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第三十八話 「ハチャメチャな美女と野獣!」

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次のシーンは、なんとなく、うまくいきました。
次は、お城にとらわれたモーリスを、ベルが助けるシーン。
 
「パパ!」
 
「おぉ、ベル!」
 
「・・・・・・手が冷たいわ。」
 
「そんなことより、早く逃げろ!」
 
「えっ?」
 
「誰だ、そこにいるのは!」
 
振り返ると、野獣姿のジュンブライトが、犬のように、一歩、一歩、歩いて、登場した。
ひぇー、こわーい!
 
「お前の娘か!」
 
頭の上には、チョッパーみたいな、角と耳がついていて、口にはおそろしい牙に、黒いしっぽが、おしりについていて、顔色は、茶色にぬってある。
それに、赤いマントをつけている。
 
「ベル、逃げろ!」
 
「まって!」
 
私は、おそるおそる、ジュンブライトに近づいた。
 
「顔を見せて。」
 
「顔を?お前も、みにくい私の姿を、見てバカにするのか!」
 
「バカにしないわ!さぁ、早く見せてちょうだい!」
 
ジュンブライトは、私に顔を見せた。
 
「いや!」
 
私は、顔を両手でおおった。
 
「ベル!」
 
「これが、私の姿だ。顔だ!」
 
いよいよ、私が一番、ジーンとくるセリフ!
 
「パパをここから出して。」
 
「なんだとぉ?」
 
「私をここに閉じこめて。そして、パパを自由にして。」
 
「よかろう。お前の言う通りにしてやる。」
 
「・・・・・・ゔぅ・・・・・・。」
 
春間真莉亜、我ながら、うまい演技です。
 
「ちょっとまったぁ!」
 
その声は・・・・・・。
 
「ウルフ一郎さん!?」
 
「なんだ、オオカミヤロー。」
 
「真莉亜ちゃん!その、勇気ある行動、したらだめだよ!」
 
はぁ?
 
「おい!話の流れを、止めようとするなっ!」
 
「うるさい!と・に・か・く!真莉亜ちゃん、俺様の言う通りにして!」
 
はぁ・・・・・・なんで、こーなるのぉ~?
 
「オオカミヤロー!貴様は舞台の裏側で、おとなしくしてろ!」
 
「おとなしくしてられっか!真莉亜ちゃんをろうに閉じこめるやつは、ゆるさん!」
 
「いや、これはぁ、台本に書いてある通りなんで・・・・・・。」
 
「台本なんか、ど―でもいい!俺様は、真莉亜ちゃんを守る役目を果たしたいんだ!」
 
「こ、こいつ、ぶっ飛んだかんちがいを、してやがる・・・・・・。」
 
ウルフ一郎さん!これ以上、お芝居をめちゃくちゃにしないでください!
 
「えっ?」
 
「私、そういうウルフ一郎さんが、大っ嫌いです!」
 
(大っ嫌いです、大っ嫌いです、大っ嫌いです、大っ嫌いです、大っ嫌いです・・・・・・・!)
 
「そ、そんなぁ~。」
 
私の言葉が、心の中に響いたのか、ウルフ一郎さんは、石化した。
 
「は―い、おつかれさ―んっと。」
 
ジュンブライトが、石化したウルフ一郎さんを、舞台裏まで運んだ。
これで、一安心です。
 
 

 
 
「あ”-!もう、がまんできない!」
 
「野獣・王子様役をやりたい気持ちが、やまやまになった!」
 
「ん?そうだ!俺、いいこと考えちゃった―ん♡」
 
 

 
 
そして、物語はいよいよ、クライマックスへ。
野獣を退治に来た、ガストンの仲間が追い出され、ガストンは、一人で野獣をたおしに行き、野獣はガストンを追い出して、ベルの元へと行こうとした。が、ガストンは、野獣を短剣でさし、さしたひょうしに、滝に落っこちちゃった。
 
「あなた、大丈夫?」
 
「あぁ。もう、私の命は、それほど長くない。」
 
「バカなこと、言わないで・・・・・・。」
 
「君と出会って、よかった。」
 
ジュンブライトは、私のほっぺに、手を当てた。
 
「うそでしょ?死なないで!」
 
「いい人生だった・・・・・・。」
 
ジュンブライトは、ゆっくり目を閉じた。
 
「あなた、あなた!お願い、目を覚まして!・・・・・・愛してるわ。」
 
私が、ほおずりをして、涙を一粒流した、その時!
ピカーッ!
まぶしい光が、光り出した。
ジュンブライトは、宙に浮かんだ。
赤いマントを体に包んで、浮かんでいる。
そして、ジュンブライトの化け物だった、手が人の手になり、化け物だった足が、人の足になり、しっぽが消え、野獣の顔が、人の顔になった。
ジュンブライトは、宙から舞い降りた。
ジュンブライトは、立ち上がって、自分の手を見て、私の方を振り向いた。
 
