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第1話:転校生は魔獣ハンター!-月光怪鳥ルナキラス登場-(前編)
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命星小学校五年生、冬木はじめの身に起こったことを語ろうとするならば、いささか順序を追って話さなければならない。
生涯で一度しか味わえないその日々に、彼がどれほど恐ろしく、また不可思議な事件に遭遇したのかということを。
すべての始まりは九月、二学期に入ってすぐの出来事だった。彼とその友人がいるクラスに、突然ひとりの転校生がやって来たのだ。
「……上城ひかるです。これからお世話になります」
転校生というのは女の子、しかも美少女だった。同い年の子たちから見ても瑞々しくツヤのある肌に、クッキリとした眉目、後頭部で揺れるポニーテールと、膝よりも短いハーフパンツ、更には全体としては小柄なのにすらりと伸びた健康的な素足。
少女はしかし、抑揚のない声で挨拶したことで分かるように、決定的に不愛想だった。
ニコリともせずに形式上だけ頭を下げると、殆んど特に質問を受け付けるような姿勢もなく、ひとつだけ空いていた窓際の席めがけて真っ直ぐに向かっていき、誰に断るでもなくさっさとそこに座り込んでしまった。
教室中が流石に少々ザワついていたが、冬木はじめにとっての問題はより一層深刻だった。何しろ上城ひかるが座ったのは他でもない、はじめのすぐ左隣にある席だった。平たく言えばいきなり転校生とペアになってしまったのである。
はじめは少しの間戸惑っていたが、お隣さんには違いないのだからと、その大きなメガネを押し上げ、意を決して話しかけてみることにした。
「あの、冬木はじめです。よろしく……」
上城ひかるは一瞬だけこっちを見たが、たちまち不機嫌そうな鋭い目つきになり挨拶を返すどころか秒でそっぽを向いてしまい、そのまま永久に黙り込んでしまった。
はじめはちょっと泣きたい気分になったが、次第にそうも言っていられなくなった。授業が始まってすぐ、今日来たばかりの転校生は教科書を持ってないのではと気付いたのだ。
横目でそっと少女の様子をうかがうと、転校からわずか数分足らずで上城ひかるは机の上に突っ伏し、暖かなお日様の光を浴びて堂々と寝こけていた。
一番近くの自分の耳にだけ届いてくる、すぴすぴという終始穏やかな寝息。それを聞いているうち、はじめはやがて何もかもがどうでも良くなってしまった。彼はそれきり、少女に干渉しようなどと思うのはやめることにした。
が、こんなのはまだまだ序の口に過ぎなかったのである。
早くも一時間目が終わり、隣の席に目をやると何故か上城ひかるの姿がそこにない。思わず辺りを見回すが彼女を発見することは出来ず、奇妙な転校生と取り敢えずお近づきになろうと集まって来たクラスメイトたちにその行方を尋ねられても、はじめ自身が一層混乱するばかりだった。
そうこうしている間にチャイムが鳴り、二時間目が始まると、本当にいつ戻って来たのやら上城ひかるはキチンと席についていて、そしてあっという間に再度のぐっすりお昼寝タイムに突入してしまう。
今度ばかりははじめも気になって、授業の終わりが近づく頃から上城ひかるの方をなるべく注視していることにした。ところがチャイムと同時に起立、礼を済ませてみるとやっぱり彼女の姿が消え失せている。ほんの一瞬でも目を離そうものなら、上城ひかるは光の速さで行方不明となってしまい、授業の度に戻って来ては眠り、そしてまた消えるのを繰り返す。もはや何のために学校へ来ているのかさっぱり分からない。
そうした状況が、転校初日から数えてなんともう三日間も続いていた。
