていて、綺麗で、
大切なものなのは、間違いない。
それでも。
胸の奥が、
しん…と静かだった。
* * *
「……起きておられましたか」
控えめな声。
振り返ると、
扉のそばにクロウ・フェルゼンが立っていた。
黒い騎士服。
いつもと同じ、変わらない姿。
「うん。眠れなくて」
セラフィナは、素直に答える。
「護衛が必要でしたら、お呼びください」
「大丈夫。クロウいるし」
その一言に、
クロウの肩が、わずかに揺れた。
「……光栄です」
セラフィナは、窓を指差す。
「ねえ、月きれい」
「はい。姫君に似ております」
「……それ、今口説いた?」
「いえ」
即答。
「事実を述べただけです」
「そっか」
くすっと笑う。
しばらく、二人で月を見る。
沈黙が、心地いい。
「……ねえ、クロウ」
「はい」
「クロウはさ」
少しだけ、言いにくそうに。
「結婚とか、考えたことある?」
一瞬。
本当に、一瞬だけ。
クロウの呼吸が止まった。
「……ございません」
「ほんと?」
「はい」
嘘ではない。
だが、全てでもない。
(考えたことがないのではない)
(考える必要が、なかっただけだ)
その言葉を、飲み込む。
セラフィナは、首をかしげる。
「ふーん」
「私は、全然わかんないや」
「好きって、どんな感じなんだろ」
その言葉に、
クロウの胸が、きしんだ。
「……姫君」
「なに?」
「無理に、知る必要はありません」
「そう?」
「はい」
低く、静かに。
「知りたいと思った時に、
自然と、分かるものです」
セラフィナは、少し考えてから頷く。
「……そっか」
そして、ふと笑う。
「クロウといると、落ち着く」
「……ありがとうございます」
「変なの」
「はい」
それでも、否定しない。
* * *
同じ夜。
人間界・王城。
ノエル・クラークとアルト・ヴォイドは、
静かな会議室にいた。
「……本気だな」
ノエルが、書簡を机に置く。
「どの国も」
アルトは、腕を組む。
「当たり前だ」
「誰だって、欲しくなる」
「……奪うつもりはない」
ノエルは、はっきり言う。
「でも」
アルトが、静かに続けた。
「譲る気もない」
二人は、同時に窓の外を見る。
遠くに見える月。
同じ月を、
今、彼女も見ているのだろうか。
* * *
魔界城。
セラフィナは、ベッドに横になった。
天蓋越しに、月明かりが差し込む。
(……なんか)
(みんな、前に進いてる気がする)
王子たち。
国。
父。
でも。
(私は、まだ)
視界の端に、
部屋の隅に立つクロウの影が映る。
そこにいるのが、当たり前で。
いなくなる想像が、できなくて。
胸が、少しだけ――
きゅっとした。
(……あれ)
この気持ちに、
まだ名前はない。
けれど。
確かに、そこに芽生え始めていた。
――静かな夜に。
誰にも気づかれないまま。
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