「・・・・・・誰?」
 
「ベル、僕だよ!」
 
ジュンブライトは喜んで、私の両手をにぎった。
 
「本当に、あなたなの?」
 
「あぁ。」
 
「あなた!」
 
私は、ジュンブライトにだきついた。
 
「よかった、生きてて・・・・・・。」
 
「魔法が解けて、よかった。」
 
「魔法?」
 
「僕は、10年前、とてもわがままで、自分勝手だったのさ。魔女の呪いで、城全体が呪いにかかり、僕はみにくい野獣の姿に変えられてしまった。」
 
「まぁ、かわいそう・・・・・・。」
 
「そう思うだろ?けど、今の僕は、今までの僕とちがう。本当の自分を見つけたのさ。そして・・・・・・心から愛し合える人も見つけた。」
 
「それって、まさか・・・・・・。」
 
「そう、君だよ、ベル。」
 
ジュンブライトは、優しくほほえんだ。
 
「あなた・・・・・・。」
 
「愛してるよ、ベル。」
 
「私も。愛してるわ、あなた。」
 
私達が、キスをしようとした、その時!
 
「ちょっとまったぁ!」
 
ステージの軸から、声が聞こえた。
見てみると、黒い影が、だんだん、こっちへ向かって来るのが見えた。
ジュンブライトと同じ、茶髪のかつらをかぶっていて、服装は、ジュンブライトと同じ、白い服と黒いズボンを着た、黒いサングラスをかけている、黒いオオカミさん。
 
「ウルフ一郎さん!」 「オオカミヤロー!」
 
一体、どーしたんですか!?
 
「えへ―ん。まだ、衣装が残っていたから、着てみたんだよ。」
 
「ぷっ!」
 
「くおうら!笑うなっ!」
 
「だ・・・・・・だってぇ、お前、おかしーんだもーん!かつらをかぶってさ。」
 
「てめぇ、この俺様をバカにすると、バチが当たるぞ!」
 
ウルフ一郎さん、またじゃましようとするのね。
ウルフ一郎さんは、目をハートにして、両手をグーにして、あごにあてた。
 
「真莉亜ちゅわ~ん♡俺様と、熱~いキス、しよ~♡」
 
そのために衣装を着たんかい!
 
「断りますっ!」
 
「ほーら。真莉亜がいやがってんじゃねぇか。」
 
「勝手に決めつけんな・・・・・・。」
 
「ア―アア―!」
 
ん!?今、天井から、声がしたような・・・・・・。
 
「なんだ、なんだ?」
 
「ターザン?」
 
「まさかぁ。」
 
会場が、ざわついた。
 
「ア―アア―!」
 
声がどんどん聞こえる。
 
「ア―アア―!」
 
一体、誰!?
と、思った瞬間、二人と同じ衣装を着た、男の人が、ひもにぶらさげて、ターザンのようにやって来るように見えた。
あの、かわいい瞳は、ギロさん!?
 
「ア―アア―!」
 
って、行きすぎてる―!
やっぱり、あの天然ぶりは、ギロさんだね。
 
「いったぁ~い。」
 
「お前があんな風に登場するからだろ。」
 
「もっと、ふつーに登場しろよ。」
 
「ところで、どうしたんですか、ギロさん。」
 
すると、ギロさんは真剣な顔になって、ジュンブライトの方に向かって、深く土下座した。
 
「先輩!俺に、野獣・王子様役を、やらせてください!」
 
「ぬわんだとぉ~!?」
 
ジュンブライトが、大きな声で驚いた。
 
「おい、お前、真莉亜のことが、好きなのか?」
 
「いえ、ちがいます。高校の時、やりたかったことが、急にできなくなって、悔しかったです!あれから8年後、それを実現しようとしているのですっ!もう、つらいあの過去とは、おさらばだぁ!」
 
ギロさんは、涙を流している。
よっほど、したかったんだね。野獣・王子様役を。
 
「ちょっとまったぁ!」
 
ウルフ一郎さん!?
 
「貴様、彼女がいるんだろ!その人の前で、真莉亜ちゃんと熱~いキスを、やろうってのか!」
 
「えっ?」
 
ギロさんが、顔をきょとんとしながら、客席の方を見ると、8列目のパイプいすにすわっている、リリアさんを見た。
 
「あ―!リッちゃんがいることを、忘れてた―っ!」
 
「バ―カヤロ―!」
 
ギロさん、天然すぎます。
 
「ま、いっか。」
 
「いいんかい!」
 
「・・・・・・!」
 
リリアさんが怒ってる!
 
