Machine& Mercenary

タクティカルおじさん

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Mission1-1

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心地良い揺れ。
空に響くローター音。
意外と静かで快適なカーゴ内部。

私は現在、傭兵会社DOに寄せられた依頼によりヘリで輸送されています。
うん。
勿論だがこのヘリはあくまで送迎用、私物じゃない。

今回の依頼は極単純。
無人施設不法占拠者の排除。
これから再利用の為に調査と工事しようって所ではぐれ者たちに施設を奪われたらしい。
人数はおよそ20人、生死は問わず。
よりゲーム的に言うなら"モンスター討伐クエスト"である。
全員銃で武装している為難易度は高めのミッションだが、あくまで「序盤では」と付く。
普通に買って普通にプレイ始めたら拳銃くらいしか装備無いはずだし、このミッションは手が出し難いはずだ。

このゲームのミッションにはランクが付いている。
Sを最高ランクとして難易度の高い順にA.B.C.D.E.Gといった感じだ。
今回のミッションはEランク。
他のミッションと比べ少し高め。
ある程度装備が整ってきたら力試しにやるような難易度だ。
本来ならやるもんじゃないが、現在の私は初回特典によって少しだけ優位に立ち回れる。
それにGランクだと近接装備のならず者の制圧とかそんなんばっかだったから、ある程度歩兵戦の経験値を詰めるこの依頼にしたんだ。
このゲームの武装した歩兵がどんな動きするのか知りたいしね。

ヘリが一瞬揺れると小窓から見える景色が下に下がり始める。
どうやら到着したらしい。
着陸の際の振動で揺れたと思ったら扉が開いた。
私もハーネスを外して外に出る。

『いいか、今から3時間後に回収に来る。乗り遅れるなよ?』
「ん、あいあいさー」

ヘリが地上を離れていく。
施設は・・・・・・まぁこんなもんの距離だよね。

「・・・・・・乗り遅れないように頑張るかー」

私は気を引き締めて無人施設へと走り始める。
今回の作戦領域である無人施設は昔発電施設として利用されていたらしい。
見た感じ複数のソーラーパネルが見えるから太陽光発電システムを活用した発電施設なんだろう。
茂みに身を隠しながらマルチグラスの機能の一つ、望遠機能を利用する。
このグラス、スコープにサーモ、投影機能の他にも様々な機能が付いている。
お値段に見合った多機能振りである。

スコープを利用して周囲を探れば、外に歩哨がいるのを確認できた。
見張り台に一人、ゲート前に一人。
見張り台の奴は寝てるのか知らんが一定の方向から動かない。
音を立てなければ行けそうだ。
ゲート前の奴は死角も多いから目線に気を付けて身を隠しながら移動すれば大丈夫だろう。
ソーラーパネルの影や塀の下に隠れながらゲート前の奴に近づいていく。

「お休み」

後ろから膝裏を蹴りナイフで突き刺して喉元を掻き切る。
これで声も出せないし確殺可能だ。
居眠りしていた見張り台の男も同じように刺殺した。
サプ無いからね。
買っとけばよかった。

ノードを扉横の端末に翳してゲートを開ける。
ここからはバレても問題はない。
寧ろ集まってもらった方が探す手間が省ける。
何故なら銃弾がポーチの分だけフル装填されていたからだ。
どうやらポーチの数だけ弾薬が自動で補充される仕組みになってるらしい。
弾薬の項目が無かったわけである。
貰えるんなら無いよねそりゃ。

「てめぇナニモン・・・・・・!?」
「お疲れ」

警備室にいた男に拳銃を撃ちこむ。
アーマーを身に着けてないのか、ボディに3発撃ち込んだら動かなくなった。
とりあえず体力測定のつもりで初期装備のハンドガンを弱点以外に撃ってみたけど、装備を工夫したら意外とハンドガンでも行けそうだ。
ハンドガンをホルスターに仕舞って前方警戒。
さっきの銃声で気付かれたはずだから注意して進もう。

