刑事ジャガー 特異犯罪捜査室

自由言論社

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第5話 レッドジャガー&ハウンドドッグ

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 警視庁本庁舎の地下駐車場から真っ赤な獣が飛び出てきた。
 鏑木豹吾の愛車ジャガーXE RーDYNAMIC  HSE P300である。
 ステアリングを握るのは、もちろん豹吾本人だ。
 ジャガーは英国車なので日本と同じ右ハンドルだ。左隣の助手席には颯汰がおさまり、車内をもの珍しそうに見渡している。

「いいクルマですね。足さばきも軽快だし乗り味も心地いい」
「やらねえよ」
 颯汰のほめ言葉に乗ってくるかと思いきや、豹吾はむすっとなってこたえる。どうやら仕事以外では、助手席にはだれも乗せたくないタイプのようだ。
「だれも欲しいとはいってませんよ。このクルマ、維持費だけでも大変そうだ。それに……」
 ジャガーXEは首都高速1号線に乗り、左手に海を臨みながら走っている。このまままっすぐ南へ下れば事件現場である蒲田へ到着だ。
「それに……なんだ?」
「こんな真っ赤っかな高級車、目立ってしょうがない。尾行には向かないでしょう」
 しばし言い淀んだが、颯汰は思ったことを口にした。
「まだまだ、甘いな」
 フッと口の端に笑みを浮かべて豹吾がいった。
「え?」
「リアにおまえへのプレゼントが置いてある。遠慮せず受け取れ」
 豹吾が話題を変えるかのようにリアシートを親指で指した。

「プレゼント?」
 確かに再生紙を利用した茶色い紙袋が置いてある。
 颯汰は背と手を伸ばしてそれをつかみ取ると、中身を開けた。
「スニーカー?!」
 なかに入っていたのは新品のスニーカーだ。メッシュ素材の軽量加工になっている。
「その革靴じゃ走りづらいだろ」
「そういえば初対面のとき、ぼくに靴を脱がして靴底の裏を見てましたよね。あれは……」
「靴底の裏面の減り具合を見たんだ。おまえはきれいに均一だった。日頃から体幹を鍛えている証拠だ」
「それで……」
 ここにきて颯汰はやっと合点がいった。鏑木豹吾が自分を特異犯罪捜査室に期限付きで引っ張ってきたのは走れる体であることを見抜いたからだ。
 そこまで思い至って颯汰は恐ろしいことに気づいた。
「え? いや、待ってください。ぼくは——」
「ピンポーン!」
 しまいまでいい終わらぬうちに豹吾が正解のチャイムを鳴らす。
「おまえにはその足で走って犯人を追いかけてもらう」
「ええーーっ?!」
 颯汰は思わず『聞いてないよ』という古いギャグをぶつけそうになった。自分は体を張った肉体労働要員として呼ばれたに過ぎないのか?

 ジャガーXEが首都高速1号線を降り、鈴ヶ森ジャンクションから一般道に入ってゆく。事件現場はもう目と鼻の先だ。
「この目立つジャガーで追跡したら犯人は必ず狭い路地を逃走してゆく。そこでおまえの出番だ」
「……てことは、ぼくは徒走かちばしりの人足で、鏑木さんはこのジャガーで先回りしてゆうゆう逮捕という段取りですか」
「呑み込みがいいじゃないか。おまえは猟犬——ハウンドドッグだよ」
「カッコいい言葉で誤魔化されませんよ。じゃあ、鏑木さんはなんなんですか?」
 狩り犬として用いられようとは思ってもみなかった。いささか気分を害して颯汰はいった。
「おれか? おれは……」
 そこで豹吾はぐいとアクセルを踏み込んだ。
「おれはジャガーだっ‼️」




       第6話につづく
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