逍遙の殺人鬼

こあら

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私は冷たい風に煽られて、ベンチから立ち上がった
そのまま目の前にある手すりに近づき、夜の静けさを味わっている

都会の景色を隠すように植えられた木々によって、まるで童話の世界に入り込んだようにさせる
お城とは言い難いものの、日常からかけ離れた豪華な会場に加え、身に纏ったドレス
ヒロインとまではいかなくとも、そこそこの見栄えに見える

(モブキャラ5ぐらいにはなれるだろうな)

ふとベランダの下を見ると、透さんが見えた気がして手すりをお腹につけて下を覗き込んだ
歩いているその姿と仮面をつけていないその顔は、まさしく透さんだった









透さんを呼んでみようとすると「ちさちゃん!」と叫ぶ声にびっくりした
その声の主は臼田うすたさんで、走って駆け寄って来る
身を乗り出す私の身体を手すりから離すと、両肩を掴んでは呆気にとられる私に叫んだ

「死のうとなんてするな!」

「…、そんなこと、してません。」

「君が死んだら僕は…」

いや、だから死のうとなんてしてませんって
ちゃんと話聞いてた?

動かさないように肩を掴む手をずらして、腕の中に閉じ込められる
今までの優しい口調とは違ったそれに、私はどうして良いのか分からない

「透さんが見えたので、呼び掛けようとしただけです。」

「…僕に怒ったからじゃ、ない?」

「…違います」

怒るたびに死のうとしていたら、とっくに私はこの世にはいないだろう
そもそも、存在した証拠はないのだとしたら、最初からいないのかもしれないが
抱きしめるのを止めると「…ごめん」と謝ってくる

「いくらでも罵って良い、殴ってくれて構わないから死んだり…しないでくれ」

だから、死のうとしてないってば
何度言えばわかるのか

そんな物分かりの悪い臼田うすたさんのほっぺをつねった
少し痛そうにこちらを見る彼に、これで許しますと言ってつねった手を離しす
頬に赤みが残ったが、これくらい許されるだろう
そう思って離れようとする私の頬を捕まえては「本当に?」と訪ねてくる

「…はい。私のためを思ってのことなら、仕方ありません…」

「でも、結局最悪な形で君を悲しませた。ごめん…」

「もう良いです。ジャンさんの所に戻りましょう」

そう言って、彼の手を取った
私が離したんだ、今度は私から繋いだ
その手を握り返して、私と臼田うすたさんは会場に戻った

「ちさちゃん、仮面」

「っあ、そうだった…」

慌てて仮面を着け直し、会場を進む
臼田うすたさんにリードされ、ジャンさんたちはすぐに見つけ出すことができた
ジャンさんは瑞貴さんと話していて、隣には彼女さんも居た

そんなジャンさんと瑞貴さんは私に気づき、会話を一時停止する
彼女さんも私に気づき、『もう大丈夫?』と心配そうに駆け寄って来た

『ごめんなさい。ミズキのせいで、嫌な思いさせて…』

『瑞貴さんのせいじゃないです!大丈夫ですよ。』

彼女を落ち着かせると「ちさちゃん英語話せるの?」と臼田うすたさんに驚かれた
少しと答えると、瑞貴さんに声をかけられる

「ちょうど良かった。あんたの話をしていたんだ。」

「私のですか?何の、」

話ですか?と聞こうとするも、ジャンさんのため息によって遮られる
仮面越しにでも分かるその嫌そうな表情に、聞くのを躊躇った
が、そんなことお構いなく臼田うすたさんが代わりに聞いてくれる

「どんな話?」

「”情報が欲しけりゃ、依頼を受けろ”とよ。良いご身分だな」

「何事もただは無い、そうだろ?それに簡単な依頼じゃないか。」

「なら依頼受ければ?」と臼田うすたさんが言うと、ジャンさんが気怠げそうに私を指さした
それに、っえ?と反応を見せる私は、きっと間抜け面をしているに違いない
仮面があって良かった

「あんたと一緒にやれって」

「ちさちゃんを?」

「大丈夫、簡単なことさ。」

「こいつじゃなくても良いだろ。別の女をおとりに、」

「オレはできるだけ少数でやってもらいたいんだ。君らだけでやってくれ。」

そう言い放つと、瑞貴さんは私の方を向いて不敵な笑みを見せた
その理由は、私には分からなかった
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