施設の電力は生きてるのか所々に照明が点いていて視界は悪くない。
暗くてもライトがあるし、最悪グラスの暗視機能もある。
けど視界が良い事に越したことはない。
別にもう不意打ちする必要は無いからね。

素早く警備室を抜けて中央エントランスを走り去り左側の通路に入っていく。
エントランスは広く二階の渡り廊下から撃ち下ろされる危険性があるので不利になる。
通路出てすぐに敵がいたのでライフルで射殺、奥からも出てきたので小部屋に入りカバーリングポジションを取った。
扉を開け放ち二人で並んでフルオート射撃してた奴らは弾が切れたのかリロードに入った。
その隙を見て半身だけ出してライフルで三発ずつ撃ち込んで排除。
彼らがいた方に足を進める。

扉を超えて死角をカバーするようにクリアリングし、別れ道を右へ。
角に当たったので目が壁際から出るように一瞬顔を出して安全確認。
誰もいない通路を素早く移動――

「終わりだ――」
「そうだね」

待ち構えていた敵を即応射撃。
排除したら敵が隠れていた角に身を寄せて少し顔を出す。
軽快な発砲音で即座に顔を隠す。
かなり弾が散っている事からマシンピストル、それもかなり粗悪な代物のようだ。
試作品とはいえ軍用ライフルの敵ではない。
発砲音が鳴り止んだ瞬間に右腕に持ったライフルのストックを左肩に当てて半身で射撃、銃を片手に狼狽える男を始末する。

「・・・・・・ジャムなんて運が無いね」

薬莢が挟まった銃を横目に進んでいくと、誰かの怒鳴り声が聞こえてくる。
どうやらこの先の部屋で何か言い争いをしているらしい。
私は何時でも突入できるように扉の傍にポジショニング。
フラググレネードを取り出し、ピンを抜いた。

「誰かいますかー?」

扉を少し開けて中に投擲。
すぐに扉を閉めて傍に逃げる事で爆発をやり過ごす。
歪んだ扉を蹴破って突入して瞬時にクリアリング。
誰もいない、隠れてもいないのを確認して少し安堵する。

「いなくなったねぇ」

とりあえず大丈夫そうなのでメニューを開いて内容を確認。
うん、大丈夫。
目標数に無事達している、ミッションは成功だ。

マガジンの残弾数を確認。
底が見え始めてるので念の為リロードしておく。
一応ミッションは成功してるし、後は回収地点に戻って待ってるだけでいいのだが……

(・・・・・・時間は、ちょっと余り過ぎなくらいだね)

少し弾を使い過ぎた感もある。
アーマーの無い相手に三発ずつ撃ち込むのはどう考えてもオーバーキルだ。
現実で運用されてる5mmや7mmならまだ分かるが、9mm近いライフル弾を生身に三発なんてリアルならどうなってるか。
口径の近い銃で言うならDSR-1だろうか?
あれの口径は8.58mm・・・・・・狙撃用ライフルなので炸薬量的にもストッピングパワー的にも比べるのは大袈裟すぎるが、あれを食らえば人間の肉体なんて簡単に弾け飛ぶ。
それに近い9mm口径のライフル、オーバーキルだと言った理由が分かるだろう。
この銃のストッピングパワーならセミオートで最低でも二発、一発ずつでも確殺できたはずだ。
従来の癖で思わず三点射で対応してしまったが、収支から弾薬費が引かれるとなると慎重にやらないといけない。

反省点を振り返りながら何気なく周囲を見渡す。
だがその最中にふと、視界に不自然な点が引っ掛かった。

「・・・・・・擦り後?」

資料保存用と思われる大きな棚。
その根元に重い物を動かしたような擦り傷が残っていたのだ。
それも何度か動かしたみたいな残り方。

(こういうのって、奥に何か隠してあるのが定番よね)

私は早速擦り傷に沿って押してみる。
少しだけ動いたのを確認。
動くと判断して一気に力を込めて棚をずらした。

「ビンゴ」

裏には人一人通れそうな通路が隠されていた。
マップを確認すると、丁度この先は施設中央部に向かっているみたいだ。
真っ暗で何も見えないが、ライトもNVGもある。
なんの問題もない。
時間も余裕がある事だし、少し探索してみるとしよう。

