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第三十八話 「ハチャメチャな美女と野獣!」

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花田中文芸会当日。
 
「人、いっぱい集まってますねぇ。」
 
「ルクト~!」
 
「あ、真美江!久しぶりです~!」
 
「ルクトさんの知り合い?」
 
「はい。真美江は、わたくしの友達で、真莉亜様のおばあさんなんです。」
 
「え~!?真莉亜ちゃんの、おばあちゃん!?」
 
「こいつ、驚きすぎやろ。」
 
「ひいおばあちゃ―ん!」
 
「おぉ、道華。元気にしとった?」
 
「うん!」
 
「真莉亜のおばあちゃんだけ、道華のこと、知っているみたいね。」
 
「ねぇ、ギロ。おトイレ行きた―い。」
 
「トイレ?いいよ。ルクトさん、ソラちゃんをトイレに連れて行きます。」
 
「はい、かしこまりました。」
 
「ジュンブライトお兄様の出番、まだですかぁ~?」
 
「まだよ。プログラム18番だから。」
 
「じゃあ、ジュースを買って来て、いいですか?」
 
「いいわよ。はい、お金。」
 
「じゃあ、行ってきまーす!」
 
「子供は元気やなぁ。」
 
「はい。」
 
「リッちゃん、アイスコーヒー、買って来たよ。」
 
「ありがとう。」
 
「大変ですわぁ。ナレーションの子が、かぜでお休みになられたわぁ。どっか、代わりにやってくれる人は、いないかしら?」
 
「先輩の演技、早く見たいなっ。」
 
「まだよ。」
 
「・・・・・・・。」
 
「どうしたの?ギロ。」
 
「振り返ればあの日!熱を出していなかったら!劇に出られたのに!」
 
「過去のことは、忘れなさい。」
 
「忘れられないよぉ~!」
 
「もう、人前で泣かないでくれる?」
 
「そこのあなた。」
 
「ん?俺?」
 
「いい声の持ち主ね!ちょうどよかった!ちょっと、こっちへ来てくれない?」
 
「えっ?ちょっ、ま・・・・・・。」
 
「い―から早く!」
 
「リッちゃ~ん!」
 
「なんのことかしら?」
 
 
-放送室ー
 
「えぇっ!?俺が、ナレーションを?」
 
「そう。ナレーションの子が、かぜでお休みになって、代理になる人を探していましたの。あなた、やってくれないかしら?」
 
「い・・・・・・いいけど?」
 
「やったですわ!これなら、花田中文芸会を、成功させることが、できますわ!」
 
「俺、野獣・王子様役をやりたかった・・・・・・。」
 
「これ、台本ですので、本番が始まる前にお呼びしますので、それまでに、練習しといてくださいねっ。」
 
「わ・・・・・・わかった。」
 
 

 
えぇっ!?ギロさんが、ナレーションを!?
 
「あぁ。さっき、電話がきた。」
 
ますます、ハチャメチャになっていきおる。
 
「真莉亜ちゅわ~ん♡」
 
「ウルフ一郎さん!」
 
「あ、馬だ。」
 
「てめぇ、ぶんなぐるぞ!」
 
「なぐりたいんなら、やってみな。」
 
ちょっ、二人とも!ここでけんか、しないでよ!
 
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」
 
ウルフ一郎さん、やめて!
って、あれ?
ウルフ一郎さんは、着ぐるみを着ているから、手が、全然、ジュンブライトの顔まで、とどかない。
 
「ひゃ―っはっはっはっはっは!全然、効かねぇよ!」
 
「バ、バカにすんなっ!」
 
「ニヒニヒニヒニヒ。」
 
ジュンブライト、ウルフ一郎さんをバカにしたら、だめだよ。
 
「いいじゃねぇか。」
 
よくありませんっ。
 
「このかつらをかぶると、あの大物俳優のまねをしたくなるなぁ。」
 
大物俳優?
 
「いいですかぁ?人という字は、こー書くんですよぉ。」
 
武田鉄矢じゃん!
 
「ガハハハハ~!似てる~!」
 
ウルフ一郎さん、ウケてます。
 
「ジュンブライト様・・・・・・。」
 
「この、バカチンが!」
 
あのう、そのかつらは、そ―ゆ―ために、かぶってるんじゃないんですけど・・・・・・。
 
「あ・・・・・・あ・・・・・・・。」
 
ネルさん、どうしたんですか?
 
(あのジュンブライト様に、悪口を言われた・・・・・・・。もう、あたしの恋は、終わりだぁぁぁぁぁぁ!)
 
