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28話
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(気持ちが重いな……)
リリアンヌとのお茶会での会話が心の中にずっしりと沈んでいる。
2日後に社交界デヴューが控えているのに……。
煌びやかなシャンデリア。
華やかな舞踏会。
綺麗に着飾った令嬢達。
何度も練習に練習を重ねた深いお辞儀を王族の前で披露する事で、社交界デヴューを果たした事になる。
(デヴューの為に練習を重ねてきたわ。
田舎者だと思われない様に何度も何度も練習して、そしてお父様とお母様の前で披露して。
とても綺麗なお辞儀だと二人とも声を揃えて褒めてくれたわ)
デヴューには憧れてはいる。
だけど……。
「リリアンヌとのお茶会の後、ラルフの使者から受け取ったメッセージカードには、ラルフが王宮の薔薇園を案内すると書かれていたけど、リリアンヌとの会話が脳裏から離れなくて断ってしまった。
王太子からのお誘いを無下に断るのは、到底許される行為では無いのは重々、承知だけど。
思い悩んでいる私を見兼ねて、イボンヌが機転を利かせてくれて、すんなりとラルフからのお誘いを辞退する事が出来て。
イボンヌには心から感謝しているわ」
ふう、と自然と深い溜息が零れる。
ラルフからの誘いを断った後、すぐにラルフから真紅の薔薇が届けられた。
ラルフ自らが薔薇を手折り花束にしたとラルフ付きの侍女からの言葉に、私は一瞬、言葉を失ってしまった。
目に見える愛情をラルフから捧げられている。
私がラルフに恋心を抱いていたら、ラルフから薔薇を捧げられた事に素直に喜んでいただろう。
だけど今はまだ、ラルフの想いに応える事が出来ない。
気持ちの整理が付かないから。
クリスタルの花瓶に生けられている薔薇に視線を注ぐ。
真紅の薔薇の花言葉は……。
頬が自然と赤く染まる。
情熱的なラルフの告白に胸の高まりと戸惑いを隠せない。
そして心の中で呟いてしまう。
モブな私がどうしてヒロインなんだろう……。
(ラルフはどうしてこうも私に執着するんだろう。
私が今、ヒロインの立ち位置にいるからとは思うけど、でも、本当は凡庸なエレーヌが王太子から熱愛されるなんて、有り得ない話なんだから。
ただのモブキャラであるエレーヌが……)
そう。
本当はリリアンヌがラルフに執着され愛を囁かれる筈なのに、私が転生した所為でリリアンヌの運命が狂ってしまった。
もし私が紗雪の記憶を思い出さなければリリアンヌは10年前に生を受ける事なく、物語通りにエレーヌと同時期に生を受けていた。
きっとそうに違いない。
だったら、マリーベルはどうなんだろうと思ってマリーベルの事を調べたら、エレーヌと同じ歳で生を受けている。
「貴方に心ときめいて」ではリリアンヌよりも一歳年下だった設定だったのに。
全てが狂い始めている。
リリアンヌも、マリーベルも、そしてラルフも……。
だったらこれから先、もしかしたら出会うかも知れない、主要キャラ達も公式の性格とは違う可能性が高い。
私が好意を抱いていたジェラルドだって、もしかしたら。
(駄目だわ、紗雪。
悩みすぎて息が詰まる。
気分転換に王宮の庭園を散策しに行こう)
窓を開けるとパステルカラーの様に美しい夕暮れに目を細める。
「夕方になると少し肌寒くなるから、ストールを持って行こう」
***
「もう少し先に行くとラルフが案内しようとしていた薔薇園があったかな?」
ゲームでは社交界デヴューの後、ラルフはリリアンヌを誘い、こっそりと舞踏会から抜け出して薔薇園に行くんだよね。
色鮮やかで芳しい薔薇を二人で見ていたらラルフが急に立ち止まって真紅の薔薇を手折りリリアンヌに捧げるの。
熱い眼差しでリリアンヌを射抜くラルフの、壮絶な色気に思わず叫びそうになってしまって。
流石主要キャラ。
目力がハンパないって、床をだんだんと叩きながら叫んでいたっけ。
ふふふ、とつい笑っていると、甘い花の香りに誘われる。
(良い香り。
何の花だろう……)
芳香の先に向かうと咲き綻び始めている花々が目に映る。
闇に包まれた庭園に淡い光の様に、咲き誇っていて。
ジャスミンに似た甘くて上品な薫りに鼻腔が擽られる。
「この花は……」
「……、もう少ししたら、開花する」
背後からかけられる言葉に、私は振り返る。
意外な人物の登場に一瞬、言葉を失い身体が硬直して身動きが取れない。
大きく目を見開き、声の主を呆然としながら見詰めてしまう。
「月下美人と言う」
「え……」
「この花の名前だ」
静かに語る声が、夜の帳が下がった庭園に響く。
宵闇に輝く白銀の髪。
静謐な迄に美しい、月の化身。
「お前は誰だ……」
私は、と言う言葉が出ない。
釘付けになってしまう。
余りにも麗しい美貌に。
(第2王子、ルーファン……)