ライトのスイッチを押して前方を照らす。
少し進んだ先で下に向かうように掘り進められているようだ。
舗装されてる事もあって秘密の研究所っぽさが増してきた。
ライトを点けたまま左手を壁に沿わせて移動。
階段と思われる場所で一旦しゃがんで下の方へとライトを向ける。
・・・・・・割と深いな。

ライトをカチカチと小まめにオンオフしながら必要な場所を照らす。
どうにも一本道で灯りもない。
本当に通る事だけを考えて作ったような、そんな印象を受ける。

暫く降りていくと階段が途切れ、進路上に再び狭い通路。
だが奥が見えるな。
一番奥に両開きの大扉。
それも電源が生きてるのか非常灯が点灯している。
ライトを切って非常灯を頼りに進む。
敵を警戒して銃口は扉に向けたまま。
しかしそんな警戒を嘲笑うように何も出ない。
出てもらっても困るけどさ。

左扉にゆっくりと体を寄せ、耳を当てる。
物音は聞こえない。
ノブにそっと触れるが、感電も無いようだ。
今度はゆっくりとノブを回す。
何も起きない。
更に罠警戒でゆっくりと扉を動かす。
何かが突っ張ったような感覚は無い・・・・・・ワイヤートラップとかも無さそうか。

扉の隙間から明かりが漏れている事から中の部屋は未だ稼働状態である事が伺える。
隙間から右側を覗き込むが人はいない。
扉を押してすぐに銃を構えてクリアリング。
左無し、中央三か所遮蔽物気配無し、右側再確認物陰にも無し。

「オールクリア」

誰に報告するでもなく一人癖のように呟く。
見た感じ何かの管制室のようだが、用途は全く分からない。
奥にあるコンソールが稼働してるのでそれで確かめてみよう。
気になる所を片っ端から覗いて要所だけ抜き出して情報を纏めてみる。
ここはどうやら兵器実験施設だったようだ。
上階の発電施設を隠れ蓑に本来存在しない地下施設を極秘裏に埋設。
新型多脚戦車を開発していた。
試作機が幾つか出来ているらしいが・・・・・・

「これは・・・・・・動かないよねぇ」

防護ガラスの向こうに広がる広い空間に、四つ足の大型機が三機並んでいるのが見える。
しかしそれだけだ。
機体はモスボールされる事なく放置されたのか錆だらけ、一部の機体なんて関節をロックする機構が破損したのか足が外れて擱座してる始末。
一応状態だけでも見ておくか・・・・・・
実験区画立ち入り用の出入り口を慎重に開け、下へと降りていく。
上から見た感じ戦闘員はいないようだったから大丈夫だと思うけど念の為警戒しながら。

近くに寄ってみると結構でかい。
私自身、少々小柄なのを抜きにしてもでかい。
4、5mほどだろうか。
大型の旋回砲塔の左右に取り付けられた主砲だけでも私の何倍もの大きさで、口径に至っては10cm超えてない?
旋回砲塔の背面に付いてるのは通信装置と弾薬庫。
砲塔中央天板には無人運用の機銃が装備されている。
それに脚部側の底部に付いてるのは小型の対人無人機か?
それぞれ7mm程度の軽機関銃が取り付けられている。
錆びついてるが、実際に運用されたら歩兵にとっては脅威になっただろう。
脚部には引き出し式の安定脚も配置されてるみたいだし、砲塔基部は可動式で広く射角が取れるようだから険しい山岳での運用も想定されてそうだ。

