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第1章

第三十五話 「ヒアン様の病気」

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私が連れて来られたのは、なんと、大広間。
そこには、ジュンブライト、ヒアン様、そして、ギロさんが向かい合わせですわっていて、その周りには、ルクトさん、マドレーヌちゃん、リアン様、そして、メイドさん達が囲んでいた。
なんか、ヤバイ雰囲気になってるんですけど。

「ヒアン様がね、全てを明かしたのよ。」

リリアさん、唇を噛みしめて、握った拳が震えてる……。
全てを明かしたって、どういうことなんですか?

「……ヒアン様が、ご病気だったの!」

えっ!?うそでしょ!?
あの、ヒアン様が、ご病気だったなんて……。

「しかも、あと2カ月しか、生きられない病気なのよ。」

えっ!?あと2カ月で、ヒアン様は死んじゃうの!?

「……ええ、そうよ。」

リリアさんは、こくりとうなずいた。
そ、そんな……。
バン!

「なんで隠してたんだよ!クソ親父!」

ジュンブライトがテーブルをたたいて怒っている。
そりゃそうだよ。
だって、自分の父親が、余命あと2カ月なんて、初めて聞いたんだもん。
それに、大好きな人が、あと2カ月で死んじゃうなんて、悲しいよ。

「……。」




ヒアン様はだまってる。
ヒアン様……。

「大王様、正直に話してください!」

「ヒアンおじ様!」

「兄さん!」

「大王様!」

「みなさん、ごめんなさいっ!」

えっ?なんでギロさんが、謝るの?

「じ、実は俺、ヒアン様に病気のことを告げたあと、こう言われたんです。「先輩達に言わないでくれ。」って。俺、ヒアン様に内緒で、言えばよかった……。」

「ギロは悪くないぜ。ただ、親父がなぜ、病気のことをだまってたのかっていう、話をしているだけだ。」

「先輩……。」

ギロさんは、目をうるうるしている。

「……言いたくなかったのさ。」

「ああん?」

「……大好きな息子に、言いたくなかったのさ、病気のことを。」

ヒアン様……。

「私が死んだら、息子は一人になる。そう思って、秘密にしてたのさ。」

「親父……。」

「いずれ、車いすの生活になるかもしれん。その時は、お前がめんどうを見てくれよなっ。」

ヒアン様が、ジュンブライトに向かって、ウインクした。

「はぁ!?なんで俺が、てめぇみてぇな頑固親父のめんどーを見なくちゃいけねぇんだよぉ!」

「うるさいっ!親が困ってたら、助けるのが、子供の役目だろーがっ!」

「んだとぉ?」

うふふ。いつもの親子モードに戻ってます。
けど、今後、どーするんだろ。
ちょっと、気になります。


                               ☆


午後8時。
俺は、ウルフ一郎の家にやって来た。

「ジュンブライト様♡こんばんは♡」

こんばんは、ネル。

(はあ♡あなたの美しい笑顔、サイコーです♡)

「よぉ、テンパヤロー。俺様に話したいことが、あるんだろ?」

「あぁ。とっても、大切な話なんだ。」

「わかった。ネル、ガオンを連れて、寝室に行け。俺様とバカ王子の、2人っきりでの話なんだ♡」

なんだ、その最後の『♡』は。

「ちぇ、いいなぁ。あたしもジュンブライト様と、二人っきりになりたかった!」

ネルは、ぷんぷん怒りながら、ガオンを連れて、寝室に入った。
カチッ。

「ふー。で、話ってなんだ。」

「じ、実は、親父のことなんだけどぉ。」

「お前の親父さん?お前の親父さんがどーした。まさか、物忘れがひどくなったとか!?ガハハハハハ!笑うぜっ!」
  
笑うんじゃねぇ。

「実は、大切な話ってのは、親父のことなんだ……。」  

「あ、まさか、再婚したとか!?おめでとー!相手は?むちゃくちゃしわが生えてる、老女とか!?ひょっとして、80歳のばあちゃんとか!?」

ドッ。
真面目に聞けっ!

「はい、すみません。」

ウルフ一郎の頭の上には、大きなたんこぶがついている。

「実は……うちの親父、あれなんだ。」

「あれって?」

「……病気を持ってるんだ。」

「!?」

「!?」

ウルフ一郎は、くわえたたばこを、ポトッと灰皿に落とした。

「お、おい、じょーだんだろ?あ、あの親父さんが、病気だってよぉ。」

ほんとだよ。

「!?マ、マジか……。」

あぁ。
俺はうなずいた。

「あと、2カ月しか生きられねぇんだ。」

「2カ月で死ぬだとぉ!?それは重い病気だってこと。」

あぁ。
話は、ここで終わりじゃねぇ。

「もし俺がいそがしい時は、ウルフ一郎、お前がめんどうを見れ。」

「……。」

カチッ。

「ふー。わかったよ。その話、のった。」  

ウルフ一郎……。

「父親を亡くすのって、つらいぞぉ。俺様は小さいころ、父ちゃん、死んでしまったからなぁ。しかも、目の前で。」

えっ!?目の前で!?

「あぁ。あの時、俺様は、初めて死の恐怖を感じたぜぇ。」

「『父ちゃーん!』」 

「……あの時は、自分の感情を殺して泣いた。あの時のことは、今でも覚えてる。」

ウルフ一郎……。

「……もし、ネルだったら、もっと泣く。いつも以上に。」

そうだよなぁ。
俺も、真莉亜だったら、いつも以上に泣くぜぇ。

「お互い、がんばろうな。」

おう!
俺は、ニッと笑った。

「じゃあな、ウルフ一郎!」

「おう!また会おうなっ。」

俺はニッと笑って、ウルフ一郎の家をあとにした。
ガチャッ。

「……聞いたぞ、ジュンブライト様のお父様のこと。」

「ネ、ネル!聞いてたのか!?」

「あぁ。丸聞こえだったよ。で、今後、どーするんだ。」

「……毎日、お城に行くとするよ。昼ご飯と夜ご飯は、つくっておくから。」

「あぁ。これから、いそがしくなるな。」

「あぁ。ガオンにはもうしわけないが、お城に泊まるかもしれねぇ。その時は、ウルフ三郎が来るだろう。」

「ちぇ、あいつと留守番なんて、嫌だなぁ。」

「仕方ないだろ?あいつと決めたことだから。」

「……そうだなぁ。」

「さ、風呂に入ろっかなぁ~。」

(……ガオン、もう寝ちゃったから、ベッドに寝かそう。)


                 
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