空手激闘録 ナイハンチャー烈

自由言論社

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第一話 見知らぬオジサン

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 そのひとは公園にいた。
 ぼくの地元、玄葉台げんばだい公園の自由広場という場所の片隅で、踊りを踊っていた。
 いや、それは踊りではない。
 空手の”型”というやつだ。
 その演武のカッコよさにぼくの目は惹きつけられてしまった。
 そのひと自身がカッコイイわけでも型演武が見事でもない。
 型そのものがカッコいいのだ。
 時折、平手で肘をパンと音をたてて討ち据える姿にぼくは魅了され……
 気づくと吸い寄せられるようにそのひとに近づいていった。

「それはなんですか?」

 普段のぼくは知らないひとに不用意に話しかけるようなことはしない。でも、このときばかりは別だった。ぼく自身が抱えている問題もあり、訊かざるを得なかった。
「ナイハンチだよ」
 そのひとは穏やかな笑みをたたえて答えてくれた。
 間近でみると、けっこうなとしのオジサンだ。精力みなぎるというよりかは人生に疲れ、くたびれた感じがする。
「ナイハンチ?」
 ぼくは訊き返した。
「沖縄空手の型のひとつさ。沖縄空手はナイハンチにはじまり、ナイハンチに終わるといわれている」
「それをやると強くなれますか?」
 単刀直入に訊いた。少しストレート過ぎると思わないでもなかったけど、前述したとおり、ぼくは切実な問題をかかえていたので、回りくどい言い方はできなかった。
「うーーーーーん」
 オジサンはしばし考え込むと、
「きみはだれかにイジメられているのか?」
 逆に訊き返してきた。
 しょうがない。ここは正直に事情を語るしかない。
「ぼくじゃありません。実は隣のクラスにいるぼくの幼馴染みが……」
 幼馴染みといっても、よくアニメにでてくるような黒髪ツインテールの美少女ではない。保育園のころから近所付き合いをしていた同性の友達だ。
 ぼくが引っ越しして、距離的に離れてしまったのをきっかけに疎遠になったけど、同じ中学に進学したことはお互いわかっていた。
 でも、ぼくは彼に話しかけられなかった。
 そいつは、その友達は、たちの悪い不良グループに目をつけられイジメを受けていたからだ。
 なんとかしてあげたいとは思っているけども、ぼくは痩せっぽちで背も低く、腕力には自信がない。だから見て見ぬふりをするしかなかった。
 そしてそんな卑怯で情けない自分がたまらなく嫌だった。
 だからぼくは、見も知らぬオジサンに向かって唐突でブシツケな質問を発してしまった。
 オジサンはぼくの事情を聞くと、長い、長い間をためていった。

「空手で強くなるのは腕力じゃなくて精神こころだよ」


    第二話につづく
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