「はじめ、上城さんのことをどう思う?」
三日目の昼休み。教室の掃除をしていると、はじめは出し抜けに話しかけられる。背が高く横幅も広いが、キラキラした目つきが無邪気で穏やかな印象を与える友人、宮内究太郎だ。
はじめは悪い予感を覚えた。究太郎がこういう言い方をしてくる時には、大抵ロクでもない話題が多いのだ。
「隣の席にいて、何か怪しいところとか無かった?」
「怪しいって……そりゃ正直、不思議な子だなぁとは思ってるけど」
「ひょっとしたら、レプティリアンなのかもしれない」
「はァ!?」
思わず声の裏返ったはじめに、同じく教室を掃除していたクラスのみんなの目線が集中する。はじめは恥ずかしくなって、咄嗟に声を小さくして訊き返した。
「もっかい言って。聞き間違いだよね?」
「レプティリアン、つまりあの子は宇宙から来た爬虫人類なんだよ。人間に紛れて密かに地球侵略のタイミングを狙ってる可能性がある」
「究太郎さ、それ本人の目の前で絶対に言うなよ?」
はじめはなるべく強めにクギを刺す。転校してきたばかりの女の子が実は宇宙のトカゲ星人なんだ! ……などと言いふらしたら、殆んどイジメの類である。万が一に本人に泣かれでもしたら、むしろこっちが一か月はクラスの女子から陰口のターゲットにされ兼ねない。
「レプティリアンはコミュニケーションが下手なんだって」
究太郎は尚も食い下がってくる。
「あんな美人なのにさ、周りをにらんでばっかりで誰とも喋らないなんて、不自然じゃないかな? きっと何か秘密があるんだよ」
「分かるけど、だとしてもレプティリアンはやめとけって」
それに、とはじめは心の中で反論した。
起きている間はともかく、寝ている時の姿は普通に可愛かったと思う。その子の正体が実はトカゲ姿の侵略宇宙人だなんて、ちょっと信じたくなかったのだ。
けれどはじめは、この時まだ気が付いていなかった。究太郎の戯言が、当たらずとも遠からずだったことを。上城ひかるが如何なる秘密を抱えて転校してきたのかを。
そしてはじめは、後に知ることとなった。
子どもは狙われている。世界にうごめく無数の怪物たちから、今この瞬間も……。
生涯で一度しか味わえないその日々に、彼がどれほど恐ろしく、また不可思議な事件に遭遇したのかということを。
すべての始まりは九月、二学期に入ってすぐの出来事だった。彼とその友人がいるクラスに、突然ひとりの転校生がやって来たのだ。
「……上城ひかるです。これからお世話になります」
転校生というのは女の子、しかも美少女だった。同い年の子たちから見ても瑞々しくツヤのある肌に、クッキリとした眉目、後頭部で揺れるポニーテールと、膝よりも短いハーフパンツ、更には全体としては小柄なのにすらりと伸びた健康的な素足。
少女はしかし、抑揚のない声で挨拶したことで分かるように、決定的に不愛想だった。
ニコリともせずに形式上だけ頭を下げると、殆んど特に質問を受け付けるような姿勢もなく、ひとつだけ空いていた窓際の席めがけて真っ直ぐに向かっていき、誰に断るでもなくさっさとそこに座り込んでしまった。
教室中が流石に少々ザワついていたが、冬木はじめにとっての問題はより一層深刻だった。何しろ上城ひかるが座ったのは他でもない、はじめのすぐ左隣にある席だった。平たく言えばいきなり転校生とペアになってしまったのである。
はじめは少しの間戸惑っていたが、お隣さんには違いないのだからと、その大きなメガネを押し上げ、意を決して話しかけてみることにした。
「あの、冬木はじめです。よろしく……」
上城ひかるは一瞬だけこっちを見たが、たちまち不機嫌そうな鋭い目つきになり挨拶を返すどころか秒でそっぽを向いてしまい、そのまま永久に黙り込んでしまった。
