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第十六話 「道華が産まれた日」

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 -5年後ー
 
結婚して2カ月が経ちました。
苗字が『春間』から『黒月』に変わりました。
 
「・・・・・・ゔ!」
 
またきたか・・・・・・。
私、春間・・・・・・いやいや、黒月真莉亜は、このごろ、体の調子が悪いんです。
吐き気がしたり、頭痛がきたりと・・・・・・この2カ月間、ずっと続いてるんです。
 
「真莉亜ちゃん。」
 
具合悪そうにしている私のところに、店長さんがやって来た。
 
「最近、元気がないね。どうしたの?」
 
わ、わかりません・・・・・・。
 
「念のため、早く帰った方がいいと思うよ。あとは、僕達がやるから。早く治るといいね。」
 
じゃ・・・・・・じゃあ、お先に失礼します。
 
「お大事に。」
 
店長さんが笑顔で、私の方に手を振った。
 
 

 
 
私はマンションに帰ると、すぐに寝室に行き、ベッドに寝こんだ。
ズキン!
いたっ!今度は頭痛が!
もう、なんなの?
・・・・・・今日の夜ご飯、冷やし中華にしようとしたけど、体があんまり、動けない。
 
「ただいまぁ~。」
 
ジュンブライトが帰ってきた。
帰ってきたジュンブライトは、寝室に行くと、ベッドに寝こんでいる私に気づいて、近寄った。
 
「どうしたんだ?具合悪そーにしてるけど。」
 
「ごめん。今日、冷やし中華にしようとしたけど、最近、体の調子が悪くて・・・・・・悪いけど、今日は出前にするね。なに食べる?」
 
すると、ジュンブライトが、ムスッとした。
 
「えー?俺、真莉亜の飯、食べたかったのに・・・・・・。」
 
仕方ないでしょ?もう、大王なんだから。わがまま言わないの。
 
「・・・・・・わかった。じゃあ、俺、とんこつラーメン。真莉亜は?」
 
焼きそばにしよっかな?
トホホホホ・・・・・・。ジュンブライトにめいわくをかけてしまった・・・・・・。
 
 

 
「うんめぇ~!」
 
ジュンブライトが、若山さんからもらった、野菜サラダと、出前でたのんだとんこつラーメンを、パクパク食べている。
なんか、食欲がない・・・・・・ゔ!
私は口をおさえながら立つと、真っ先に洗面所に向かって、洗面台に向かって・・・・・・。
 
「オェー!」
 
吐いた。
 
「オェー!」
 
「真莉亜!」
 
ジュンブライトが洗面所にやってきて、私の背中をこすった。
・・・・・・もう、大丈夫みたい。
 
「本当か?」
 
ジュンブライトが、私の背中をこするのをやめた。
 
「うん・・・・・・いたっ!」
 
今度は、頭痛が・・・・・・。
 
「大丈夫か!?」
 
うん、まあね。
 
「まあねじゃないだろ。早く寝ろ。あとは、俺がやるから。」
 
ごめんね。いろいろ、めいわくかけて。
 
「こまった時は、お互い様だぜっ!」
 
ジュンブライトの笑顔を見ると、気持ち悪いのがなくなったよ。
明日、大学とバイトを休んで、病院に行こっかな?
 
 

 
 
私は、大学とバイトを休んで、病院に行くことにした。
検査を受けた私は、本を読んでいた。
 
「黒月さん、お呼びですよ。」
 
若い看護師さんに呼ばれた私は、診察室に入って、いすにすわった。
 
「あ・・・・・・あのう、どうでしたか?」
 
もし、死ぬ病気だったら、どうしよー!
ジュンブライトと結婚して2カ月経つのに、死ぬなんて、いやだ!
よし!ジュンブライトに遺書を書こーう!
私はバックの中から、メモ帳とシャーペンを取り出した。
ジュンブライトへ 長い間、ありがとうございましたっと。
遺書を書いている私の姿を見て、お医者さんと看護師さん達は、顔をきょとんとした。
 
「なに書いてるんですか?」
 
「遺書ですっ。」
 
私がきっぱり言うと、お医者さん達は、ぷっとほっぺたをふくらませて、「ぷははははは~!」と笑い出した。
なにがおかしいんですかっ。
 
「黒月さん、死ぬ病気じゃありませんよ。」
 
へ?
私は目を点にした。
 
「それって、どういうことですか?」
 
私が聞くと、お医者さんは、にこっと笑った。
 
「おめでとうございます。」
 
・・・・・・なにがですか?
 
「黒月さんのお腹の中に、小さな命が誕生しました。」
 
「え・・・・・・。」
 
そのとたん、私はメモ帳とシャーペンを落とした。
 
「そ、それって・・・・・・まさか!」
 
「そうです。妊娠していますよ。」
 
うわぁ~。
私は満面な笑みで、お腹をさわり始めた。
私とジュンブライトの、子供・・・・・・私、お母さんになるんだぁ。
 
「2カ月ですよ。あと、吐き気や頭痛の原因は、妊娠をしている証拠なんです。妊娠している人にとっては、あたり前のことですけどね。」
 
予定日はいつですか!?
私は、わくわくしながら聞いた。
 
「3月です。」
 
3月かぁ。早く帰って、ジュンブライトに報告しよっ。
 
 

 
 
私は、わくわくしながら、ジュンブライトの帰りをまっていた。
早く帰って来ないかな?
 
「ただいまぁ~。」
 
「お帰り!」
 
私は笑顔で鏡の方を振り向いた。
 
「おぉ。元気そうじゃねぇか。どうだ、具合は。よくなったか?」
 
そんなことより、うれしいお知らせがあるの!
 