メンテナンス用の窪みを利用して機体に上ってみる。
なんか使えそうなものが無いかと思ったんだよね。
外殻はこんなだし、内部もあんまり期待できなさそうではあるけど時間はあるからね。
錆び付いた搭乗用ハッチを力付くで抉じ開ける。
軸と密閉部が錆び付いてるのか滅茶苦茶固かったが、なんとか入り込めるだけの隙間を作れたのでそこから滑り込んだ。
中は割とミッチリ詰め込んであって、私が入ったのはキューポラという天部搭乗口兼車長搭乗席のようだ。
他にも三つ搭乗席があるが、運転席と砲手席だろうか?
どちらにせよ用があるのはこの車長席だ。
中は結構綺麗で、錆びや埃こそ目立つが変に破損している箇所は無い。

(さぁて、電源が生きてれば御の字ってとこだけど)

スクリーンパッドを叩くが反応無し。
電源を入れてみるが反応しない。
何年も放置されていて付くとは思っていないが、やっぱりダメか。
半ば諦め半分で非常電源らしき物を立ち上げた時だった。
若干掠れ気味ではある物の、スピーカーから軽快な音が鳴り始めた。
非常電源が生きていたようだ。
これ幸いにとMTTを有線接続してハッキングプロトコルを立ち上げる。
ハッキングの内容は対象のセキュリティレベルとこちらのハッキングスキルのレベルで上下する。
大体はミニゲームか謎解きの類だが、今回はいらいら棒みたいなミニゲームみたいだ。
焦らず、慎重に回る棒を左右入れ替えながら迷路に通していく。
物の三十秒足らずでクリア。
今回は簡単なミニゲームだった。
さて、初めてのハッキングだけどどうなるのかなぁと・・・・・・

『大型四脚機動戦車“アラーニャ”のハッキングに成功しました』
『情報を所属先に提供する事で新たな要素が解放されます』

突然のメッセージとMTTに表示された図面みたいな物。
どうやらハッキングしても情報の取捨選択をする必要は無いないらしい。
でも新たな要素の解放ねぇ・・・・・・
こういう隠し要素が色んな任務、もといフィールドの全てに存在するのかな。
宝探し、そういうのもアリだね。
色んな場所に配置された所謂“隠し要素”を暴き回るトレジャーハンター。
そういう路線もありかもしれない。
でもまだ始めて一日も経っていないからもう少し見て回ってから決めたい。
折角自由度の高いゲームだしね。

一つの可能性に閃きつつも、ハンドガンを抜いて頭半分と右手だけ外に出して目視で索敵。
高所、天板状に誰もいない事を確認して身を乗り出す。
同時にハンドガンをホルスターに収めて立膝でライフルを構える。
改めて周囲警戒をしつつ、ゆっくりとアラーニャから降りた。
奇襲は無い。
貰う物貰ったのでさっさと帰ろう。
そう思ってアラーニャから離れた時だった。

[部下が皆殺しにされたからどんな大部隊で来たのかと思いきや・・・・・・小娘一人とはな]

天井のスピーカーから放送。
咄嗟に管制室をチェック--いない。
周囲を索敵--場所にそぐわない監視目的のカメラを視認。
多分、あそこから遠隔で私を見てるんだ。
しかし・・・・・・

(なんかのイベント?それとも隠し要素発見でなんかトリガー踏んだ?)

よく分からないが、声質からして私を良く思っていないのは確かだ。
発言からしてあいつらのボスのようだから当然か。
だがボスがいるなんて聞いた事がない。
統率者がいるなら事前情報があるはずだ。
だがミッションの内容にそのような記述は無かった。
つまりこれは想定されていない事態であるという事。

[とはいえ結果が全てだ。だがお前が優秀な兵士だとしてどんな敵でも倒せるスーパーソルジャーにはなれん]
[それを証明してやろう]
「何を・・・・・・っ!?」

突然地面が揺れ出した。
姿勢を低くして重心を落とし、揺れに耐える。
だんだん揺れが強くなり、一番強くなった時にとんでもない物が壁から飛び出してきた。
壁の破砕音と同時に出てきたのは鈍く光る高速回転する棒状の鉄塊。
粉塵を撒き散らしながら現れた歪な、それでいて5メートルを超える鉄の巨体。

[この私自らな!]

それは装甲化され、かつ重武装を施されたパワーローダーだった。
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