逍遙の殺人鬼

こあら

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部屋に着いた私はベッドにダイブした
通訳の人と話している間、悟られないように必死に痛みに耐えて作り笑顔で接待した
そう長くない時間だったけど、手当された背中はまだ痛くって早く静かにじっとしていたいと思っていた

硬いベッドはギシィ…と音を立てては、私の重さの分だけへこんだ
夜までご飯を食べることが許されていない私はエネルギーを使わないように、省エネモードに切り替えて動くことをやめた

(ちゃんと見ないように目隠ししたのに…)

私は精一杯したつもりだったのに、その努力も虚しく否定されては罰せられた
どうして…だなんて考えていれば、それだけでもエネルギーを使っているような気がしてやめた









夕餉ゆうげの時間まであと5時間以上ある
その間、私は自由だ
そう………自由と言う名の、孤独な時間である

私が教会ここに来て嬉しかったことがもう一つある
シスターシオリやギュウ君と会えたことは嬉しかったけど、それよりも国宝級と言っても過言じゃない程の、素晴らしい図書室があることだ

教会ここには古い書物がたくさん納められていて、あらゆる古代の知識や歴史本が所狭しと並んでいた
はしごがなければ届かないレベルの高さで、それを見た私は感激で言葉が出なかった
私は読み耽った
沢山働いて、沢山読んだ
ギュウ君に少し引かれ「本の虫だな。」と苦笑いされたけど、全然嫌じゃなかった
だってその通りだから

「"寂しかっただろ"…"苦しかっただろ、誰かに打ち明けたかったっただろ。"」

数ある本を読み進めていった先に辿り着いたのは、所々革が剥がれ味の出た深みのある1冊の本だった
背表紙にも表紙にも何も書かれていない、青墨色のA5サイズほどの本だった
興味本位で中を見た
開いてみれば、それは今まで私が読んでいたものとは違っていた

本と言えば、普通は紙が綺麗に何枚も何枚も製本されて出来ているものだ
だけどこの本は違った
本と言うよりバインダーと言ったほうが正しいのかも知れない
何通もの手紙のフラップ部分を重ねて製本されたようなものに思える
それを大切に保管しているようだった
その数は結構なもので、量的に考えたら本丸々1冊分相当はあるとみた

こんな手紙の保管は初めてだし、斬新なものだった
それよりも気になったのが、メモ程度に書かれた最初の1ページ
他は全部手紙として封筒が組まれていたが、1枚だけ普通の紙があった
そこには万年筆で書かれたと思われる文字があって、"最愛の君に、私の心を"と綴ってあった
悪い事と分かってはいたけど、最初の手紙を私は読んでしまった

--------------------------

あなたが髪を整えて珍しく眼鏡なんかちゃんと拭いて、片手には花なんか持ったりして全然らしくなかったわ。それどころか、可笑しくて笑ってしまったわ。
私に顔を真っ赤にして出掛けましょうと言った時、正直変な人だと思ったし、面倒くさいと思ったの。だって全然タイプじゃ無かったし知らない人だったし、私の家では色々と問題があって忙しかったところだったから。そんなタイミングで私を誘うなんて、本当に図々しいって思ってた。
あなたがリードしようとしてくれたけど、全部不発に終わってたわね。本当に馬鹿だわ。

--------------------------

そんな内容だった
正直言って、この人をデートに誘った人を完全に侮辱していると思ったし、酷い人だと思った
これ以上は…と思ったけど、と言うメモを思い出して2枚目の手紙に手を伸ばした

--------------------------

君に見惚れていた僕は、きっと凄く馬鹿みたいな顔をしていたと思うよ。だって君が女神様みたいに美しくて薔薇のように気高く、猫のように可憐だったからだよ。
こんな僕には勿体無い程君は輝いていて圧倒されていたんだ。
灰色だらけの僕の世界に色を付けるみたいで、目が離せなかったんだ。だから頑張ってアプローチしたつもりだったんだけど、恥ずかしい程に失態を犯してばかりで君は呆れていたね。知らなかったんだ。
君の横を歩くのがこんなに心臓の鼓動を速くさせるなんて、君と向き合って座るとこんなにも高鳴るなんて知らなかったんだよ。
次はもっと上手にやるよ。君の笑顔がもっと見たいから。

--------------------------

そんな返事を綴っていた
これを読んだ瞬間、この人がどれほど相手の人を想っているのかを考えさせられた
あんなにメッタメタに書かれていたのに、まるで気にしないみたいに、相手を丸ごと受け入れていた

それからこの本を自室に持ち帰っては、毎日のように読み進めている
恋愛小説は苦手だったけど、これはまた違った感じのもので興味をそそられた
誰のやり取りかは知らない
お互い差出人も宛名も書かずに進めていたからだ
それが余計に私を煽った
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