はじめはちょっと泣きたい気分になったが、次第にそうも言っていられなくなった。授業が始まってすぐ、今日来たばかりの転校生は教科書を持ってないのではと気付いたのだ。
横目でそっと少女の様子をうかがうと、転校からわずか数分足らずで上城ひかるは机の上に突っ伏し、暖かなお日様の光を浴びて堂々と寝こけていた。
一番近くの自分の耳にだけ届いてくる、すぴすぴという終始穏やかな寝息。それを聞いているうち、はじめはやがて何もかもがどうでも良くなってしまった。彼はそれきり、少女に干渉しようなどと思うのはやめることにした。
が、こんなのはまだまだ序の口に過ぎなかったのである。
早くも一時間目が終わり、隣の席に目をやると何故か上城ひかるの姿がそこにない。思わず辺りを見回すが彼女を発見することは出来ず、奇妙な転校生と取り敢えずお近づきになろうと集まって来たクラスメイトたちにその行方を尋ねられても、はじめ自身が一層混乱するばかりだった。
そうこうしている間にチャイムが鳴り、二時間目が始まると、本当にいつ戻って来たのやら上城ひかるはキチンと席についていて、そしてあっという間に再度のぐっすりお昼寝タイムに突入してしまう。
今度ばかりははじめも気になって、授業の終わりが近づく頃から上城ひかるの方をなるべく注視していることにした。ところがチャイムと同時に起立、礼を済ませてみるとやっぱり彼女の姿が消え失せている。ほんの一瞬でも目を離そうものなら、上城ひかるは光の速さで行方不明となってしまい、授業の度に戻って来ては眠り、そしてまた消えるのを繰り返す。もはや何のために学校へ来ているのかさっぱり分からない。
そうした状況が、転校初日から数えてなんともう三日間も続いていた。
「はじめ、上城さんのことをどう思う?」
三日目の昼休み。教室の掃除をしていると、はじめは出し抜けに話しかけられる。背が高く横幅も広いが、キラキラした目つきが無邪気で穏やかな印象を与える友人、宮内究太郎だ。
はじめは悪い予感を覚えた。究太郎がこういう言い方をしてくる時には、大抵ロクでもない話題が多いのだ。
「隣の席にいて、何か怪しいところとか無かった?」
「怪しいって……そりゃ正直、不思議な子だなぁとは思ってるけど」
「ひょっとしたら、レプティリアンなのかもしれない」
「はァ!?」
思わず声の裏返ったはじめに、同じく教室を掃除していたクラスのみんなの目線が集中する。はじめは恥ずかしくなって、咄嗟に声を小さくして訊き返した。
「もっかい言って。聞き間違いだよね?」
「レプティリアン、つまりあの子は宇宙から来た爬虫人類なんだよ。人間に紛れて密かに地球侵略のタイミングを狙ってる可能性がある」
「究太郎さ、それ本人の目の前で絶対に言うなよ?」
はじめはなるべく強めにクギを刺す。転校してきたばかりの女の子が実は宇宙のトカゲ星人なんだ! ……などと言いふらしたら、殆んどイジメの類である。万が一に本人に泣かれでもしたら、むしろこっちが一か月はクラスの女子から陰口のターゲットにされ兼ねない。
「レプティリアンはコミュニケーションが下手なんだって」
究太郎は尚も食い下がってくる。
「あんな美人なのにさ、周りをにらんでばっかりで誰とも喋らないなんて、不自然じゃないかな? きっと何か秘密があるんだよ」
「分かるけど、だとしてもレプティリアンはやめとけって」
それに、とはじめは心の中で反論した。
起きている間はともかく、寝ている時の姿は普通に可愛かったと思う。その子の正体が実はトカゲ姿の侵略宇宙人だなんて、ちょっと信じたくなかったのだ。
けれどはじめは、この時まだ気が付いていなかった。究太郎の戯言が、当たらずとも遠からずだったことを。上城ひかるが如何なる秘密を抱えて転校してきたのかを。
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