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第1章

第二十六話 「ウルフ一郎さんのその後」

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……腹減った……。
……ネルに……ネルになにか、食べさせないとな……。
俺様はゆっくり、立ち上がった。
ネル……?ネル!どこにいるんだ?ネル!
ネル……ネルーっ!

「兄貴!どうしたんですか?」

ウ、ウルフ次郎!
ネルに……ネルにご飯をやんねぇと……。

「ネルさんはここにはいません!」

うそつけ!
ネルの声が聞こえたんだ!

「兄貴!最近、おかしいですよ!さぁ、お部屋に戻ってくださいっ!」

いやだ!離せーっ!

「どうしたんだい。また、大暴れして。」

「母ちゃん!兄貴がおかしいんだよぉ!ネルさんの声が聞こえるって言ってぇ!」

「えぇっ!?ネル様の美しい声が、聞こえたのか!?「ウルフ三郎様♡あたしと結婚してください♡」って!」

「ちげーよ。」

「……ネルぅ……。」

母ちゃんは、そんな俺様の前にしゃがんだ。

「ウルフ一郎、もうあの女のことは忘れなさい。母ちゃんがいい女を紹介するから。」

いやだいやだいやだぁ!
ネ……ネ……ネルぅ~。
また髪の毛をさわりたい……また美しい名前を呼び続けたい……またやわらかい唇にキスがしたい。

「……兄貴……。」

「……精神科医を呼ぶとするか。」


                                       ☆


「……ネル……。」

「『ウルフ一郎、どうしたんだ?そんな顔をして。』」

「『……元気がないんだよ。あっち行け。』」

「『やだ!』」

「『ネル!』」

「『あたしは……あたしは、お前の味方だから、ずーっと、そばにいる!だってあたしは、お前の彼女だから!』」

「『ネル……。』」

「『ウルフ一郎……。』」

チュッ……。
カチッ……。

「『フー。』」

「『またたばこを吸ってぇ!これで何本目だ。』」

「『ん?6本目だ。』」

「『もうやめろ。体に悪くなるし。』」

「『……ちぇ、わかったよ。やめればいーだろ?やめればぁ!』」

「『……よし、それでよし!』」

「『ほら、見てみろ。あたしとお前の子供だぞ。』」

「『うわぁ。宇宙人みてぇだなぁ。』」

「『バーカ!7週目の赤ちゃんは、みーんな、宇宙人みたいなの!お前もあたしも、こーゆー時期があったんだよ!』」

「『え~!?そ、想像しただけで、ゾクッとした。』」

「『うふふふふ。』」

「『……ネル……ずっと、俺様のそばにいてくれるか?』」

「『えぇ。もっちろん。』」

「『ネル……。』」

「『ウルフ一郎……。』」

チュ……。
けんかしたり、泣いたり、笑ったりした。
そして、一晩、一緒に過ごしたり、お風呂に入ったりもした。
そんな毎日が、うそみたいに終わってしまうのは、あたり前のことだった。
……恋人だったから。
赤ちゃんができたことを知って、俺様は喜んだ。
やつもすっごく、喜んでたし。
……だが……。
自分には、喜んでいる自分と、それを聞いて、反省している自分がいる。
あの時、熱いキスをしなければ、ネルは妊娠せずにすんだはず……。
……ネル……。
また、お前に会いたい……。
そして、お前との子供を、この手で抱いたい……。
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