まるでシンデレラの姉の様に

華南

文字の大きさ
10 / 22

10

しおりを挟む
慧が帰った後、柊哉は母である園子の部屋へと重い足を運ばせた。
部屋に入るなり、園子が自分に冷ややかな視線を注いでいる事を感じた。

「……、母さんまで俺を非難するのはやめて下さい」

深い溜息を零しながら園子に言う柊哉に園子がくつり、と笑う。

「あら、あれ程、自信満々下に瞳ちゃんのアパートを訪ねて行った貴方が、瞳ちゃんを連れて帰る事が出来なかったなんて……。
口と行動が伴っていないなんて、貴方らしくも無い」

「その言葉、慧からも散々言われました。
それ以上、聞くに堪えられないと言えば母さんは満足ですか?」

「別に満足とは言わないけど。
でも、瞳ちゃんに会えるのを心から待ち望んでいた私たちにとって、落胆すべき事柄と思っているわよね?」

ちくちくと厭味を言う園子が、どこか自分をからかっている節が見受けられる。
渋々、瞳を連れて帰れなかった理由を伝えると、一瞬、園子の顔が強張った事を感じた。

「泣き叫ぶ義理の姉に圧倒され、瞳ちゃんを連れて帰る事が出来なかった訳ね。
さすが、鮮やかと言うか、末恐ろしいわね、彼女。
母親がホステスで相当な性悪だと報告書で知って瞳ちゃんの身が心底案じたわ。
財産を全て奪って離婚したんでしょう?
その女の娘よ。
今後、瞳ちゃんに何を強要するか考えただけでぞっとする。
早めに手を打って瞳ちゃんから引き離しなさい」

母親の言葉に柊哉はうんざりした様子で答える。

「その言葉も散々慧から言われました」

顔を顰めながら言う柊哉に園子が真剣な趣で諭す。

「何、そう露骨に嫌な顔をするの?
貴方にとってたった一人の従兄妹が危険な目に遭おうとしているのよ。
どうしてそう冷静で居られるの」

「……」

「私はね。
比沙ちゃんにも瞳ちゃんにも許されない過ちを犯したの。
もし、私が慧君の母親である久美子を櫂さんに紹介しなかったら、比沙ちゃんは櫂さんとそのまま結婚していた。

……。

比沙ちゃんの櫂さんの気持ちはずっと知っていたわ。
子供の頃からの付き合いだったから。

その比沙ちゃんの恋を潰したのは私の所為。
もし、久美子を引き合わせなかったら比沙ちゃんは家を出る事は無かった。
あんなに早くこの世を去ることなんて無かったの……。
悔やんでも悔やみきれないとはこの事を言うのよ。

だから私は責めて瞳ちゃんには幸せな人生を歩んで欲しいの。
慧君が心から瞳ちゃんを愛し望むのなら、当然手助けもするわ。

だけど、慧君が瞳ちゃんに対して抱いてる感情は本当の意味での愛ではない。
根本にあるのは比沙ちゃんに対する罪悪感。
それを瞳ちゃんを愛する事で償おうとしている。
そんな痛々しい想い、久美子も気付いているから私も辛くって」

「そのようなものですか?
慧の言葉を聞くとそのように感じる事が出来ないのですが」

抑揚の無い声で尋ねる柊哉を園子はきっとねめつける。

「もう、恋愛感情に乏しい貴方に男女間の事を言っても無駄だと何時も思うわ。
本当にあの透哉さんの息子とは思えない。
どうしてこんな男に育ったのかしら」

貴女達の異常なまでの仲の良さにうんざりしてこうなったとは、口が裂けても言えない。
子供の頃から父親が母に対して恥ずかしげも無く囁く愛の言葉が一般的だと幼い頃は思ったが、成長するに連れて周りの家庭の話を聞き、自分の家族が如何に暑苦しいまでのラヴラヴ状態なのか知り、恥かしくなったのが発端だ。
未だに隙あれば園子に口づけする透哉に、いい年した親父が……、と心の中で舌打ちしたのは何時からだろう。

そんな父を見て育った所為で柊哉は恋愛に対して、感情を持てなくなっていた。
父の様に、激しいまで心を奪われる存在に出会っていないのが柊哉の性格をそうさせている事は本人だけが気付いていないだけで、回りは柊哉が運命の相手に出会えば、父親以上に独占欲の塊と化すると信じて疑っていない。

「そろそろお暇をしても構わないでしょうか?
俺も明日は早めの出勤をしないといけないので」

逃げるように話を折る柊哉に園子が仕方ない子ね、と不満げに言葉を吐く。
これ以上何を言っても無駄だと悟った園子は、早めに瞳ちゃんをあの女から奪ってきてね、と念を押し柊哉を解放した。

自身の部屋に戻った柊哉は着替えもせず、そのままベットに突っ伏した。
几帳面な柊哉とは思えない行動だ。

「ああ、理解しがたい人物との会話がどれだけ神経をすり減らすか。
慧にしても、母にしても、そしてあの女にしても、だ」

泣きながら幸福論を語って自分に食って掛かった美夜の泣き顔が、柊哉の脳裏から消え去る事が出来ない。

何故、こんなに痛烈にあの顔を思い出すのだろうか?

あの感情を爆発した美夜の泣き顔が。

「考えても何も浮かばない。
悩むだけ無駄だ」

いつの間にか睡魔が襲う。

今まで、26年間の人生の中で柊哉は服も脱がずそのまま寝入ってしまうと言う経験をした事を、次の朝、柊哉は知ることになる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

鳴宮鶉子
恋愛
辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

訳あり冷徹社長はただの優男でした

あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた いや、待て 育児放棄にも程があるでしょう 音信不通の姉 泣き出す子供 父親は誰だよ 怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳) これはもう、人生詰んだと思った ********** この作品は他のサイトにも掲載しています

処理中です...