「俺が真莉亜と熱いキスをするんだ!」
 
「い―や、俺様だっ!」
 
「ちょっとまって。真莉亜ちゃんに、決めさせるのは、どう?」
 
えぇっ!?
 
「あぁ、それはいいなぁ。」
 
「さっすが、俺の後輩だぜっ!」
 
三人は、私の方を振り向いた。
 
「さぁ、真莉亜!」
 
「真莉亜ちゃん!」
 
「真莉亜ちゅわ~ん♡」
 
「この中から、好きな方を選んで、好きな方の唇に、キスをしてくれ!」
 
え~!?
 
「『花田中文芸会史上、ものすごい展開が始まりました!』」
 
「『ベル役、春間真莉亜さんにキスされた方が、運命の王子様です!』」
 
ちょっ、放送部!勝手に話を変えるなっ!
 
「『果たして、真莉亜さんは、誰を選ぶのか!』」
 
「『真相は、CМの後!』」
 
飛ばしませんっ。
全く、ややしいことになったよぉ。
 
「ちょっとまったぁ!」
 
その声は・・・・・・。
 
「千葉のおじいちゃん!?」
 
「かわいいかわいい孫娘に手ぇ出すなど、ゆるさ―ん!」
 
千葉のおじいちゃん、乱入!
 
「こんな展開があるとは、聞いてないぞ!」
 
「誰だ、じじい。」
 
「私のおじいちゃんなの。」
 
「え~!?真莉亜ちゃんの、おじいちゃん~!?」
 
ギロさん、驚きすぎ。
 
「とにかく、おじいちゃん、じゃましないで。」
 
「いやだねーだ!かわいいかわいい孫娘とキスするなんて、ゆるさん!」
 
だめだ。言うことを聞きやしません。
 
「お父さん。恥をかかせないでくれる?」
 
千葉のおばあちゃん、登場!
 
「誰だ、このババア。」
 
ババア言うな―っ!
 
「私のおばあちゃん。千葉の方のねっ。」
 
「お前、じーちゃんとばーちゃん、何人いるんだよ。」
 
「真莉亜のお芝居をじゃましたら、だめですよ。」
 
「そ、そんなぁ~。」
 
おばあちゃんにひきつられ、おじいちゃんは退場。
これで、演技に集中できる。
私は、三人に顔を向けた。
この中から、私の運命の王子様が決まる。
ギロさんにキスしたら、ギロさんがその、運命の王子様。
ウルフ一郎さんは・・・・・・想像するたび、気持ち悪くなるから、やめとこ。
でも、もし、ギロさんにキスをしたら、リリアさんがやきもちやくから、やめとこ。
私の運命の王子様は、やっぱり、この人しかいない。
私は、ゆっくり歩き始めた。
そして、ある人の前に立って、ゆっくり目を閉じて・・・・・・。
チュッ・・・・・・。
熱いキスをした。
キスをしたのは、ジュンブライトだ。
この人しか、一緒に魔法を解けることが、できない。
ジュンブライトは、それにつられて、目を閉じて、私をギュッとだきしめた。
チュッ、チュッ、チュッ、チュッ、チュッ・・・・・・。
ジュンブライトは、どんどん私の唇に、キスをしてくる。
大好きだよ、ジュンブライト。
 
 

 
 
 
数日後。比奈多さんが、お礼をしにやって来た。
 
「先週は、どうもありがとうございました!」
 
比奈多さんは、ジュンブライトに向けて、お辞儀をした。
 
「おかげで、大好評でしたわぁ。」
 
「いやぁ、それほどでもぉ、アリアリだぜ。」
 
もう、調子に乗っちゃって。
 
「前回は大好評だったので、また、一緒に劇をやりましょう!」
 
え―っ!?
 
「またやんのか?」
 
「えぇ。」
 
はぁ・・・・・・今度はなにをするんだろ。
 
「俺は、『黒魔女さんが通る!!』がいいなっ。」
 
「いいえ。『黒魔女さんが通る!!』では、ありませんわ。」
 
「じゃあ、なんなのさ。」
 
比奈多さんは、にっこり笑った。
 
「『走れメロス』ですわっ。」
 
「メロスだとぉ~!?」
 
「いいじゃない、ジュンブライト。」
 
私は小声で言った。
 
「いいじゃないじゃねぇよ!はぁ、今度は何役なんだ。」
 
「主役ですわ!」
 
「主役だとぉ~!?」
 
ジュンブライト、よかったね。
 
「よかったねじゃねぇよ!ったく、メロスの声の人の声に似ているからか?」
 
「あら、やだ。」
 
「図星かい!」
 
うふふふふ。
 
「はぁ、俺、劇はもうあきたぁ!」
 
ジュンブライトの大きな声が、青空まで響いた。
 
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