「貴方に心ときめいて」

華南

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29話

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(ど、どうしてここにルーファンが居るのよ!
こ、こんな展開、リリアンヌの時には無かった。
どうしてエレーヌがルーファンと出会っているの?)

ドキドキと早鳴る心音を落ち着かせるのに私は必死になっていた。

有り得ない展開だわ、こんな。
ルーファンと出会うなんて。
それも社交界デヴューの前に会うなんて。

(ラルフとの親密度が高まっている今、ルーファンとの出会いが発生する事は「貴方に心ときめいて」では無かった。
ラルフとルーファンは対極の関係だから。
だから、今、ルーファンと出会うなんて、私がラルフとの親密度が低く無ければ絶対に発生しない。
なのに何故、今、ここで出会っているの?
私がラルフに対して恋心を抱いていないから、ルーファンと出会ったと言う事?
それが親密度が低いとみなされるの?
分からない……)

動揺する気持ちを抑えながら私は、恐る恐るルーファンの横顔を見詰める。

さらさらと流れる様に美しい銀髪。


すっと鼻梁が通った怜悧な美貌。
そこに居るだけで静謐な空気を漂わせている。

ラルフが光輝く太陽としたら、ルーファンは宵闇に浮かぶ神秘的な月だわ。
正に太陽と月の様な存在。

まるで幻を見ている様な感覚でルーファンを見ていると、ふわり、と鼻腔を擽る薫りに我に帰る。

「何て甘い薫り……」

呟く私に、ルーファンの目が見開いていく。
動揺を隠せない。
いつの間にか距離が縮まり目の前にルーファンが立っている。

「え……」

とくん、とくん。

やけにリアルに心音が聴こえる。
私の心臓の音?
それともルーファンの……。

「……やっと見つけた」

微かに囁く言葉が何を言っているのか私には聴こえない。
目の前に立つルーファンが真摯な目で私を見詰めている。

(ど、どうしてそんな目で私を見詰めるの?
ルーファンとは初めて会うのに、何故?)

淡い光に照らされた月下美人の花々が咲き乱れ、私とルーファンの周りを濃厚な薫りで包んでいる。
むせかえる甘い薫りに思考が霞んでいく。

(月下美人の薫りに酔ってしまう。
なんだか、頭がくらくらする)

ふと、足元がふらつきよろめく私をルーファンが抱きとめる。
ルーファンの胸に抱かれてた私は、突然の展開に思考が真っ白に染まる。
抱き止めたルーファンが私を抱き締める腕の力を強めていく。

「え、私……」

さっきよりも速まっている心音に私はぴくんと身体を震わす。
ルーファンの心音が間近に聴こえて、私の心音も呼応するかの様に速まっている。

「……」

「あ、あの、もう大丈夫なので、離していただけませんか?」

「……」

「あの、ルーファン様……」

私の言葉に、ルーファンの身体に動揺が走る。
私がルーファンの名前を知っている事に驚きを隠せない。

抱き締める腕の力が緩みホッと息をついていると、ルーファンが私の頤に手を掛ける。
目の前にルーファンの美麗な顔が迫っている。

吐息が私の頬を掠める。

何が?と思った途端、唇に暖かい感触。

(え、私……)

キスされている。
ルーファンに。

え、ど、どうして!

見開いた目にルーファンの宝石の様に美しい水色の瞳が映っている。
一瞬、脳裏に過った言葉に囚われる。

確か、ルーファンの瞳はであった筈。

それも一瞬の事。
深まるルーファンとの口付けに私は抵抗する術を失ってしまう。

月下美人の花々に包まれながら私は、初めてのキスをルーファンに奪われたのであった。
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