「なんだ?早く教えてくれ。」
 
私はジュンブライトのところまで歩いて、思いっ切り、ジュンブライトにだきついた。
 
「な・・・・・・なんだよ。いきなりだきついてきて。」
 
私は、笑顔でジュンブライトの顔を見上げた。
 
「私ね、妊娠したの!」
 
私の発言を聞くと、ジュンブライトは、目をまるくした。
 
「え・・・・・・・って、ことは・・・・・・・。」
 
そう!お腹の中に、赤ちゃんができたの!
 
「う、うそだろ・・・・・・。」
 
ジュンブライトは、とても驚いている。
 
「やったぁ!」
 
ジュンブライトは、私をぎゅっとだきしめた。
 
「俺と真莉亜の子供ができたなんて、夢みてぇ!」
 
2か月だって。
 
「本当か!?でも・・・・・・。」
 
ジュンブライトは、顔をしゅんとして、私を離した。
どうしたの?
 
「もし、ヴァンパイアの子供が産まれてきたら、どうしよう・・・・・・。」
 
そんなの、気にしないの。
 
「え?」
 
私は、どんな子が産まれたって、かまわない。
 
「真莉亜の言う通りだな。ヴァンパイアと人間のハーフの子が産まれて欲しいなっ。」
 
え~?そんなの、ありえないよ~。
 
「いや、ありえるかもしれないぜっ。」
 
うふふふふ。ジュンブライト。
 
「なんだ?」
 
「愛してる。」
 
「俺もだ。愛してるぜ、真莉亜。」
 
 
私達は、唇を近づけて・・・・・・。
チュ・・・・・・。
キスをした。
ものすごく、熱かった。
私達は、唇を離した。
 
「男の子と女の子、どっちがいいと思う?」
 
私が聞くと、ジュンブライトは、ニッと笑った。
 
「どっちもいいぜ!俺、ガキがものすごく、大好きだから。」
 
ジュンブライトらしいね。
私、ジュンブライトのために、元気な子供を産むから。ちゃんと、見守ってねっ。
 
 

 
私は、理香ちゃんに妊娠したことを報告すると、理香ちゃんは、とても驚いた。
 
「本当なの!?真莉亜!妊娠したって!」
 
これが証拠だよ。
私は、理香ちゃんに、母子手帳を見せると、理香ちゃんはそれをぱっと取って、じ―っと、見つめた。
 
「・・・・・・本当だ。本物だ。真莉亜、おめでとー!」
 
理香ちゃん!そんなに大きな声、出さないでよ!
周りの人たちが、変な目で見てるよ!
 
「あ・・・・・・ごめん。それよりさ、何カ月?」
 
勝手に母子手帳をペラペラめくらないでよ!
 
「いーじゃん。友達なんだから。」
 
自分勝手なところが、誰かさんと似ています。
 
「これって、まさかまさか・・・・・・。」
 
理香ちゃんが、母子手帳にはさまれた一枚の写真を取り出した。
これ、昨日、エコーで撮った写真なんだ。
で、このまるいのが、赤ちゃん。
 
「へぇー。でもさ、真莉亜。大学はどうすんの?」
 
主人と話したけど、結果、やめることにしたんだ。
 
「えぇ!?大学をやめるってことは、中学の国語の先生になる夢を、あきらめるってことだよ!?あんた、バイトもやめるんじゃないでしょーね?」
 
バイトもやめる。また、新しいバイトを探すよ。
 
「あんた、これからどーすんの!?」
 
お腹の子が大きくなったら、家庭教師をやろうと思うの。
 
「そう・・・・・・真莉亜らしいよ。がんばって、赤ちゃんを産んできなさい!」
 
ありがとう、理香ちゃん!
理香ちゃんのこと、絶対忘れないよ!
 
「うん!赤ちゃん産んだら、だっこさせてくれる?」
 
もっちろん!
私と理香ちゃんは、笑いあった。
 
 

 
 
グゥ~。
お腹空いたぁ~。
なーんか、外食したいなぁ~。
ファミレスに辞表届を出したし、バイトの本を読むたび、お腹がグゥ~と鳴るよぉ~。
あーもーう!なんでもいいから、なにか食べたーい!
 
「ただいまぁ~。」
 
ジュンブライトが帰って来た!
 
「お帰り。今日、外食にする?」
 
「え~?なんでだよ!」
 
なんか、いろいろ食べたくなってきちゃった。
ごめんね。明日、肉じゃがにするから。
 
「ちぇ、わかったよ。どこに行く?」
 
ファミレスに行こっ。
 
「あぁ。じゃあ、行くか。」
 
やったぁ~!
 
 

 
 
私達は、ファミレスで、ご飯を食べていた。
たくさん食べている私を見て、ジュンブライトは、口をポカーンと開けていた。
 
「お前、よく食べるなぁ。」
 
えへへへへ。
お店に入った店長さんが、にこにこしながら、料理を持って来た。
 
「夫婦でここで食事をするなんて、いいねぇ。真莉亜ちゃん、おまたせ。あさりのスパゲッティと、照り焼きハンバーグと、オムライスと、チーズハンバーグねっ。」
 
うわぁ~。おいしそー。
 
「お前、食べすぎだろ!」
 
だってぇ、なんか、いろいろ食べたくなったんだもーん。
それに、お腹の子のために、たっくさん、食べておかないと、元気に産まれて来なくなるし。
 
「アハハハハ。真莉亜ちゃんの言う通り、たっくさん食べておかないと、元気に産まれて来なくなってしまうからな。」
 
店長さんが、笑顔で言った。
 
「店長さん、フライドポテトをお願いしますっ。」
 
「はいよっ。」
 
「いいかげんにしろっ!」
 
 
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