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第1章

第三十六話 「ネルさんの料理修行?」

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ブー。
あたしは今、ある理由で、怒っている。
超~ムカツくぅ~!
ガチャッ。

「ただいまぁ~。」

「う、う~!」

「ガオン、ちゃんとおりこうさんに、してまちたか?」

「あーい!」

「アハハハハ。ん?」

ウルフ一郎が、あたしの顔をのぞきこんだ。

「うわっ、超~ブス!ま、いつも、こんな顔をしているけどな、ガハハハハハハ!」

ドッ!
やかましい。

「はい、すびばでん。」

ブー!

「おいおい、どーした。そんな顔をして。いつものかわいい顔は、どこ行った。」

お前、さっきブスって、言ったろ!
ブー!

「だから、ブー!じゃわからねぇって。説明しろ。」

はぁ。わかったよ。説明してやる。

「実はぁ、洗濯物を干している時に、ママ友さん達がやって来てぇ……。」

「『あら、ガオンくんのお母さん!』」

「『こんな晴れた日に洗濯物を干すなんて、いいわね!』」

「『アハッ、ありがとうございますっ。』」

「『ところでガオンくんのお母さん、家事はやらないの?』」

「『火事?そんなのしねぇよ。犯罪になるから。』」

「『いやいや、そうじゃなくて、家の仕事よ、家の仕事っ。』」

「『あぁ。やんねぇよ。旦那がしてくれる。』」

「『えっ!?』」 

「『ん?なんだよ、そんなに驚いた顔をして。』」

「『だ、旦那さんに、任せっきりなの!?』」

「『あぁ。それのどこが悪い。』」

「『奥さん、せめて家事くらいは、あなたがやらないと!』」

「『いつまでも旦那さんに任せっきりだったら、こまるわ!』」

「『えーっ?けどあたし、不器用だしぃ……。』」

「『不器用だからやんないなんて、女房失格よ!』」
 
「『!?』」

「『そうよ!』」

「『旦那さん、もう歳でしょ?だからネルさんが、なにかしてあげないと!』」

「『!?』」

「『それだったら、離婚届、出した方がいいかもよっ!』」

「『!?』」

(超~ムカツくぅ~!)

「……という話だ。」

「ガハハハハハ~!マジでウケるぅ~!『不器用だからやんないなんて、女房失格よ!』マ、マジでウケるぅ~!」

笑うなっ。

「で、どーしたいんだ?」

「不器用を改善して欲しい!」

「ってことはつまり、家事を自分でやりたいんだな?」

ウルフ一郎のサングラスの奥に光る目が、じっとあたしを見つめた。
あぁ。
あたしはうなずいた。
すると、ウルフ一郎が、スッと立ち上がった。

「わかったよ。家事のこと、全部教えてやる。」

えっ!?いいのか!?

「あぁ。ただし、俺様の料理教室は、すっごく厳しいぞぉ。覚悟しとけよ?」

ありがとう、ウルフ一郎!
よーし、料理修行、がんばるぞぉ~!

                         ☆

あたしは、ガオンをおんぶひもに乗せて、授業を受けることに。
初めての授業は、カレーライスだぁ!

「まず、材料は、じゃがいも、にんじん、玉ねぎ、牛肉、カレールー、ヨーグルト、りんごだ。」

ほうほう、なるほどぉ~。
一応、メモしとこっ。

「まず、玉ねぎを薄切りにする。」

トントントン。
おぉ!すんげぇ、うめぇじゃねぇか!

「さぁ、あとは自分でしてみろ。俺様、見とくから。」

お、おう。
あ、あたし、初めて、薄切りをするぜぇ。
包丁を握っている手と、握ってない手が緊張とともに、ブルブル震えてる……。
シュッ、シュッ、シュッ!
あたしは包丁を刀みたいに素早い剣さばきで切ると、
一瞬で玉ねぎが薄切りになった。

「こら!普通に切れ、普通に!」

てへっ、ごめーん。剣士だったころの、力が残ってたみたーい。
あいつ、あたしのてへぺろで、メロメロになるだろ。

「てへぺろするなっ。俺様をメロメロにさせるなんて、バカなことを考えるな!」

う、うわぁ~。
こ、こいつ、マジで厳しいし。

「ほい、もう一回!」

はいはい。

「はいは一回っ!」 

「はい。」

ったくぅ、まるで、スパルタ料理教室みたいじゃねぇか。

「う、う~!」

トントントン。

「こら!もうちょっと、薄くしろ!」

え~?
これ以上、薄くしたら、だめだよぉ~。

「文句言うなっ!このくらいの薄さにしろっ!」

うわ!超~薄っ!
薄く切りすぎだろこりゃあ!

「わかったならさっさとしろ!」

へーい、へい。

「へーい、へいじゃなくて、はいだろ!」

はい!
あー、もう、イライラしてきたぁ。

「う、う~。」

「次!にんじんを2mmくらい半月きりにする!」

半ケツ?

「半月!下ネタ言うなっ!」

はいは……はい。
えっと、2mmくらい、半月きりにきってっと。

「ちょっとまったぁ!」

な、なんだよぉ。
って、あいつ、定規を取り出して、半月きりにきった、にんじんを測ってるし。どうしたんだろ。

「2mmちょうど!よし!」

がくっ。
ったく、どんだけ厳しいんだよぉ。

「次!じゃがいもを一口大に切る!」

はーい。

「はーいじゃなくて、はい!伸ばすなっ!」

はい。
だまれ、おっさんオオカミ。
さあてと、一口大に切りましょうか。

「まて!そのまんまに切るんじゃねぇ!」

はぁ?どういうことだ。

「皮をむくんだよ、皮を!」

え~?あたし、皮むき、できなーい。めんどくさーい。

「できる!こーして、じゃがいもに包丁を当てて、むくんだよぉ!」

うわっ!すごっ!
さすが、手先が器用なオオカミ!

「さぁ、やってみろ。」

あぁ。
あたしは、皮をむき始めた。
あ。あたしでもできた。

「だろぉ?」

よし、むいた皮を、ゴミの中に……。

「ちょっとまったぁ!」

なんだよぉ!

「ちょこっとむいただけで、ゴミの中に入れようとするなっ!」

え~?

「りんごみてぇに、皮をむけっ!」

はいはい。

「何回言えばわかる!「はい。」だろ!」

はい!
イライラ度が、だんだん、増してくるぅ。
チクッ。
痛っ!
いっつぅ~。指切って、血が出たよぉ。

「ウルフ一郎。」

「ああん?どうした。」

「皮をむいたら、指、切っちゃった。すっごく、痛いよぉ~。」

よし、これでやつをメロメロに……。

「そのくらいで泣くなっ。おめぇ、ヴァンパイアだろ!自分の血をなめてから、バンソーコーで貼れっ。」

うわ!冷たっ。
ぺろっ。
ゔぇ、やっぱ自分の血、まぢー。

「こら!もっと力を入れて、りんごをすりおろせ!」

「肉の長さ!あ、1cm長い!もう一回!」

「3分経ったぞぉ~!早く玉ねぎを入れろ!」

「ヨーグルトはたーっぷり入れろっ。それと、味が薄いっ。もうちょっと、ルーを入れろっ。」

    


                                   ☆
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