咲き綻ぶ月下美人に囲まれながら、私はただただじっとルーファンを見詰めていた。
リリアンヌとのお茶会での会話が心の中にずっしりと沈んでいる。
2日後に社交界デヴューが控えているのに……。
煌びやかなシャンデリア。
華やかな舞踏会。
綺麗に着飾った令嬢達。
何度も練習に練習を重ねた深いお辞儀を王族の前で披露する事で、社交界デヴューを果たした事になる。
(デヴューの為に練習を重ねてきたわ。
田舎者だと思われない様に何度も何度も練習して、そしてお父様とお母様の前で披露して。
とても綺麗なお辞儀だと二人とも声を揃えて褒めてくれたわ)
デヴューには憧れてはいる。
だけど……。
「リリアンヌとのお茶会の後、ラルフの使者から受け取ったメッセージカードには、ラルフが王宮の薔薇園を案内すると書かれていたけど、リリアンヌとの会話が脳裏から離れなくて断ってしまった。
王太子からのお誘いを無下に断るのは、到底許される行為では無いのは重々、承知だけど。
思い悩んでいる私を見兼ねて、イボンヌが機転を利かせてくれて、すんなりとラルフからのお誘いを辞退する事が出来て。
イボンヌには心から感謝しているわ」
ふう、と自然と深い溜息が零れる。
ラルフからの誘いを断った後、すぐにラルフから真紅の薔薇が届けられた。
ラルフ自らが薔薇を手折り花束にしたとラルフ付きの侍女からの言葉に、私は一瞬、言葉を失ってしまった。
目に見える愛情をラルフから捧げられている。
私がラルフに恋心を抱いていたら、ラルフから薔薇を捧げられた事に素直に喜んでいただろう。
だけど今はまだ、ラルフの想いに応える事が出来ない。
気持ちの整理が付かないから。
クリスタルの花瓶に生けられている薔薇に視線を注ぐ。
真紅の薔薇の花言葉は……。
頬が自然と赤く染まる。
情熱的なラルフの告白に胸の高まりと戸惑いを隠せない。
そして心の中で呟いてしまう。
モブな私がどうしてヒロインなんだろう……。
(ラルフはどうしてこうも私に執着するんだろう。
私が今、ヒロインの立ち位置にいるからとは思うけど、でも、本当は凡庸なエレーヌが王太子から熱愛されるなんて、有り得ない話なんだから。
ただのモブキャラであるエレーヌが……)
そう。
本当はリリアンヌがラルフに執着され愛を囁かれる筈なのに、私が転生した所為でリリアンヌの運命が狂ってしまった。
もし私が紗雪の記憶を思い出さなければリリアンヌは10年前に生を受ける事なく、物語通りにエレーヌと同時期に生を受けていた。
きっとそうに違いない。
だったら、マリーベルはどうなんだろうと思ってマリーベルの事を調べたら、エレーヌと同じ歳で生を受けている。
「貴方に心ときめいて」ではリリアンヌよりも一歳年下だった設定だったのに。
全てが狂い始めている。
リリアンヌも、マリーベルも、そしてラルフも……。
だったらこれから先、もしかしたら出会うかも知れない、主要キャラ達も公式の性格とは違う可能性が高い。
私が好意を抱いていたジェラルドだって、もしかしたら。
(駄目だわ、紗雪。
悩みすぎて息が詰まる。
気分転換に王宮の庭園を散策しに行こう)
窓を開けるとパステルカラーの様に美しい夕暮れに目を細める。
「夕方になると少し肌寒くなるから、ストールを持って行こう」
***
「もう少し先に行くとラルフが案内しようとしていた薔薇園があったかな?」
ゲームでは社交界デヴューの後、ラルフはリリアンヌを誘い、こっそりと舞踏会から抜け出して薔薇園に行くんだよね。
色鮮やかで芳しい薔薇を二人で見ていたらラルフが急に立ち止まって真紅の薔薇を手折りリリアンヌに捧げるの。
熱い眼差しでリリアンヌを射抜くラルフの、壮絶な色気に思わず叫びそうになってしまって。
流石主要キャラ。
目力がハンパないって、床をだんだんと叩きながら叫んでいたっけ。
ふふふ、とつい笑っていると、甘い花の香りに誘われる。
(良い香り。
何の花だろう……)
芳香の先に向かうと咲き綻び始めている花々が目に映る。
闇に包まれた庭園に淡い光の様に、咲き誇っていて。
ジャスミンに似た甘くて上品な薫りに鼻腔が擽られる。
「この花は……」
「……、もう少ししたら、開花する」
背後からかけられる言葉に、私は振り返る。
意外な人物の登場に一瞬、言葉を失い身体が硬直して身動きが取れない。
大きく目を見開き、声の主を呆然としながら見詰めてしまう。
「月下美人と言う」
「え……」
「この花の名前だ」
静かに語る声が、夜の帳が下がった庭園に響く。
宵闇に輝く白銀の髪。
静謐な迄に美しい、月の化身。
「お前は誰だ……」
私は、と言う言葉が出ない。
釘付けになってしまう。
余りにも麗しい美貌に。
(第2王子、ルーファン……)
咲き綻ぶ月下美人に囲まれながら、私はただただじっとルーファンを見詰めていた。
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