刑事ジャガー 特異犯罪捜査室

自由言論社

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第3話 期待の新人

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「応援要請に応え、桜坂署刑事課よりまいりました、白石颯汰巡査長であります。よろしくお願いいたします!」
 ピッと姿勢正しく敬礼すると、室内から拍手がわき起こった。
 ここは本庁舎7階にある特異犯罪捜査室の執務室だ。
 白石颯汰の正面には室長の田所孝志たどころ・たかし警部が陣取り、オフィス全体を見渡せるような配置になっている。

「よろしくな」
 ぽん、と後ろから颯汰の肩をたたいたのは鏑木豹吾巡査部長だ。この人物が彼を気に入り、期限付きだが、この捜査室に引っ張ってきたのだ。
「ここの連中は田所室長はじめ、堅苦しいのが苦手なんだ。そうですよね、室長」
 豹吾が田所に同意を求める。
「いや、これがフツーなんだ。おまえに足りないのは刑事らしさだよ。白石くんを見習え」
 室長が説教モードに入りそうな気配を見越してか、豹吾がそのまま颯汰の肩に腕をまわすと——
「ではこれから、この期待の新人に捜査室のレクチャーをしますので」
 強引に隣室へと引きずってゆく。


「ここが捜査室の心臓部、CICだ」
 CICとは中央情報指令室の略で10人ほどのオペレーターが都内の防犯カメラの映像をチェック、分析している。
「コンサヨおじさんの足取りや目撃情報などをカメラ映像だけではなく、WEB掲示板やSNSからも拾っている」
 豹吾がオペレーターの一人に声をかけたが、まだ有力な情報は入ってきてないようだ。
「邪魔しちゃ悪いから、会議室へいこう」
 声をかけられたオペレーターがいかにもうるさげな顔をしたので、さすがの豹吾も空気を読んで退散の構えになる。


 同階、小会議室。
 豹吾はパソコンにプロジェクターをつなぐとコンサヨおじさんの映像をスクリーンに映し出した。
「ファイルNo.Jー2034。通称コンサヨおじさん。本名は金山滝次かなやま・たきじ。経歴、年齢、一切不明。この金山という名前だが背乗りによって戸籍を買った疑いがある」
「つまり、なにもわかってないということですか?」
「その通りだ」
「こんなやつが都内に潜伏していたなんて……」
 颯汰がいまいましげに顔をしかめる。
「潜伏しているのは、こいつだけではない」
 豹吾が別の映像に切り替えた。
 今度は画面にガスマスクを面着した人物が映し出される。
「なんですか、これ?」
 当然の疑問を颯汰は口にする。ガスマスクの下は黒い潜水服のようなものを着込み、体格はがっしりとしていて鍛えあげられたダイバーのようだ。

「ファイルNo.Dー0013。通称マッドガッサー。1933年アメリカバージニア州の住宅街にて有毒ガスを撒き散らしたといわれる人物だ。晴海埠頭の倉庫街の防犯カメラに何度も映り込み異臭騒ぎを起こしている」
「1933年? じゃあ、こいつはいま何歳なんですか?!」
「まあ、余裕で百歳超えてるか……。見た目は1933年時のマッドガッサーに似ているが、同一人物の可能性はないだろう。
 おそらくは模倣犯。マッドガッサーの目撃事例はバージニア州だけではなくイリノイ州でも散見され、国境を越えて中南米、ヨーロッパ東部にも及んでいる」
「そして、時を超えてこの日本にも現れた……」
 颯汰が思わず身震いする。こんなワールドワイドな殺人鬼など聞いたことがない。
「まだまだ、いるぞ」
 豹吾が次の映像に切り替えた。
「えっ?!」
 颯汰が素っ頓狂な声をあげた。
 そこに映っていたのはなんと……
 紛うことなきゴリラであった。



       第4話につづく
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