あのう、ぶっ飛んだかんちがいは、しないでください。
 
「ネル、どうしたんだ?」
 
ジュンブライトが、ネルさんに近づこうとすると、ネルさんは、ぱっと、走り出した。
だから、ぶっ飛んだかんちがいは、しないでください。
 
「あいつ、なにしに来たんだ?」
 
「さぁ。」
 
「あれ?ネルは?」
 
「ネルさんなら、さっき、向こうに行ったよ。」
 
私は、向こうを指さしながら、教えた。
 
「比奈多っていう人が、「もうすぐ出番だから、全員、ステージの裏に来い。」って。」
 
「こりゃあ、大変だぁ!」
 
「俺様、あいつを呼び戻して来る!」
 
「気を付けろよな!」
 
「おめぇに言われたくねぇ!」
 
ウルフ一郎さんは、向こうへと走り出した。
 
 

 
 
ひゃ―っ、緊張するよぉ。
 
「ジュンブライト、緊張してない?」
 
私が声をかけると、ジュンブライトの返事は、ゼロ。
ジュンブライト?ジュンブライト?
ガタガタふるえてる―っ!
ジュンブライト、大丈夫なの?
 
「あ、あぁ。大丈夫だ。」
 
だめだ、こいつ。
練習と思えば、いいんだよっ。
 
「ア、ア、アドバイス、サンキュ―。」
 
「しっかりやりなさい!」
 
私は、ジュンブライトに向けて、ウインクをした。
 
「おう!」
 
ジュンブライトは、いつも通りの笑顔に戻った。
 
「『次は、プログラム18番、2年1組による、『美女と野獣』です。』」
 
放送部の女子部員が言うと、照明係の健司くんが、ステージにだけ、ライトを照らし出した。
 
「『む、む、むっ!昔、あ、あ、あるところに、玉子様がいました。』」
 
ギロさんの方が、よっぽど緊張している!
 
「まちがえた?」
 
「玉子様だって!」
 
「おもしろ―い!」
 
お客さんが、騒ぎ出したよぉ。
 
「・・・・・・。」
 
リリアさんは、顔を真っ赤にしている。
 
「『あっ、まちがえた。王子様がいました。』」
 
読み直したよ、この人。
 
「『王子様は、わがままで、自分勝手な性格でした。アハッ、先輩にそっくり。』」
 
思ったことを口にするなっ!
 
「あいつ、なぐりたくなってきたぁ!」
 
ジュンブライト、怒りをおさえて。
 
「『そんなある夜、一人のおばあさんが、お城にたずねてきました。』」
 
ジュンブライトが、ドアを開けると、ライトがジュンブライトを照らし出した。
 
「お願いです。このバラを差しあげますから、温かい一夜のやどをお恵みください。」
 
「ふん、バラなんていらないね!うすぎたないやつめ、失せろ!」
 
バタン!
ジュンブライト!すごーい!緊張しないで、できたじゃん!
 
「『王子がドアを閉めたあと、おばあさんは、美しい魔女の姿に変わりました。』」
 
さ、比奈多さん、がんばって!
ところが、比奈多さんはステージの軸から出て来たっきり、立ちつくしている。
どうしたの?まさか、緊張しすぎて、セリフが言えない、とか?
 
「あぁ!」
 
比奈多さんは、顔を両手でおおって、すわりこんだ。
 
「こんな美しい方を、おそろしい野獣に、したくありません!」
 
なんですとぉ~!?
 
「セリフ、ちがう!」
 
「おい、それじゃあ、話が進まねぇじゃねぇか!」
 
「いいんです!これが、自分の勝手ですから!」
 
あらら。
 
「う・・・・・・!」
 
ジュンブライトが、いきなり頭をかかえた。
ど、どうしたの?
 
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁ!」
 
自分でストーリーを進めてるよ!
さっすがぁ!ヴァンパイア界の王子!ステージの軸に、行っちゃったよ。
 
「まってください、潤様ぁ!」
 
比奈多さんは、ジュンブライトを追いかけた。
 
「『え―っ?先輩、どうなっちゃったのぉ~!?真相は、CМの後!』」
 
テレビじゃありません!
 
「このナレーションさん、おもしろーい!」
 
「天然すぎね。」
 
「いや、ド天然でしょ。」
 
「アハハハハハ!
 
お客さんから、笑われてるよ。
 
「『それから、十年の年月が流れました。とある街に、ベルという、美しい少女がいました。』」
 
私は、ステージの軸から出てきた。
 
「春間真莉亜!ベル役は、あたしがもらう!」
 
わっ!ネルさん!刀を出さないでくださいっ!
てか、セリフがちがう!
 
「バカ女!あたしが、あんたからベル役を、うばってやるわ!」
 
ひぇ―っ!二人とも、追いかけないでくださーい!
 
「こら!真莉亜ちゃんをいじめるなっ!」
 
ウルフ一郎さんは、まだ出番じゃないから、出ないでくださいっ!
 
「ど、ど―なってるの?」
 
「なにもかも、めちゃくちゃだわ。」
 
「一体、この劇は、どんな展開を迎えるのかしら。」
 
 
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